番外編第十二話「聖なる鐘よ皆の心に」
新聖暦1045年 十二月二十四日
聖誕祭第一日目。
正確には前夜祭であるが、いつの頃からか両日共にとなったそうだ。
既に聖地発見、先王の快癒、ラックとレタの婚約。
そして優者藤次郎達が来ている事が今日発表され、王都全体が湧き上がっている。
藤次郎達は祭典が始まるまで、城の客間で寛いでいた。
「ここからでも見えるけど、ほんと人が多いわね」
「ええ。もし今日城下町に行ったら祭典に間に合わないかもでした」
「同じ北国でもうちの国とは大違いね」
「昔と比べると人口増えたみたいだけど、それでもこっちの方が多いな」
ルカとジェドがそう言うと、
「そうなんだ。いつかあんたらの世界にも行ってみたいわね」
「そうですね。私も行けるなら」
「もし来る時は両親の時間に合わせてね。こっちは未来だから」
ルカがそう言うと皆が頷いた。
夕刻、王城内祭殿。
そこで祭典が行われていた。
「大聖神ニコラウス様、今年も多くの子供達に、夢と希望を授け給え」
ラックが中央にある神像に祈りを捧げる。
「ニコラウス様こそ初代サンタクロース様で、今のサンタクロース様のご先祖様なのよ」
リュミが小声で言うと、隣りにいたジェドとルカは苦笑いしていた。
「そうなのですね。と静かにしていましょう」
祭典が終わり、城のバルコニーに出た。
そこで将来の王妃レタのお披露目、藤次郎達が紹介され、ジェドとルカも国の恩人だと紹介されると大きな歓声と拍手が起こった。
「こんなに感謝されるって……分かってはいるけど、やっぱ直に見ると実感が湧くよ」
「お兄ちゃん、ある意味ここに来れてよかったね」
「うん。そうだ、僕としては早いけど皆さんに贈り物をしようかな」
ジェドが後ろに下がってそう言うと、
「ああ、あれね。うん」
ルカも一緒に下って頷いた。
そして、ジェドとルカが両手を上にあげ……。
「『聖なる鐘』よ、皆の心に鳴り響き」
「夢と希望を伝えて!」
そう言った二人が白く輝き、その光がはるか上空にまで伸びていった。
カーン……
カーン……
「おや、これは祝いの鐘ですか? いい音ですね」
藤次郎がラックの方を向くが、
「ううん、こんな音色の鐘は王都にないはずだよ?」
「え?」
「皆、あれ見て!」
リュミが上を指して声を上げた。
空を見ると七色に輝く光の粒、いや雪が降ってきた。
「うわ、この世界ではこんなものも」
「ある訳ない。これは奇跡」
ウイルが頭を振って言った。
「そ、そうなのですか……え?」
藤次郎の目の前にある光景が浮かびあがった。
それは彼が五つの時にした、袴着の儀。
だがそこには父母と家人だけでなく、なぜかこの時はいなかった祖父母もいた。
祖父彦九郎は笑みを浮かべて藤次郎の頭を撫で、祖母さやは嬉し泣きしている。
そして皆で祝いの宴をしていた。
「ああ……本当にあったのかもしれないな」
「うわ、家族が揃った最後の聖誕祭……あ」
リュミが見ていたのは前世での聖誕祭で、場面が今世での家族が揃って聖誕祭をしているところに変わった。
そこにはおそらくは姉達や弟の想い人達だろう者もいた。
そして自身の隣にいる者を見て……。
「うう~、もう観念するしかないのね~」
「ああ……」
ジニーはやはり父が生きていた頃にした、聖誕祭の思い出。
だが途中から場面が変わり……。
ブークが父に肩車されていて、おそらくはブークの母であろう女性が自分の母と談笑している光景が見えた。
「こうなってたら、いや本当になっていたんじゃって思えるよ」
「祖父様、あれは大事だからこそ、大事な義弟にあげた」
ウイルは幼い頃の聖誕祭を見ていた。
そこで今は亡き祖父から弓を贈られていた。
今はブークが持っているあの弓を。
そして場面が変わり、おそらく未来の光景だろうか。
自分とジニー、そして自分達に似た小さな子供。
ブークと従妹アルも並んでそこにいる、そんな光景が浮かんだ。
