第1話 俺の息子が異世界魔王だった件について
子供が出来た。
俺、桜井 正人の結婚2年目のことだ。念願の男の子を授かり順風満帆だった。
夫婦仲良好、子供もすくすく育ち仕事は忙しいものの全てが上手くいっていた。
まさに幸福だった。今日までは……
息子が6歳になりいよいよ小学校への入学を控えたある日。
俺と息子の勇人はリビングでテレビを眺め、妻の瞳は夕飯の支度をしてくれている。
「父よ。俺はこれまで隠してきたことがある」
突然息子の勇人が何か言い始めた。
これまでとは話し方がまったく違う。さっきまでは「ぼくは~」って感じの一人称だったのに何を思ったか突然の「俺」だ。
「突然どうした勇人?」
「あぁ、実は俺はこことは違う世界。異世界で魔王をやっていたんだ」
おぉう。どうやら小学校入学前に中二病を発症してしまったらしい。最近はYouTubeやTwitterで中二な知識が入りやすくなっているということもあるがまさかの6歳である。こんなに早いのは世界初なのでは無いだろうか。
「……そうか。で、何のアニメを見たんだい?」
「アニメの話ではない。俺の前世の話だ」
「前世、前世ね。凄いな勇人は前世は魔王だったのか」
「父よ。まったく信じていないだろう」
それはそうだ。何を言い出すかと思えばまさかの前世は魔王とのことだ。いくら愛しの我が子といえど到底信じられるものではない。
しかし、この手の話は下手に否定すると頑なになってしまうと聞く。適切な対処法は適度に合図地を打ちつつゆっくりと現実を認識させていくことだ。
「そんなことはないぞ。いや~勇人はすごいな」
「いや、いい。はなから信じて貰えるとは思ってない。証拠を見せてやろう」
「あとで見せてもらうよ。そろそろ夕飯の時間だぞ勇人」
「すぐ終わる」
そういうと勇人は俺の手を取り足元にもう片方の手をかざした。
すると足元に人が2人すっぽり入るほどの大きさの光る魔法陣が現れた。
「お、おい! なんだこれは!」
「あわてるな。すぐわかる」
すると全身に浮遊感が襲ってきた。
ふと、気が付くと俺は高度数百メートルの空の上にいた。
「……な、なんだこれは」
「これは転移魔法だ。そして今は浮遊魔法も行使している」
勇人は当たり前のことのように言ってのける。
「どうだ。これで少しは信じる気になったか?」
「異世界の魔王だったって話か?」
「そうだ。前世ではノスフェラトゥ・オレアンダーと呼ばれていた魔族の覇者だ」
「そ、そうか……」
どうやら本当らしい。少なくとも今自分に起こった出来事を魔法以外の方法で説明することが俺には出来なかった。
「分かった、信じるよ。それで勇人はなんで今そのことについて明かしたんだ?」
「あぁ、それはなそろそろ俺も子供のフリを続けるのが辛くなってきてな」
「なるほど?」
「生まれた時から意識はあったがこのまま年相応の振る舞いをしていたら俺という人格が引っ張られそうな気がしたんだ」
「精神が身体の方に引かれるってことか」
幸いアニメやラノベは嗜む。そのおかげでなんとなくだが勇人が言いたいことは理解できた。
「そうだ。そのためこれからは素の人格で生きて行こうと思ったのだ」
「親としては微妙な感情なんだけど」
「それについてはすまないと思っている。しかし、俺にはやらねばならないことがあるのでな」
「やること?」
「あぁ」
そうして勇人は前世であった出来事は語り始めた。
魔王として人間と戦ってきたこと。四天王に裏切られたこと。そして殺される寸前に転生魔法を使ったら俺たち夫婦の子供として転生したこと。などだ。
正直家のリビングでこの話を聞いていたら絶対に信じなかったと思う。しかし、今は自宅の上空300m。家は豆粒程の大きさになっている。さすがにこれを見せられると信じざるを得ない。
「OK。一応理解した。それで勇人は何がしたいんだ?」
「この話を聞いてもまだ俺のことを勇人と呼ぶか」
「そりゃ子供が魔王だったなんて残念だけど、生まれた時からなんでしょ? だとしたら俺の近くにいるときは俺の子供だよ」
「ほう、父は人間が出来てるな。正直捨てられることは覚悟していたが」
「お前の、魔王の父親を舐めんなよ?」
「ふっ、そうだな。ありがとう父よ」
「いいさ。それよりそろそろリビングに戻してくれないか? さすがに寒い」
春先とはいえいまだに吹く風は肌にピリピリと刺すように冷たい。
「了解だ」
そういうと再び足元に魔法陣が現れ俺たちを飲み込んだ。
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