第28話 着いた
いや、やっぱり長いって。なんでだろ。いつもより学校が遠い気がする。雲も移動していったのか日差しを感じる。暑いよ暑い。初夏ってことなのかな。そういえば神奈川ってここより暑いのかな。地図帳に雨温図が載ってたはずだからそれ見れば分かるかな。今日は社会があったっけ。えっと、たしか――。あったはず。うん、あったはず。夜に教書と地図帳とノートを入れたはず。じゃあ教室に着いたら見てみよ。
あ、やっとここまで来た。あの大きな交差点を右に曲がれば学校が見えてくる。あー、でもこの信号長いんだよね。時間は、っと。朝の会まであと七分。普通に行けば間に合う。でも先生が来る前に地図帳見たいし、みんなこんなぎりぎりじゃないから早めに行っといたほうがいいのは確かなんだよね。いいよね、別に信号無視しても。車も自転車も歩行者もだれもいないから。うん、さっと通っちゃお。
ということで無事交差点を曲がって左手に中学の校舎が見えてきた。あとは自転車置き場がある南門の方まで回ればいいだけ。ここの信号は短いから待ってもいいけど――。あ、でも幼稚園児がいる。お母さんに手を引かれた。これは信号無視できないや。あの服なんて言うんだっけ。あの水色でふわっとした生地の。なんか懐かしいなあ幼稚園か。あのころはまだなんにも分かってなかったなあ。今も分かんないことだらけだけど、あのときよりは色んなことを知って、色んなことが分かるようになった。そりゃ当たり前なんだけどね。
でも同時に分かんないことも増えた気がする。昔はお腹空いたー、お母さんー、おやつー。これおいしくないー、いやだー。外で遊びたいー、雨だけど遊びたいー、みたいな感じだったのに今じゃこんな単純にはいかない。なんでなんだろう。
気が付いたらとっくに男の子とお母さんは横断歩道を渡り切っていて今度はこっちの信号が青になっていた。あわてて渡って校門をくぐる。そのままのスピードで自転車置き場に行ってスタンドを下ろし鍵を抜く。錆びついてて抜きにくい。自転車置き場がガランとしてるから毎朝そんなに遅れてないのかもって思うんだけど、それは錯覚で実際は自転車登校してる人が少ないだけ。そりゃそうだよね、あんな遠い所から来てる人なんて滅多にいない。
ガラガラガラ
弁当持参!!
後ろ黒板のチョークの文字が目に入る。
「舞ちゃんおはよー」
「あ、おはよー」
「どうしたの? あ、もしかしてお弁当忘れた?」
「う、うん」
「おそろー。コンビニに買いに行っちゃう? ほら行こ。めぐ、先生に私たちトイレ行ってるって言っといて~」
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