第5話 調査開始

 時空トンネルの出口が見えた。出口付近で充分に速度を落とす。ゆっくりと出て、気圧などの変化に対応することになっている。

 いよいよ今回の舞台である弥生時代に到着した。紀元前900年前後、弥生時代早期と呼ばれる時代区分だ。

 シップに乗ったまま、周囲の様子を観察した。一面に田んぼが広がっている。住民に気づかれないように、ステルス状態で調査を行う。写真や動画の撮影も可能で、100PBのデータ容量を保存できる。画質と音質も最新技術を駆使して作られている優れものだ。


 住民の服装は定説通りのようだ。勾玉などの装飾品も実際に使用されている。海や川で魚介類を入手している。銛や網を駆使している。潜って採っている人も居るようだ。すでにこの時代に上手く潜れる人がいたというのは驚くべき事実だ。

 このようにして歴史の真実が明らかになると共に、定説も書き換えられるのだ。それこそが我々調査団の使命であり、成果へと繋がっていくのだ。

 貴重な瞬間をしっかりとカメラに収めた。重要な証拠資料となるものだ。丁寧に扱わなければならない。


 しばらく観察を続けていると、子どもの集団がやってきた。これまではこの時代の子どもたちは大人の手伝いをしていたと考えられてきた。しかし真実は驚くべきものだった。

 草原をみんなで駆け回っている。どうやら誰が一番速いかを競っているようだ。着ている服は大人と一緒だ。髪型は男女を問わずショートヘアで、みんな裸足で走り回っている。

 木登りをしたり、川に入って水遊びをしたりしている。現代とほとんど変わらない無邪気な姿だ。電子機器などが存在しない昔にはおいては自然の中で遊ぶことが普通なのだろう。遊びの中で体力錬成につながっていると思われる。


 正午くらいの時間になっただろうか。あちこちで食事を作り始めた。家族みんなが協力している。仲睦まじい光景だ。どうやらそのおかげもあってか、家族の絆がとても強く堅く結ばれているようだ。

 使っているのは教科書にもある通りの「弥生土器」だ。それについてはすでに遺跡で見つかっているのだからまず間違いないだろう。大きさや形で使い分けがあると考えられてきた。実際はどうなのか観察することにした。

 すると、大きなものは調理用らしい。それを皿に盛り付けて、みんなで食べるようだ。取り皿のようなものはない。実際に目にすると、事実がよくわかる。


 調査の成果が着実に増えていった。達成感と喜びを感じることができた。まだまだ仕事は残っている。一生懸命に取り組まなければならない。

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