第11話 南西州の調査

 南西州の調査もだいぶ進んできた。海に面した地域では漁業が主力産業になっている。それは当然のことだろう。一方で山間部では林業が盛んである。平野部で農業が行われており、上手く土地を活用できているようである。

 一般的にこの時代の納税は米だと考えられていた。しかし、漁業や林業に従事している場合は、それぞれの産物を納めれば良いことになっているようだ。これはまさしく新しい発見である。

 理由を調査してみたところ、以前は米で納めていたが農業以外に従事している人たちの負担が大きく、栄養失調などの問題が深刻化したそうだ。その結果、木材や海産物が不足したらしいのだ。

 それを防ぐために、現在の方式になったというわけだ。役人は住民の命のことよりも、税の回収が全てであるという姿勢だったと考えられてきた。しかし実際にはそうではなく、住民のことをしっかりと考える役人がほとんどのようだ。



 この時代に庶民の娯楽はほとんど無い。しかし近所付き合いが密接で、子どもたちは自然の中でのびのびと遊んでいる。大人も時間がある時には集まって、他愛もない話で盛り上がっている。娯楽と言えるなものが無いように見えるが、自分達で工夫して余暇を過ごしているのだ。

 大人は狩猟や採集などで競い合うことで心を満たしている。子どもたちも自然の中で遊びつつ、さまざまな競い合いを考えているようだ。自分で考える力がかなり身についているのだろう。



 この時代の主食は米と麦だ。地域によっては雑穀を混ぜることもあるらしい。南西州では粟や稗、玄米を混ぜているようだ。少しでも米を温存して、なおかつ栄養も摂ることができる。生き残るための知恵だ。

 沿岸部では新鮮な水産物が食べられている。海から離れた地域では塩漬けにしたものが運ばれてくる。どうしても内陸部では生で食べることはできない。冷蔵技術が発達していないからだ。かろうじて塩漬けという保存技術のおかげで、焼き魚や煮魚を食べることができている。

 この時代では野菜の栽培はされていない。自然に生えている野草を食しているようだ。安全なものかどうかは先の時代の人たちが実際に食して確かめられてきた。その結果が伝承として受け継がれている。



 調査を進めていると、阿蘇山に設置した地震計がかなり大きな揺れを観測した。私たちは急いで向かった。その間にも頻繁に揺れを観測しているようだ。現場に到着すると、今までよりも火口から出る煙が多くなっているようだ。

 このまま噴火が始まる可能性もないとは言い切れない。安全を最優先に調査をすることになるだろう。私たちの目的はあくまで調査だ。住民に避難を呼びかけることは過度の干渉になり、すべきではないだろう。被害状況を記録に残すためには、悲しい場面も見ることになるだろう。チームのリーダーとして、メンバーのメンタルヘルスには気をつけなければならない。

 現代では政府や各自治体から素早く避難指示が出される。しかしこの時代には通信技術が発達していない。どのような対応をとるのか、よく観察したい所だ。しばらく様子を見ていると、誰も火山の方を気にすることはないようだ。いつも通りの生活をしている。



 再び山の方へ戻ってみた。今のところ噴火の兆しは高くない。地震は相変わらず頻発している。山の反対側へ回ってみると、山頂以外の部分からも煙が出ている。噴火するのは火口だけではない。マグマの圧力が強くなると地盤を突き破って出てくることもある。

 火山特有の強い硫黄の匂いが周囲に漂っている。外はガスマスク無しでは居られないだろう。我々もシップ内に留まることになる。しばらくすると甲高い音が鳴り響いた。山がかなり揺れているようだ。安全のために山から距離を取って退避することにした。



 退避してすぐ、シップに何かが当たる音がした。さほど大きくはないが、コツっという音が何度かした。周囲を観察すると、噴石が飛んできているようだ。さらに距離を取って退避した。その刹那、大きな音と共に火口から噴煙が上がってマグマが噴き出した。

 火口からだけではなく他の場所からもマグマが流れ出している。火山灰でエンジンが停止してしまわないように火山から離れ、街の方へ向かった。ステルス状態になって、シップの周囲にバリアを展開した。そうすることで火山灰や噴石を防ぐことができる。

 住民の様子はというと、かなり慌てた様子で逃げ回っている。どこか近くに逃げる場所があるのだろうか。列を成して一定の方角へ向かって走っている。そのまま我々も後を追った。



 しばらくすると地下への入り口が姿を現した。周囲を見渡すと、複数の穴が空いていて地下へ入れるようになっている。そこへ住民たちが均等に分かれて入っていく。

 シップの赤外線レーダーで解析したところ、穴はそこそこの距離まで伸びているようだ。200人ほどを収容できる広さで、それが無数にあるのだ。おそらく住民すべてが入れるだけ確保されているのだろう。

 この時代に穴を掘る機械などはないはずだ。人力で掘るにしても並大抵のことではない。この穴についても深く調査したいところだ。



 火山の方を振り返ると、はるか高くまで噴煙が上がってるのだった......

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る