「……胸がいっぱいだ」
ウイルは珍しく涙目になりつつも笑みを浮かべていた。
「はは、そうだったな。拙者も幼かったなあ」
ベルテックスは幼少の頃、父母に拙いが手作りの首飾りを贈っていた。
両親は今もそれを大事に使っている。
そして今度は自分とナホが子供達からやはり手作りの装飾品を贈られている光景が浮かんだ。
「……こうやって、繋いでいくのかもな」
「ああ皆さん。お父様、そしてたぶんお母様も」
ナホは修道院で共に育った者達やマザーにシスター、そしてやはりそこにいなかったはずの両親と共に聖誕祭の祝いをしている光景を見ていた。
そして場面が代わり……、
おそらく自分達の子や孫であろう男女が世界中に散らばり、人々の為に働き感謝されている光景が見えた。
「……皆、ありがとう」
ラックとレタも、先代王夫婦も、城中の皆が遠き日の思い出やもし叶うならと思う光景を見ていた。
そして、その七色の雪はエゾシマだけでなく世界中に降り注いでいた。
イヨシマ王城のベランダでは、
「うわ、なんて綺麗な雪なのよ。それに……」
「ええ」
ナンナとベルは幼い頃、家族と過ごした聖誕祭の光景を見ていた。
そこにはナンナの今は亡き母、ベルの亡き両親もいる。
「優者藤次郎がか、これは?」
イヨシマ王が目に涙を浮かべて言うと、
「違うわよ。これきっと、サンタクロース様がだわ」
「はい、私もそんな気がします」
「……かもしれぬな」
王は目を閉じ、祈りを捧げた。
アキヅシマ王城。
「うわあ、姉ちゃん達もこれ見てるかなあ?」
「ええ、きっと見てるわよ」
ブークと母が窓の外に見える雪を眺めていた。
「むううあの小僧、かわいいわたしがいるのに見向きもしない」
アルが剥れながら言う。
「ははは。皆楽しんでくれているようでよかった」
「陛下、ありがとうございます。我らを招いてくれて」
ウイルの父、族長が王に礼を言う。
「陛下ってまだ慣れないなあ、即位したばかりだし」
王太子だった彼は先月、父から王位を譲られたばかりだった。
彼は聖誕祭とその祝いに守護者達の代理だとか理由をつけ、ジニーの母と弟ブーク、ウイルの一族を城に招いていた。
「そのうち慣れます。ところで陛下、もし叶うなら今度は我らが村でおもてなしさせてください」
「お、じゃあ時間が出来たら連絡するよ」
王は後に村へ行く途中で、妻となる女性に出会うことになる。
ツクシシマ王城のバルコニー。
「ああ、こんな奇跡が見られるだなんて」
大きくなった腹を擦りながら、空を見上げる王妃。
「そうだな。藤次郎がとも思ったが、おそらくは……」
王も目に涙を浮かべ、七色の雪を眺めていた。
「……さて、そろそろ中に入ろう。体に障るぞ」
「ええ、……う?」
王妃は腹を抑えて蹲った。
「ど、どうした?」
「う、う、生まれそう」
「な、なんだと? 誰か、誰かあるかー!」
王妃は翌日の朝に王子を出産した。
予定より早かったが母子共に問題なかった。
それを聞いた国民はもう大いに湧き上がった。
そして、誰言うともなく「サンタクロースが王子を授けてくれた」となった。
「ムニャムニャ……ありがとう、黒いもの消してくれて」
時空魔人はどうやら夢を見ているようだ。
遠い未来で起こる夢を。
「どうやら叶うようだな、我らの願いは」
「ええ。あの子あたしそっくり。そしてあっちの子は藤次郎さんに似てるわね」
ケイトスとバラリアは地上に来ていて、それぞれの思い出やおそらくは遠い未来の光景を。
「……ありがとね。こんな素敵なもの見せてくれて」
マシュは愛する王と過ごした遠き日の光景を見ていた。
そして王宮で王や王妃と三人で談笑しているという無かったはずの光景も見えた。
「ジェド、ルカ。ほんとありがとね」
マーリンは涙を流しながら、在りし日の光景を見てそう言った。
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