魔界学園
土本レイ
第1話 不思議な世界
私は氷谷まなつ、中学二年生。クラス中からいじめを受けている。この世に生きがいなど感じない。感情とかも一切捨てて、操り人形みたいにして生きている。今は昼だけど、クラスの代表格に屋上に呼び出された。今は暗い階段を上ってる。なんか、後ろから誰かがついてきてるみたいだけど、どうせあいつらの仲間だろう、振り向く必要もない。
屋上の扉を開けると、呼び出した張本人が何人かのクラスメイトを引き連れて立っていた。すっごいにやにやと笑ってて気持ち悪い。名前は知らないが、同じクラスの連中であることはわかる。
「お前、また性懲りもなく学校に来やがって」
しかも、意外とみんな頭脳派だから、証拠も何も残らない。反逆の術もないから、いつも沈黙を貫いている。
「先生にも親にも頼れないんだろ?これ以上不満を溜め込まないほうがいいぜ」
「そーだそーだ!陰キャ野郎は学校来るなよ!」
毎日この調子。今更何か反論する気にもならないが、今日はこの馬鹿どもに一矢報いてやろうと考えている。私は、クラスメイトの言うことを徹底的に無視して、屋上の端に向かった。クラスメイトが何か喚きながら近づいてくるのは想像がついた。想定外だったのは、私についてきた子が私のほうを追いかけてきているということだ。なぜか私を心配するような雰囲気が出ている。
「おい、陰キャ!何するつもりだよ!動くなよ!」
などと騒いでいたので、振り返った時にめいいっぱいの殺意を込めた眼差しを向けて黙らせた。
私はそのままフェンスを越えて、飛び降りる準備を整えた。当然、私が死んだり大けがを負ったりしたらいじめがばれるので馬鹿どもは慌てて私を呼び戻そうとするが、応じる気などさらさらない。そのまま右足を空中に放り投げて、全体重をかけた。結果的に言えばそのまま落ちたのだが、落ちる寸前に誰かがフェンスを掴んでいた私の手に触れたのだ。その時の、
「まなつちゃん!」
という声も聞き覚えがあったが誰のものか分からない。でも、いじめの集団の一員ではないのだろうと、直感が告げていた。誰だっけ?と。そんなことばかり考えていたが、そのうち意識も途絶えてしまった。
しばらくして、私はベッドの上で目を覚ました。病院かと思った。でも雰囲気が違う。でも、じゃあどこだと聞かれても分からない。保健室…な気もするが、私が知っている保健室ではなかった。薄暗くて気味が悪い、なぜか体も痛くないので早くここから出て行ってしまいたい。そんな場所だ。しかし、私がその部屋から出ることを良しとしない老婆が、入り口の前で椅子に座っていた。
「やっと起きたか、まなつ」
急に喋ったので、わっと声を出してしまった。
「大声を出すんじゃないよ。あんた、ここに来たってことはそれなりに覚悟持ってきてんだろ?」
何言ってんのかさっぱりわからなかった。その老婆が誰かも知らない。とりあえず、あなたは誰か、と問うことにしてみた。
「私かい?私が誰かなんて知らなくてもいいんだよ。でも、ここが魔界だ、ということは教えておくよ」
魔界…なるほど、転生したのか。
「みんなそう言う。でもそんなものじゃない。ここは、あんたの心の中だよ」
…え?心の中?何も言い返せなかった。この、薄暗くて気味が悪い、早く出ていきたいと思うこの世界が、私の心の中だと?
「詳しいことはそこの本でも読んで理解しなよ。じゃあ私は失礼するから」
それだけ言い残して老婆はいなくなってしまった。
ベッドの横の机には本が置かれていた。表紙には『ガイドブック』の文字が。何も知らずにこの世界から出ても何もできないので、全部読んでみることにした。
一時間くらいが経過して、ようやく読み終わった。なかなかに分厚くて、本を持っていた腕は疲弊してしまった。簡単にこの魔界をまとめると、
①この世界は自殺したけど本当は生きていたかった人、または本当の自分を見つけた
いと思っている人の思いが反映されている
②その人にとって思い入れが強い現実の場所がそのまま反映されている
③他の自殺者は別の世界にいるので会うことはできない
④鍵を見つけて世界の奥に行けば現実の世界に戻れる
といった感じだった。あと、この魔界の地図も見つけたが、『理科室』だの『家庭科室』だの書いてあるのを考えると、ここは学校なのだろう。学校に思い入れなど微塵もないのだが…
しかし、いつまでも保健室にいるわけにはいかないので、その本に記されていた教室に向かってみることにした。
魔界学園 土本レイ @rei-109
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