3.青白く光る少年
「おい、あの子って……」
駿は青白く光る少年を見て動揺した。明らかに生きた人間ではないことは一目瞭然で、少年が放つ光の色は、昨日今日と散々見てきた魂の色とあまりに似すぎている。
いや、似ているのではない。全く同じものなのだ。美紗希の舞に誘われた霊が、どうしてか小さな子供の形をしているのだと、直感するのにそう時間はかからなかった。
だからこそ、分かることが一つだけある。
きっと、この少年はもう生きてはいない。
駿は横にいる美紗希にちらと目線を送る。彼女は駿とは対照的にずいぶんと落ち着き払っていた。駿の顔を見てから軽く頷いてみせると、そのままなんでもないといった様子で少年の方へと近づいていく。
美紗希は少年の前に立つと、かがみ込んで目線を合わせてから、ふっと微笑んで声を掛けた。
「こんばんは。いい夜ですね」
「こ、こんばんは……」
駿にしたものと同じ挨拶に、少年はおどおどとした態度で挨拶を返す。引っ込み思案かはたまた人見知りか、不安げな表情を見せる少年に、美紗希は変わらず話しかけ続ける。
「まずは自己紹介をしましょう。私は神木美紗希といいます。あなたの名前はなんですか?」
「……こたにゆうすけ」
「ゆうすけ君、ですね」
「あ、あの……。ぼくのお父さんと、お母さんが、どこかに行っちゃって……」
美紗希と話すことで緊張感が解け始めたのか、ゆうすけと名乗った少年の霊は、躊躇いがちではあるものの自分から美紗希にたずねてきた。
「さっきまでお父さんとお母さんと、いっしょに電車にのってて、外を見てて、でも急にいなくなっちゃって、夜になってて、お姉ちゃんがいて……」
要領を得ないゆうすけの説明を、美紗希は急かすわけでもなくただ静かに頷き返しながら聴いている。脈絡のない単語を繋ぎ合わせたような説明ではあったが、どうやら彼は両親とはぐれてしまったことだけは伝わった。
話していくうちに、両親がいなくなってしまった寂しさがこみ上げてきたのだろう。ゆうすけの声はみるみる涙声に変わっていき、とうとう最後まで言葉を言い切る前に泣きじゃくり始めてしまった。
「そうですか。お父さんとお母さんとはぐれてしまったんですね」
ぽつりとそう呟くと、美紗希はゆうすけの頭をそっと撫でてやった。ゆうすけに触れた彼女の指が、短く切り揃えられたゆうすけの髪をすっととかしていく。
彼女は幽霊に触れることができるのか。幽霊に触覚はあるのだろうか。そんなことを駿が考えいるうちに、ゆうすけは徐々に落ち着きを取り戻していった。
そんなゆうすけに、美紗希は穏やかにほほ笑みかけて、一つの提案を口にした。
「では、私も一緒にお父さんとお母さんを探しましょう」
「……ほんと?」
「本当です。ただもう夜も遅いですし、暗くて危ないので、探し始めるのは明日からにしましょう」
「うん!」
その後二、三言葉を交わし、美紗希とゆうすけは駿の元へと近寄って来た。
ゆうすけは美紗希におぶわれ、手足をぶらぶらと揺らしている。美紗希にはすっかり懐いたようで、顔を綻ばせて嬉しそうにしていた。
だがそれとは対照的に、美紗希からは明らかな焦りと動揺がうかがえた。それは最初にゆうすけを見た時の駿のようで、なんでもないといった表情から一転、さてどうしたものかと頭を悩ませている様子が手に取るように感じ取れる。
「……では駿さん、お待たせしました。街まで戻りましょうか」
背中のゆうすけに悟られないようにしてはいるが、その声はどことなく弱弱しい。
かといってゆうすけがいる手前、彼女に何があったのかを聴くわけにもいかない。
結局駿は美紗希に話しかけることができず、美紗希も駿に必要以上に話すことができず、ゆうすけだけが気付かない気まずい沈黙を抱えながら、三人はゆっくりとした歩調で神社を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます