第一話 再会
俺は学校出て電車に揺られながら沈みかけている夕日を眺めながら黄昏ていた。
「長坂どうするんだろうなぁ…あゆみを救うってとこどうなるんだろうなぁ…」
俺は昨夜徹夜で読んだ「ラブ◯め」の続きを考えながら呟いた。ちなみに俺は7番さん推しだぞ☆
そんなことを考えながらTwitterを開いてラノベの最新情報を眺める。これラノベ買ってる人ほぼやってる(裕作調べ)
そして空腹を感じたと同時に
あ。なんか今日スパゲッティ食べたいそう急に思った。
俺の住むここ、茨城県はみなさんご存知県魅力度ランキング堂々の最下位を連覇する魅力がなさすぎるど田舎でぇーす!まあ俺の住む取手市は割と茨城県の中ではさかえているほうなので辺り一面田んぼや畑、見渡す限り森や草原。なんてことはない。普通に電車はくるしスーパーだって普通にある、普通に暮らす分にはなんも苦労しない。ただこの街を表現するとしたら「無個性」。これが一番しっくりくる。そしてその無個性な街に住んでいるのは俺と言う無個性な人間だ。とてもお似合いだって?うるせぇわ。自分で思ってても人に言われるとダメージ受けるんだわ。しまいにゃ泣くぞ!
来世はキザでイケメンでハーレムを堪能している「ヤリチンクソ野郎」にしてくださーい!
………
……
…
冗談はさておき。
先ほど言ったであろうが俺はスパゲッティが食べたい。すごく食べたい。どれぐらい食べたいかというとお隣の天使の手作りの煮物くらい食べたい。
なので取手駅についた俺は学生のお財布の味方こと某イタリア料理店に入った。
ちなみに俺はスパゲッティはミートソースしか認めません、ミートソースこそ至高!パスタにチーズを馬鹿みたいにかけてからミートソースを絡めて食べるのが病みつきだ。え?わかるよね?みんなやらん?
まあ今回は外食なので店に迷惑がかかってしまうため馬鹿みたいにチーズをかけることはできないが。
俺は店に入るなりミートソースパスタの大盛りと辛味チキンを頼んだ。ここ来たら辛味チキンみたいなところあると思う。ピリ辛のジューシーなチキンがこんなに安く食べられるお店なんてそうそうない。
俺は夢中になってチキンとパスタを平らげた。
そして一通り食べ終えて一息ついたところで後ろの席でカップルらしき二人組が言い合いをしているのが聞こえる。
あー最悪だ。いい気分だったのに…
そう思ってため息をついた時後ろから女の子が口元に手を当てて早歩きで店を出ていった。
横を通り過ぎた彼女の香水が少しだけ香る。
その香水に何故か懐かしさを覚えた。
「どっかで嗅いだことのあるような…?」
いや変態じゃないからね?うん。まじで。
まあなんやかんやあったが少し冷えた外の空気を大きく吸い込んでから歩き始める。
薄暗くなった小道を小さな街灯が照らしている。俺はこの夜の雰囲気が好きだ。静かで落ち着いている雰囲気の中でラノベを読んだらさぞいい気分になれるだろう。
俺は小道を抜けて河川敷を歩く。利根川に月がうっすらと写っている。ちなみにこの利根川を渡ると千葉県だぞ☆なんて考えていると土手に腰を下ろしている女の子がいた。
まあラノベだったらこれからイベントが始まるパターンだが現実は違う。話しかけたら「何この人」で終わりだ。
ということで俺は横を足速に通り過ぎようとした。
顔は反対を向いていて見えない。まあ誰でもいいけど。そう思って後ろに手をついて座っていた彼女の手を踏まないように手を見た時に見覚えのあるブレスレットが目に飛び込んでくる。
「つ…つきは…?」
何故俺は話しかけてしまったのだろう。少し考えればわかるはずだ。同じブレスレットをつけている人なんて沢山いる。3秒考えればわかる。アホでもわかる。
待って!?俺なんで話しかけた!?アホなの?
そう回らない頭で考えているとビクッと肩をこわばらせたその女の子がゆっくりと振り返る。
人生で一番長く感じた。月明かりに照らされてその女の子の顔が見える。
少し目元が腫れている気がする。泣いていたのかもしれない。
その女の子いや、可愛らしい顔をこちらに向けた美少女は。目元を腫らせた美少女は
幼馴染の桜川月葉だった。
桜川月葉
彼女と俺は幼馴染だ。幼稚園から高校までずっと一緒だ。
幼稚園から小学校の中学年あたりまでは家族ぐるみでよく遊んでいたし仲がとてもよかった。しかし小学校6年生の頃思春期の俺はどんどん女性になっていく月葉を避けた。そしてある事件の後どう接すればいいのかわからなかった。普通に友達でいればいいのにな。そこから中学、高校と同じではあったがずっと疎遠だった。まあ途中まではよくある話だと思う。
そんな月葉に偶然とはいえ4年ぶりに話しかけた。
「え?あ、ユウ…?」
小さな声で俺だけにしか聞こえない声で月葉は言った。
「なんでこんなところにいるんだ。お前の家と真反対だろ」
俺は自分の動揺を悟られないように言う。
「ちょっとねぇー。」
すると彼女は少し無理をしたような明るい声で答えた。そうだ。昔から彼女は強がりだった。昔の俺はその強がりな彼女に何度も助けられて。そして助けてやれなかった。彼女のSOSに気づいてやれなかった。今なら俺は彼女を助けられるだろうか。そう昔の罪滅ぼしの意味を込めて俺はゆっくりと口を開いた。
「はぁ…なんかあったんなら聞いてやらんこともない」
「え?」
「報酬は今度の学食代かな」
「ねぇなんでわかったの?」
「目元がブサイクだからな」
彼女は顔に手を当てると耳を赤く染めた。
「ブサ…ユーウゥゥゥ!!」
「冗談だって」
彼女は真っ赤にした顔を手で隠しながら俺の二の腕をぽこぽこと叩く。
そして彼女は川にうつる月を眺めながら少しずつ言葉を探すように話し始めた。
「フラれちゃった」
「浮気されてたんだ。彼氏にもう魅力を感じないって言われた」
彼女は溢れそうな涙を必死に抑え込むように夜空を見上げた。
「どうしたらよかったんだろう…」
そして小さくて弱くて消えそうな彼女の言葉が夜に消えていく。
「分からんけどさ。月葉はかわいいし美人だし、月葉に魅力を感じないとか言うその彼氏は見る目がないね」
「そっか…ありがとう…」
月葉は安心したような顔をすると大きく息を吐き出した。そして子供の頃のようなニヤァっとしたような悪い笑顔をこちらに向けた。
「なるほどね。ユウが私のことが大好きでしょうがないことはわかったよ」
「なんでそうなる」
「私にそんな大胆なアプローチするようになったなんてユウも大きくなったねぇ」
「どこからツッコめばいいのやら…」
「ふふーん♪」
月葉は昔から強い子だ。もう大丈夫そうだな。少し元気の出た彼女はまるで今日の夜空に浮かぶ月のようにただひたすらに美しかった。
たまたま今日会っただけだ。もう話すこともないだろう。
そう思って、彼女の綺麗な横顔を眺めた。これから俺の人生の歯車は急速に回り出し月葉という幼馴染に嫌というほど振り回されるとも知らずに。
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