第25話 急ぐよ急ぐ

 ふうっ。走ったら近いんだね、この自販機まで。えっとねえ眠気覚ましに缶コーヒーとかがいいかな。微糖と無糖、それともカフェオレ―—あ、でも今から落ち着いて飲む時間は無いんだよね。缶じゃ一度開けたら持っていきづらいし、それならペットボトルがいい。でも、自販機で水を買うのも癪だし。お茶にしよう。この濃いなんとかみたいな。お金を入れてボタンを押す。その間に家にお茶が無いことを思い出した。どうせお母さんは買いに行かないだろうし、でもお茶が無いと機嫌が悪くなる気がする。じゃあ家用にも買って行こ。何なら二本。一リットルあればじゅうぶんだよね。三回ガコンと音が鳴った。その音が何だが私を焦らせた。腕時計を見るとそんなに余裕は無い感じ。急がないと。

 自販機の取り出し口からお茶を取ろうとするけど、その前に百円玉と五十円玉のお釣りを取って財布に――出すのも面倒くさいや。ポケットに入れる。それで左手で板を押さえながらお茶を取る。三本って持ちづらくない?


ベツァ


 あっ。落としちゃった。三本も買うんじゃなかったと心の中で悪態をついていると目の前にはやさしい顔をしたおばあちゃんがいた。拾ってくれたのでお礼を言う。こんな時間にいっつも人っていたっけ。でも私が気づいていないだけかもしれない。いつもは自転車で急いでるから。でも、今も急がないといけないのは変わらない。とりあえず、走ろ。


 さっき走った道をまた走って戻っていく。手には三本のペットボトル。はぁはぁ。さっきよりもきつい。なんで走ってんだろ、こんなとこ。ただ舗道されただけの車道、の脇を走ってる自分。なんなんだろう。そんなよく分からない問いに答えが出る前に家に着いた。鍵は掛けていないから勢いよくドアを開けて中に入る。そのままをテーブルに二本。


だんっ


お母さん、お茶。置いとくね。行ってきます。


 ドアの向こうに聞こえるように大きな声で言って自室にバッグを取りに行く。その間に自転車の鍵を取り出す。バッグは重いけどカゴに乗っけるからあんまり関係ない。


ガチャ


 今度はさすがに家の鍵を閉める。その鍵をほんとはバッグに仕舞わないといけないんだけど、そんな時間はほんとにない。仕方ないからポケットに入れる。


チャリン


 あ、お釣りもポケットに入れてたんだっけ。ま、気にしてる暇ないや。


ガチャ


 最近錆びついててイライラしてたんだけど、神様が味方してくれたのか今日はスムーズにいった。よし、早く行かないと。


ガタンッ


 スタンドを上げてぐんぐん漕ぎだす。特別行きたいわけじゃないのに、私はペダルを必死に踏みしめてる。そんな自分に気づいてしまった。

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