12/121 = 3/31

 12月121日。改定前のカレンダーでは3月31日。

 小春日和、よく晴れた学校の屋上に私と先生は居た。部活動のふりをして校舎に忍び込んだのだ。もちろん、先生に会うために。

 こんなにも暖かで麗らかな12月は未だかつて無かっただろう。葉桜を揺らす春風が吹き抜ける。無情にも季節は巡るのに、まだ政府は何も決定できぬまま、12月が垂れ流されていて、新年度が明日に迫ってきていた。これから私は3年生になって、色々変わる。

 母との関係も少し変わった。あの日、母は私に行為を聞かれてしまったことを後悔し、あの男とはなんだかんだあって別れてしまった。母の幸せを応援出来なかった不孝者の私を謝罪すると、母はミハルが一番大事だからと逆に謝られてしまう。お互いに癒えない傷を抱えながら、決して正解とも言えないような答えだけど、一応「家族」としての綻びがこれ以上広がらなかったことに関して多少なりとも安堵してしまったズルい私がいた。


 そして、私と先生の関係について。

「こんなときに呼び出してごめんね先生。忙しかった?」

「いや、問題ない」

「先生はさ、あの日、車で一緒に過ごした日に言ったこと覚えてる?」

「……ああ」

 そう、先生は私を拒絶したかったのだ。でも、できなかった。教師としてのサガなのか、可哀想な子をほっとけなかったのだろう。それにしてもお互いに倫理観が欠けてるなあ、と今更に思ったりする。バツイチの先生に告白する私も大概だし、それを拒絶せずに受け入れる先生も大概だ。……ちなみに、先生はロリコンではないらしい。女子高生と付き合ったのも私が初めてとのこと。やったね。

「私ね、思うんだ。これから先も絶望の世界なら独りよりも、やっぱり先生と一緒に生きてみたいの。先生となら怖くない。どんな未来が待ち受けていても、先生と一緒なら受け入れて許せる気がするの。──そのうち、このクソみたいな12月が終わって、次の暦が1月でも4月だったとしても、やっぱりこの気持ちには嘘は付けないからさ……ねえ、先生」

「まいったな、俺にミハルを拒絶できないの知ってるくせに」

 1年間限定の恋は終わる。そうして、これからはお試し期間ではない本物の恋愛が始まるのだ。誰にも言えない禁忌の関係。──本当はちょっと羨ましいけれど、クラスメイトの友達が体験する眩しい青春なんて、もうどうでもいい。希望なんかなくても、険しい茨の道でも、辿り着く先が地獄でもいい。私の傍らには先生が必要なのだ。

 ああ、この心臓から吹き出してしまいそうな熱をそのまま言葉にしてしまおう。恋は衝動だ。そこに理由なんてない。私は子供だから、先生には出来ないこんな恥ずかしいことだって叫んでも許されるのだ。春めく淡い青空に私の声が遠く響いて、砕け散りながら吸い込まれていく。


「12月が終わっても、ずっとずーっと一緒だよ! 先生、大好きっ!!」


〈了〉


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