第18話 京中州の調査
無事に京中州へ到着した。この地域はとても広大である。かつては二つの地方で呼ばれた場所が一つの州になったのだ。当然といえばそうなのだろう。そんな広い地域をしっかりと統括できているのだから、素晴らしいことだ。
まずは東側から調査していくことにした。そして段々と西の方、都に向かって進んでいく計画だ。東の端へやってきた。地理については、誰でも頭に思い浮かぶかもしれないが中央部には大きな山脈が連なっている。そして沿岸部には広大な平野が広がっている。
日本海側の地形は現代とほとんど変わっていない。しかし、太平洋側では埋立地がない分、陸地はかなり狭い。ただし、先の関東州、東京湾同様に今では見られない干潟や海岸がずっと広がっている。
自然にあふれた素晴らしい環境だ。きっと原始の豊かな生態系が広がっているに違いない。ここでも海の調査をしようと考えている。今とは全く光景を見る事ができるのだろう。さっそく潜水モードに切り替えた。海の中に入ると、かなり先まで見えるくらいに透き通っていた。
順調に潜っていき、小魚の魚群を発見した。海底の砂地にはカニやエビが生息している。イソギンチャクやさまざまな海藻もたくさん伸びている。ゆったりとした空間、それが一番適切な表現だろうと思う。
さらに深いところまで進んでいくと、中型魚の姿も見え始めた。海底の砂地はふかふかしている。無数の穴が空いている場所があり、何かの生物がその中で息を潜めているのだろう。
どこまで行っても透き通った綺麗な景色が続いている。さまざまな種類の魚が泳いでいて、色鮮やかだ。岩場の影に隠れている魚もいる。魚の数だけ、それぞれの生態があるわけだ。砂地を好む魚もいれば、岩場を好む魚もいる。あるいはずっと泳ぎ続けている魚もいる。
だいぶ深いところまでやってきた。この辺りまで来ると、かなり大型の魚もたくさんいることだろう。大型魚はかなりのスピードで泳いでいる。ぶつかってしまうと無事では済まないだろう。幸い、このシップはステルスモードになっているので、魚はすり抜けていく。
過去に大型魚の衝撃がどれくらい強いのかについて調べた研究者がいた。その論文によれば、ほとんどの大型魚が時速50〜60kmの速さで泳いでいて、それと同じ速さの車が事故を起こした時の衝撃があるということだ。つまり、一般道でそれなりにスピードを出している車と同じというわけだ。そう考えると、無事では済まないのも納得がいくだろう。
しばらく観察していると、カツオやマグロなど、有名な魚が泳いでいた。その姿は現代のそれと全く同じである。つまり、2千年以上その姿のまま変わらずに生きているということだ。
海での調査を終えて、陸地に戻ってきた。近くで釣りをしている人がいる。そこそこ釣れているようだ。竿は竹でできているようで、糸なども他の地域で見たのと同じようだ。釣りに来ているのは一人ではない。10人以上は居ると思われる。さらに海に潜って漁をしている人もいる。この地域ではみんな槍を使っていて、素手で獲っている人はいないようだ。女性でも漁をしている人がいる。男女関係なく仕事をしているのだろうか。
近くの村にも行ってみることにした。そこそこに規模の大きい村で、その中心に長の建物があるようだ。村へ入ってみると、みんなで畑の作業をしている最中だった。やはりここでも男女を問わず一緒に作業しているようだ。
子どもたちも一緒に手伝っている。今は穀物の収穫をしているようだ。大人が収穫して、それを子ども達が倉庫まで運んでいるようだ。みんな慣れた手つきで作業を進めている。ある程度の年齢の人たちも、自分にできるペースで作業している。みんながそれぞれにできることをしているのだ。
お昼の時間になった。この村にはどんな食文化があるのだろうか。食事ができるまでの間はみんなくつろいで休んでいる。やはりここでも男女関係なく料理を作っているようだ。どうやらこの村では、交代制で仕事をしているようだ。
