短編集 袖振り合うも「多少」の縁

頭野 融

(1)大月彩人

第1話 スタートダッシュと赤信号

 もう桜も散ってしまった。花が散るのは花が咲くことと同じくらい当たり前だけどやっぱりどこか寂しい。そろそろ時期も終わりだろうと思って昨日もこの川沿いを走った。夜中に降水確率30パーセントの雨が降って桜の樹は今まで見慣れていた姿に戻った。体力づくりとか運動不足解消とかいう目的で始めたジョギングがこんな風に自然や季節を味わうきっかけになるとは思っていなかった。

 これに加えてもう一つジョギングの効能というか効果というかがあった。それが一人で考える時間だ。進学を機に一人暮らしを始めた友達からは早くもホームシックだとの嘆きを聞くけれども、家族とずっと一緒というのが楽じゃないことくらいは分かると思う。誰にも邪魔されず考え事をする時間としてジョギングはぴったりなのだ。別に記録とかを目指してるわけじゃないから距離やタイムを気にすることもないし。

 そう思うと腕につけてるGPS機能搭載のこのスカイブルーの時計にちょっと申し訳ない気もするけど、カッコいいデザインに一目惚れしたんだから仕方ない。ジョギンググッズ的なものを買ってみたかったからさ。

 ジョギングを始めたころはジョギング、お風呂、晩ご飯という順番だったけれど、さすがに授業が始まるとそうもいかなくなった。一年生だからか五限に授業は無いけれど四限まであると家に帰るのは晩ご飯ぎりぎりになる。だから家族とご飯の時間を合わせる方を優先して食べ終わって落ち着いたらジョギングに行くようになった。

 あ、赤。一つ目の信号が赤なんてついてない。なんかこのついてない感じにつられて思考がだんだん愚痴めいた方向というかネガティブな方向というかに傾いてきた。友達がさできないよね。いや、出来ないっていってもゼロってわけじゃなくて。ラインを交換した人も何人かいるし、履修登録の相談だってしたんだけど、ちょっと違うっていうか。そりゃあ、まだ知り合って一週間くらいの人だから当たり前といえば当たり前なんだけど、月日が経ってもこの人たちとは高校時代の友人ほどには仲良くなれないだろうなって思う。

 それにもう仲の良い人たちっていうグループも出来ちゃってる感じがする。授業のあとに四、五人で連れ立って図書館に行くとか、二人でベンチで話し込むとか。そういえば解析学の授業の前、カラオケオール楽しかったみたいな話をしてる人たちもいたっけ。それを聞いたときは門限とか無いのかなって思ったけど、全員が全員、実家暮らしなわけじゃない。

 また赤。どうやら今日は本当についてないらしい。

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