第23話 犬の退治

「今から寝るところ」


 そうやって亜海から返信が来たから私も寝ることにしよう。おやすみとだけ打ってスマホを充電器につないだ。あと一時間半後くらいには起きるからそれまで充電しとこう。

 外が少し明るくなって来たころに入るベッドはいつもなら罪悪感と自己嫌悪でいっぱいだけど、今日はそんなことない。亜海と通話したから幸せなんだ。だから何の問題も無い。睡眠不足になって果ててしまう未来が見えるけど、そんなのどうってことない。それよりも早く寝ないとね。結局、今日のお昼はどうしよう。お母さんは当然あてにならないし、道中で買っていけばいいかな。コンビニ弁当でも。そうしよう。それでいいや。

 充電器に差したスマホの画面をタップするときれいな青空の画面に数字が浮かんで来た。右上にはアラームのマークも表示されている。さ、一時間半は確保したいからね。寝よ寝よ。目をつぶって静かにしていると頭の中には亜海の声が響いている。やっぱり心地いいや。



 ねえ、ねえ。早く、早くしないと、舞。机の向こうにいるお母さんが喚いている。何を早くしないといけないんだっけと思ってお母さんが指さす方を見ると、リビングのドアに前足をつけて立ち上がっている茶色の大きな犬がいた。そうだ、この犬を何とかしないといけないんだった。こっち側に入ってきたら大変なことになる。お母さんも怯えちゃって使い物にならない。でも、どうしよう。ドアを開けたらこっちに入ってくるに決まってるし。そうこうしているうちにもドアがみしみしと音を立てている。古いアパートの悪いところだ。仕方ないな。私は決心してドアに近づく。それに気づいて犬の鳴き声はいっそう激しくなる。ワンワンなんてものじゃない。ワンワンとガオガオの間みたいな。


ドンッ


 私も負けじとドアの来の部分をパーで叩く。ちょっと痛いけどどうってことない。それは犬も同じみたいでびくともしない。じゃあ、もっと強く。そう思ってグーで殴るけどこれも効果なし。さっきの三割増しでうるさくなっただけ。よし――。


パリン


 これでどうだ。嵌め込まれてるガラスの破片は犬の方に飛んでいって犬はそれをどうやら本能で避けたらしい。そのまま床に気をつけてドアを開けるとそっち側にある三つの部屋のどこにも犬の姿はいなかった。ちっ、やり逃がした。


「お母さん、犬いなくなったよ。もう大丈夫だよ」


 私が振り返ると机の方にいたのはさっきの二倍くらいの大きさになった犬だった。天井に当たるか当たらないかという具合。



ピピピピ ピピピピ


 アラームが鳴った。なんか頭が重いなって思ったけど、あんまり寝れてないからか。スマホを充電器から抜きながら私は自分が震えているのに気づいた。多分、なんか夢でも見たのかな。眠りが浅かったのだとしたら納得もできる。

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