老若男女を問わず、みんなで協力して仕事をしている。少しでも仕事量が均等になるように、交代制、当番制を設けているのだろう。これは他の地域では見られなかったことだ。特筆すべき事項だろう。
料理ができると、それを子どもが運んでお手伝いしている。準備が整ったところで、家族全員で食卓を囲む。主食は麦飯だ。おかずは焼き魚と野菜のサラダのようなものだ。あっさりしたスープもある。
みんなで食卓を囲む時間は、とても幸せそうだ。みんな自然と笑顔になっている。食事、みんなで囲む食卓は、いつの時代も素晴らしいものだ。大切な家族の団らんの時間だと思っている。
食事を終えてしばらく休んだ後、午後の作業は建物の補修をするようだ。みんなで手分けして、住居の痛んだところを直している。新しい藁に交換したり、骨組みを縛り直したり、さまざまな作業があるようだ。
この時代には専門の職人がいない。住民達が自分でやらなければならないのである。頻繁に作業しているからなのか、その手つきは慣れたものだ。ベテランと呼んで問題ないくらいだろう。
あっという間に作業が完了した。予定より早くに作業が終わったようで、あとはみんなでくつろいで休んでいる。家の中ではもう夕食作りをしているようだ。子ども達も手伝っている。
家の中で会話を楽しみながら過ごしている。大切な家族団らんの時間だ。みんな幸せそうな顔をしている。食事が出来上がったようだ。食卓を囲って座り、料理が運ばれてきた。質素ながらも、愛情がたっぷりと詰まった料理だ。
食事の後はまったりとくつろいでいる。それぞれがやりたいことを、自由に伸び伸びとやっている。みんな幸せな時間を過ごせていることだろう。特に娯楽があるわけではないが、そんな中で楽しみを見つけるというのはいいことだ。
翌日、天気が良くなくて雨が降っている。今日は屋外での作業はしないようである。みんな家の中で過ごしている。道具の手入れをしたり、衣服の修繕をしたりしている。雨でもできることは多いようだ。
子どもたちは家の中で柱につかまったり、体操のようなことをしたりして体を動かしている。運動不足にならないよう、しっかりと考えられているようだ。雨の音がだんだんと強くなってきた。こんな天気の日には気分が沈むものだが、この時代の人たちはどうなのだろうか。
様子を見ていると、気分は下がるどころか、すごく楽しそうにしている。大人達も会話を楽しみながら作業している。やっぱり楽しく過ごせることが大事だと思う。私もチームのメンバーが楽しく仕事に取り組めるよう、工夫を凝らさなければならないなと思った。
午後になると雨が上がった。住民達が外に出ると、ちょうど虹が出ていた。それを見て、天からのお告げだと思ったのだろう。ひれ伏して崇めている。この時代では虹も天の意志が宿るものだと考えられているようだ。
太平洋側と日本海側では距離があるため、気候などに違いがある。平均気温については、より北にある日本海側の方が低い。中央にそびえる山脈はそこそこの標高があり、南北に住民が行き来することはまずないだろう。修験者などが修行のために山越えするくらいだろう。
普通の住民についていうと、かなり遠回りになってでも平地を迂回して行き来している。多少なりに体力に自信がある人は、標高が低い場所に設けられた峠道を越えていくようだ。
少しずつ西に移動しながら調査を進めてきたが、ようやく半分といったところだと思う。調査報告書はすでに7冊目に入っている。作業の進捗状況は悪くないだろう。順調に進んでいるのを見て、私はとても頼もしく感じた。
この後は伊勢神宮を見にいく予定だ。この時代でも全国各地から参拝に訪れる人がいる。一生に一度は参拝したいと、全ての人が願ってやまない場所なのだ。そんな場所だからこそ、住民の様子を観察する価値があるだろう。
そんな期待を胸に抱きながら移動するのだった。
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