番外編第十三話「祭りの終わり、そして」

「ジェド、ルカ。素晴らしい贈り物をありがとう」

 藤次郎が二人に礼を言う。

 あれを起こしたのは二人だとマーリンから聞いてだった。


「いやいや、喜んでもらえてよかったよ」

 ジェドが照れながら言うと、

「世界中の皆に代わってお礼を言うわ。それとあたし個人としても、思い出をありがとうね」

 マーリンがそう言って頭を下げた。


「え、世界中にこれがですと?」

「なんという力。ジェドとルカ、何者?」

 ベルテックスとウイルが驚きながら言うと、


「ねえ、もう言ってもいいわよね?」

「ええ。この世界でなら流れに影響はないから、大丈夫よ」

 リュミが尋ねるとマーリンが頷いた。


「それじゃ。ジェドとルカはサンタクロース様のひ孫よね?」

 リュミが笑みを浮かべて言うと、

「はい。母の祖父がリュミさんの時代のサンタクロースです」

 ジェドがそう言って頷き、

「そしてね、お兄ちゃんが次のサンタクロースよ」

 ルカが兄を指して言った。


「な、なんと?」

「そうだったのですか。いえあれ程の事ができるなら」

「あんな事、藤次郎でもできないはず」

「めちゃくちゃ凄えじゃんか!」

 皆が口々に言い、


「いやそんな。僕なんて」

「ジェドはそのサンタクロースであると同時に、勇者ではないかと私は思うよ」

 藤次郎がそんな事を言った。

「は?」

「人々の心に夢と希望を示す。それがどんな困難にも立ち向かう勇気に繋がることもあるだろうからそう思ったんだけど」


「それ、二人のお父さんの方がより当てはまるわね」

 リュミがそう言う。

「おや、そうなのですか?」

「うん。お父さんはその心でどんな険しい道も進み、その心で暗い道を照らし、皆の夢と希望を届ける人。そして道を塞ぐものが現れたらその力でそれを打ち砕く。それを見ているとこっちも勇気が出てくるのよね」

「そういえばお師匠様もそれっぽい事言ってたわ。それでね、その雰囲気がお兄ちゃんにもあるともね」

 ルカも続けて言う。


「僕が……?」

 ジェドが戸惑っていると、

「僕もそう思うよ。さて優者だけじゃなく勇者が、サンタクロースが我が国に来てくれたって皆に伝えないとね」

 ラックはそう言った後、国民に向けてそれを伝えた。

 すると更に大歓声が起こり、未来のサンタクロース、ジェドを称える声も聞こえてきた。


「……ほんと、ここへ来れてよかった」

 ジェドの目に涙が浮かんでいた。

「もしかするとジェドの願いを叶えてくれたんじゃないかな、御初代様が」

 藤次郎がそう言うと、

「……かもしれないね。うん」




 翌日も朝からというか、昨夜から一晩中大いに湧き上がっていた。

 やがて日も暮れ、お祭り騒ぎも収まって来た頃。

 

「さてと、そろそろ帰らないとだな」

「そうよね。あっちでも皆の心にだし」

 ジェドとルカがそう言った。


「二人に会えたこと、光栄に思うぞ」

「ええ。生涯最高かもですわ」

「ジェドとルカに、その一族に感謝していると伝えて欲しい」

「夢と希望をありがとってさ」


「ええ。皆喜ぶと思います」

「お父さんなんか号泣しそうよね」


「さてと、あたしがタカマハラまで送ってあげるわ。そこからなら」

「いや、俺が直接元の世界の元の時代に送ってやるよ」

 ポスランがリュミの言葉を遮って言った。

「あ、そうか。ポスラン様ならできるわよね」

「ああ。それでいいか?」


「はい。では皆さん、お世話になりました」

「また会おうね」

 二人は透明の球体に包まれ、空高く舞い上がった後で消えた。


「ええ、いつの日にかまた会いましょう」

 藤次郎達はしばらく空を見上げていた。







 そして、数日後。

 藤次郎とリュミはタカマハラの彦九郎の屋敷にいた。

 仲間達はそれぞれの家で年越しをとなり、藤次郎は「どうせならお兄ちゃん達の家で年越ししよ。藤次郎が一緒だと喜ぶと思うしね」とリュミに言われ、そうすることにした。 


「あんなものは神になってからも見た事はなかった。いや彼らには感謝しかないな」

 彦九郎が一杯やりながら言う。

「お祖父様は二人のひいおじい様、サンタクロース様に会ったことがおありだったのですね」

 藤次郎も祖父に付き合い、酒をちびちび舐めていた。

「サンタクロース殿がまだ若い頃で、それを継がれていない時だったがな。行き倒れになっていたところを奥方に助けてもらい、その後サンタクロース殿やその親友、出会った仲間達とあの世界を旅したよ」

