第26話 ひとり前へ

 人がいない朝の山道。そこをいつも私は自転車を飛ばす。気分がいい日は歌ったりするのだけど今日はその気分がいい日ではないみたい。今日は特別準備が必要な授業とかもないし、委員会には所属しないつもりだから学活の時間に立候補するかどうかも悩まなくていい。もし誰もいなくてじゃんけんになったらそれまでだと思う。なんだろう、そういう運命っていうか。


 運命。


 今も自分が何気なく当たり前に使ったこの言葉はそもそも存在自体が信じる、信じないの対象なんだと最近知った。読んでいたマンガの中で、あの人は私の運命の人だと思うのとクラスメイトに嬉々として話す主人公をその友達がからかっていたのだ。その友達いわく運命なんてものはない。仮にあったとしてもそれは脆くてある意味、自分の好きなように変えれるのだという。だから運命なんて信じずにがんばるの。彼女はそう言っていた。

 努力の結果というのはそもそも運命で決まっていて、何なら努力するかどうか、どれくらい努力するかも運命で決まってるんだよ。私はそう言いたかったけど主人公はそっか、確かにそうかもと納得していた。物語としてはそこから主人公の眺めるだけの恋愛が積極的な恋愛になって発展していったから、まあそういうことなのかもしれないけど。

 運命というものを一度肯定すると、世の中のあらゆることに人間が介入することは不可能ですべてが決まっているということになる。電子辞書に収録されているぶ厚い百科事典か何かがそんなことを言っていた気がする。いや、それは「運命論」の説明だっけ。まあ、何にせよあらゆることを運命で説明できるのだという。


 それなら―—。


 亜海の引っ越しも元々決まっていたのではないだろうか。車のいない交差点で信号待ちをしながら、この流れは小学校卒業以来、何度も辿ってきたなと自分を俯瞰する。なんで私はこんな風にして毎回、亜海の引っ越しを説明したがるのだろうか。なぜ理由を見つけ出そうとするのか。まあ、答えは分かってる。なんで亜海が引っ越しちゃったのか分かんなくて、なんでそれを前もって教えてくれなかったのかが分かんなくて、もしかしたらそれは私のせいかもしれないと思ったりするから。

 なにか楽しいことがあったとき、おいしいものを食べたとき、亜海の顔が頭の中に浮かんできてその度に私の意識はこの考えに支配される。私はそれを何とかして追い出そうとするのだけど、中々追い出せない。それでも追い出したくて追い出したくて何かを犠牲にしてでも追い出そうとムキになる。

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