第12話 噴火後の状況

 かなり激しく噴火しているようだ。火山の近くは火山灰に覆われて視界不良になっている。この後の天気予報では雨になっている。つまり火山灰が雨に混じって降ってくるということだ。

 住民の様子はというと、全員が穴の中に避難してそこで過ごしている。どのくらいの期間、穴の中に居るつもりなのだろうか? 誰かが実験台となって様子を見に外まで出てくるのだろか。それとも噴火の具合を見て日数の目処がたつのだろうか。いずれにしても観察を続けることになるだろう。

 村の方はというと、溶岩は迫っていないものの、噴石や火山灰が大量に飛んできている。噴石で屋根が破壊されたり、火山灰が積もったりしている。住民の会話を聞いていると、どうやらある程度の被害は察しているらしい。過去の記録が残っているようだ。それをもとに被害を予測しているようである。



 過去の記録は残っていても不思議ではないだろう。だけどそれを基に被害が予測できたり、避難場所を確保していたりということは予想外だった。この時代に災害に備えるという概念があったことは新発見であり、驚くべき事実だ。

 物的被害は甚大なものになるだろうが、住民全員が無事で居るというのは素晴らしいことだ。しばらくすると、溶岩が村のすぐそこまで迫ってきている。間違いなく村の仲間で到達してしまうだろう。住民が避難している穴があるところは高台になっていて、そこまでは来ないと思われる。

 火山の方を見ると、溶岩の流出は収りつつある。火山灰は1メートルほど積もっているだろう。噴石は完全に止んだみたいだ。この辺りで1メートルもの火山灰が詰まっているといことは、かなり広範囲まで飛んでいることだろう。



 観察の地域を広げ、火山灰の状況を調べることにした。やはり火山の周囲で広範囲にわたって積もっているようだ。海岸のすぐ近くまで届いているようだ。火山の噴火はどこの地域の住民も気づいているように思われる。

 あれだけ大きな音がしたのだから、当然といえばそうなのだが。とはいえ、ほとんどの人が何ら変わらない状態で生活している。火山灰くらいではどうということないのだろうか。すでに灰を掃除して、一箇所に集積している地域もある。中には、畑の肥料として蒔いている人もいるようだ。

 自然災害というと、普通は怖いイメージを持っている人が多いことだろう。しかし、この時代では上手く関わることができているのだ。これはしっかりと記録に残して活用できるようにした方がいいだろう。



 再び先ほどの村に戻ってきた。溶岩は村の半分ほどを飲み込んだところで止まったようだ。溶岩のすぐ近くでは熱風により火災が発生している。この時代の建物は当然ながら木造しかなく、それだけ延焼しやすい。中には十分な距離をとっているところもあるが、そうでないところがはるかに多い。

 情報収集の役割を担う人が、穴の出口から村の方をうかがっている。噴火がおさまったのを見て、住民がぞろぞろと出てきた。みんなが村に戻ると、その被害を目の当たりにして絶句しているようだった。

 住民たちは何よりもまず、消化活動にあたった。そのおかげで、村全体の5分の1にあたる住居は火災を免れた。とはいえ、それらの住宅も噴石や火山灰の被害を受けていることに変わりはない。



 ここから住民たちがどのようにして復興を成し遂げていくのか。それがこの地域にとって重要なことである。もちろん私たちが手を出すことはできない。しかし住民たちの表情を見ると、すでに復興を見据えているようである。

 非常に前向きで、素晴らしいことだ。これも人的被害がなかったからこそだろう。やはり近い人が犠牲になってしまうとその悲しみは計り知れないものだ。住民全員が助かったからこそ、前を向いて考えることができるのだろう。



 他の地域の様子も見に行くことにした。火山に近いところでは建物がひとつも残っていない。瓦礫の山と化している。しかし、住民たちがせっせと後片付けをしている。

 少し離れた地域ではすでに片付けを終えてもいつも通りの日常に戻っている。沿岸部では生活に支障ないようで、ほんの少し降った火山灰はそのままになっている。

 風が吹くとそれがかなり舞い上がっているのだが、住民にとってはどうということないのだろうか。海の中までは届いていないようで、海洋汚染にはなっていないようだ。



 噴火から1週間が経った。再び様子を見てみると、火山から少し離れた地域では完全に元通りになっている。すぐ近くの地域でも瓦礫の片付けは終わっているようだ。すでに建物が建ち始めている。みんなで協力して復興作業に勤しんでいる。とても素晴らしいことだと思う。

 村全体の復興が終わるまでは、たとえ自分の生活が戻っていても協力するという姿勢のようだ。そこまで発展していない地方だからこそ、地域の絆が強いのだろう。

 住民たちの雰囲気はとても明るい。復興作業を楽しんでいるようだ。与えられた運命を受け入れて、共に生きていくことが彼らにとっては普通なのだろう。むしろ現代人よりも充実した人生になるかもしれない。



 きっとこの村は復興を成し遂げることだろう。彼らを見ていると、そう確信することができる。住民たちの心に前向きな灯火を感じとって、南西州での調査を終えた。

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