第2話 坂道を上りきって
赤信号で止まると休憩ができるわけだから信号休憩だ! なんて喜ぶときもあるんだけど今日は違った。自分が休憩に値するほどまだ走ってないという意識が一因だと思う。それに信号の前で何もできずにただ足踏みするだけという現状が今の自分を揶揄しているように思えるからかもしれない。信号が青に変わったから交差点を渡った。
四車線の大きな道路。その分歩道も広くつくってある。なだらかな坂道になっていて結構長いからいいトレーニングになる。ここを下るときもあるんだけど今日は上るコース。足元をじっと見て残りどれだけなんてことは考えなようにしながら、ザッザッと足音を鳴らして地道に上る。前から二人分の足音が聞こえてくる。夜の十時とかは案外走ってる人が多いものだ。たしかに暑くなくて車も少なくて走りやすいしね。たまに子どもと一緒に走ってる父親とかも見かけるし。
ん、でも街灯に照らされた影の長さがほぼ一緒だな。ということは。顔を上げるとすれ違ったのは高校生くらいの二人組だった。二人とも丸坊主だから野球部とかだろうか。友達同士かなと思い、思ってしまい、また少し憂鬱な気分になった。落ち込むくらいだったら考えなければいいのだけど、やっぱり考えてしまう。いっそのこと友達なんていらないと振り切れてしまえればいいんだけど、そこまでの自信はない。そんな弱い自分が嫌になる。
さわやかに笑いながら話す青春の象徴みたいな二人に対して、こっちは坂道を上ってるんだとか意味の分からない対抗心を燃やしてすれ違う。そもそも対抗心ってなんだよ。別に相手は敵じゃない。敵なんて日常生活にはいないはず。でも仲間ってのはいるよね。いるし要る。友達がほしい。なんかこう、なんでも打ち明けられるようなさ。愚痴を言い合ったりできるような。甘えたりできるような。
少し息が楽になったと思ったらもう坂道は終わっていた。ここで右に曲がればあと五分くらいで家。直進すれば三十分より長くなるし、左に曲がれば一時間コースだ。でも明日は一限があるから早く寝たい。調子いいときとか本当に走りたいときってのは、どっちに曲がろうなんて考えるまでもなく長いコースを選んでるものだし、今日はさっさと家に帰ろう。そうしよう。
家に帰ってちょっと落ち着いて明日の授業の準備でもしよう。入学式でラインを交換した以来会ってない友達がたしか物理学概論を取ってるって言ってたから明日会えるかも。ラインの名前はりんただったからりんたろう君とかかな。どこかで待ち合わせでもしよっかな。
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