第27話 長い気がするだけ

 ねえ亜海はいま何をしてるの。何を思ってるの。もうこの時間には起きてるよね。まだ家かな。それとも私みたいに登校中? それとももう学校に着いてる? 亜海のことだから早めに着くようにしてるかな、やっぱり。考えても分かんないけどね、こんなこと。っていうか、朝四時まで通話してたのってもしかして学校が休みだからとかだったりするのかな。たしかに、それだったら朝のこと気にせずにおしゃべりできるしね。今から寝るってラインでは言ってたけど、あれは私みたいに仮眠するって意味だったのかそれとも八時間くらいお昼まで寝るって意味だったのか。分かんないことは分かんないってことだけが分かってる。


 やっとこの坂まで来た。今日はなんだか道のりが長い気がする。もしかしてスピードが遅くて時間がかかってるからそんな気がするのかも、と思って腕時計を見たけど時間は全然いつも通りだった。このままいけば朝の会には間に合うはず。制服の袖をまくって腕時計が見えるようにしたものの、左腕を振って袖を戻そうとしてもうまくいかない。まあ別にいっか。袖をあきらめたとき、この腕時計も亜海とおそろいって思い出した。

 私はピンクでかわいい感じの時計がよかった。盤面が小さくて細い革のベルトの。亜海は正反対だった。ごつごつしてるカッコいいデザインのが好きって。全体が硬い素材で覆われてるみたいな。メーカーの名前は忘れちゃったけど。いま着けてる腕時計の小さい文字を見れば分かるんだけど運転中にそれはさすがに憚られる。たしかあのときは私たちがうろうろしてるのを見て店員さんが声をかけてくれたんだっけ。店員さんが教えてくれたのは男性向けのなんとかっていうブランドの女性向けのシリーズだった。なんとかなんとかみたいな。無骨なデザインを残しながらも色遣いや盤面の大きさなんかは華奢で儚くて私たち二人にピッタリだった。


 その日の晩、それぞれの家に帰った私たちは親にこの時計が欲しいって言った。中学生になるんだし、というよく分からない理由は聞き入れてもらえなかったけど、店員さんからもうパンフレットももらっていたし、○○ちゃんも買ってもらってお揃いなの、と言うと二人とも許してもらえた。その代わり高校入学のときに新しい腕時計は買わないという約束だった。結局、高校云々の前に亜海は神奈川に行ってしまって中学校で他の人におそろいなんだと見せることもできなかった。でも、そういえばクラスメイトに腕時計してるんだ、めずらしいね。そのブランドさ――みたいな感じで話しかけられた。舞ちゃんっぽくないねと最後に言われて私はそうでしょ、と笑いながら返事をした。

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