第4話 商船の護衛

 俺とエクリ、二人でクエストを受けると、依頼人の商人と顔を合わせた。


「キンバリー商会のマタスと申します。この度はどうぞ、よろしくお願いします」


 商人のマタスが挨拶をすると、俺とエクリも自己紹介をした。


「あたしはエクリ。Bランク冒険者よ」


「カイルだ。ランクはD。よろしく頼む」


「ええと、パーティのリーダーは……」


 エクリがチラリとこちらを伺ってくる。


「エクリでいいだろ。冒険者としての経験もランクも、エクリの方が上だ」


「そ、そう? あたしでいいの?」


 頬を染め、どこか照れた様子でリーダーを引き受けるエクリ。


「では、道中よろしくお願いします、エクリさん」


 マタスが頭を下げる。


 頼りにされて気をよくしたのか、エクリがふふんと薄い胸を張った。


「まっかせなさい! あたしがいるからには、商船には傷一つつけさせないわ!」


 それから、細かな打ち合わせを終えると目的地であるユトランゼ星系まで向かうのだった。






 ユトランゼ星系までの航路も半ばに差し掛かったところで、商船から通信が入った。


「どうした?」


『それが……どうやらシールド発生装置が故障してしまったようで……』


「なんだと!?」


 画面の向こうではマタスが平謝りをしている。


『申し訳ございません……。出発前に確認したと思ったのですが……』


「機関士はいないのか?」


『本社より、人件費を削減しろと言われておりまして……』


 マタスがバツの悪そうな顔をする。


 別の画面ではエクリが難しい顔をした。


『どうしよう……。この先はワープを使うから、シールドが必要なのに……』


 ワープ航法を使用する際は、船体の安全確保のためにシールドが必須となっている。


 そのシールドが使えないとあっては、これ以上先へは進めない。


 誰もが言葉を失い、落胆する中、俺はシーシュポスに備え付けられた小型船のエンジンをかけた。


「マタス、そっちに有人小型船を接岸させる。準備してくれ」


『なにをするつもり?』


 首を傾げるエクリに、俺の名前が書かれた機関士の免状を見せた。


「装置を見させてもらう。この場で直せるようなら、修理する」






 商船に乗り込むと、シールド発生装置の置かれた機関室まで案内された。


「これは……ひどいな……」


 そこには、目を覆うような光景が広がっていた。


 シールド発生装置だけではない。エンジンや発電機からは油が漏れ出しており、他の機器からも異常が見て取れる。


「最後にメンテナンスしたのはいつだ? ……というか、最後にドックには入ったのはいつだ?」


「ええと……おそらく10年以上前だったかと……」


 普通、宇宙船は短くて3年。長くて5年おきにドックに入れなくてはいけないのだが、目の前の船は既に10年も入渠を怠っている。


 どうやらこの商会、余程ずさんな管理をしていたらしい。


「本社の連中に言っておけ。事故らせたくなかったら、少なくとも5年に一回はドックに持っていけってな」


 これ以上マタスを責めても何もならない。


 俺はシールド発生装置のカバーを外すと、内部の基盤が露わになった。


 分解を進め、故障の原因を解明していく最中、エクリから緊急通信が入った。


『海賊が出たわ!』


「なんだって!?」


 マタスをはじめ、その場に居合わせた商人たちが動揺する。


「そんな……このタイミングで来るなんて……」

「シールドも使えないのに、どうしたら……」


 俺は基盤を一つずつ外しながらエクリに尋ねた。


「数は?」


『ええと……5隻! まずいわね……。すぐに船に戻って! 戦闘態勢に入るわ』


「いや、ここでいい」


『は!?』


 エクリが――いや、エクリだけではない。その場に居たマタスや商人たちが面食らった。


「なっ……」

「自分の船が危険に晒されるのを承知の上で、この船に残ると言ってるのか……!?」

「いや、何か考えがあるのでは……」


 修理を進める傍ら、ナノマシンを通じてシシーに呼び掛ける。


「シシー、A1からA12までのドローンを展開してくれ」


『A1からA12までのドローンを展開。自動迎撃態勢に移行しますか?』


「……いや、A1、A2、A3でシーシュポスと商船の護衛。残るA4からA12で海賊を殲滅しろ」


『了解しました』


 視界の隅に表示されたウィンドウには、シーシュポスを中心に12個の点が広がっていくのだった。





 あとがき

 友達とスマブラをやっている際、自分がトイレに行ってる間アミーボに戦わせているみたいな感じです。

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