第12話 眠れないけど

 美代はそのままDVDの電源を切ってテレビも消した。そしてリモコン二つをテレビ台に置いたあとこっちを見てきた。


「ねえ、あれ次どうなると思う? 二人」

「どうなるって、どういうこと?」

「え、別れるとか、別れないとか」

「あ、そういうことか」


 こうやって口では分かったフリをしながらも、実際はまったく分かっていなかった。だってあれであの二人は終わったと思ったから。でも、どうやら違うらしい。別れないという選択肢があるみたいだ。


「いつ、あれ、終わるんだ?」

「ええっと、次が最終回よ」

「ってことはもう別れて終わりじゃないのか」

「でも、やっぱりやり直そうみたいな雰囲気になって終わるかもよ」

「たしかに、それもあるか」


 俺がそう言ったのを聞いて美代がふふっと笑いだした。


「どうした、なんかおかしなこと言ったか?」

「いや、そうじゃなくてさ、んふふ」

「じゃあなんだよ。俺が真面目に考えてるのがおかしいってか」

「いや、それもあるけどさ」

「おお、あるのか」

「なんかこうやって一緒のもの見て感想言い合うってのが楽しくてさ」

「ああ、そういうことか」


 俺は平静を装ってこうやって答えたけれど、美代が楽しいって言ってくれたのが本当にうれしかった。美代はなんだか寝たそうだった。


「そろそろ寝るか?」

「そうね、そうする」

「俺もそろそろ寝ようかと思うんだが」

「そう? じゃ寝よっか」


 そのまま美代は豆球を消した。リビングは完全に暗くなって俺は机を触って位置を確かめながら廊下に出た。廊下のドアを美代が開けっ放しにしていてくれたことが無性にうれしかった。


 寝室のドアを開けるとそこにはさっきの格好のまま美代がベッドに入っていた。そうか、あれはパジャマだったのだな。美代はただ目をつぶっているだけではなくて、本当に眠っているようだ。部屋には豆球が元々ついていたから、そのままにしておこう。ベッドに横たわり、布団を自分にかけたあと、小声で美代、おやすみと言った。明日も昼過ぎからの仕込みに出ないといけない。目を閉じるとなんだか自然に眠気がやって来た。今日はよく眠れそう。


 まあ、よく眠れそうなんて思ったときに限って眠れないってのはよくあることなんだが、というかどうせそうなのだろうとは分かっていたけれど、今日のこれはまったく不快じゃない。だって、心があたたかくなって目が覚めてしまっているようなものだから。眠れる眠れないの話をしたり、同じ缶ビールを飲んだり、ドラマの展開を予想したり。どれもこれも最高に楽しかった。色で言えばスカッとした空色だろうか。

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