「話を聞いていると旅した世界の数では私はともかく父上ですら、お祖父様には到底敵いませんね」

「ははは。私は『時の調整者』もしていたからね」

「そういえばそれ、ポスラン様も仰ってましたがなんなのですか?」

「乱れた、あるいは乱れそうな時の流れを調整する役目を持った者の事なのだよ。神々やその眷属でも難しいことをね」

「お祖父様はそんな重要なお役目もされているのですか」

「そっちはもうお役御免になっているよ。いや本当によい旅をさせてもらったよ」

「大変でしたでしょうけど、羨ましいです」




「リュミさんってお料理上手ですね。味付けもちょうどいいですよ」

 さやとリュミはおせち料理を作っていた。

 最初はさやが一人でだったが、リュミがぜひさせてほしいと言うので一緒にとなった。

 流石に辛味は控えているが。


「あたし達姉弟っていざ何かあった時の為にって、昔から母に仕込まれてたの。おせち料理も毎年母や姉達と作ってたわ」

「私はあの人の為にと母や義母からだけでなく、あちこち行って教わりましたよ」

「そうだったんだ。たしか小さい頃に婚約したって聞いてるけど」

「これは神になってから知ったけど、私は前世でもあの人に会っていて、やはり一目惚れだったわ」

「へえ、前世のお兄ちゃんってどんな人だったの?」

「あっちは前世じゃないわよ。時の旅の途中で前世の私と出会ったの」

「え、そうだったの?」

「ええ。そして前世ではまた会えるかもと待ち続けて、ずっと一人だったわ。だから覚えてないけど、今度こそは逃がすかだったのよ」

「そっか……(だからヤンデレになったのかなあ?)」


「リュミさん。あの子は遅くなるかもだけど、ちゃんと求婚すると思うから見捨てないでね」


「……はい。待ってます」


「我慢できなくなったら襲ってもいいわよ」

「しませんって」

「ふふふ。さてと、蕎麦も茹で上がったわね。皆で食べましょ」

「うん、しかし年越しそばってまだ無かったのね。江戸時代からあるって聞いてたんだけど」

「もう少し後でかもしれませんね。ふふ、日ノ本の人で最初に食べたのが私達になるわね。言えないけど」

「あはは」




「そろそろ年が明けるな」

 彦九郎が壁にかけてある、カチコチ音が鳴る飾りのようなものを見ながら言う。

「あれって時計よね。江戸時代ではお殿様か豪商くらいしか持ってないって聞いたわ。やっぱ神様のお家ね」

 リュミが時計を指して言うと、

「うちにもありますよ。あれと似たようなもので、一彦がくれたんです」

 藤次郎もそれを見ながら言った。

「へえ。未来ならもっと凄そうなのもあるだろうに、あれなんだ」

「それも持ってきてくれたけど、父上も母上も『時を刻む音がなんだか落ち着くな』と言われ、私もそう思ったんでそれにしたんです」

「なるほどね」


 ゴーン、ゴーン……。


「除夜の鐘ですねって、この世界にもあったのですか?」

「いいや、こちらでは年が明けてから鐘を鳴らすはずだし、そもそもこの辺りには聞こえないよ」

「え、ではこの音は?」

「どこかの世界の扉が開いているから、そこから聞こえているのでしょ」

 さやがそんな事を言う。

「あの、それ閉めなくていいのですか?」

「構わんよ、扉は時折勝手に開いたり閉じたりするんだ。もしくは誰かが開けて通る場合もあるが、悪いものでない限りは何もしないよ」

 彦九郎が言うと、

「なるほど。では」

「大丈夫だという事だよ」


「あ、そろそろよ」


 ボーン、ボーン……


 時計が零時を差した。




「明けましておめでとう。今年もよろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

 

 二人の旅はまだまだ続く。

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