番外編第十一話「夢の続き」
その後、もう止めてあげようとなったのでマーリンが止めた。
「すみません。なんというかいろんな思いが渦巻いてしまって……」
藤次郎が正座して言う。
「気にするな。藤次郎だったからああなっただけで誰しも渦巻くだろう」
「それに充分おしおきされた。もういい」
ベルテックスとウイルがそう言い、
「うぎゃー! あんなの無いわよー!」
「まあまあ、このままくっついちゃいなさいな」
「そうだぜ。彦九郎様だって大喜びするぜ」
リュミはまたキレ出したが、ナホとジニーがニヤつきながら止めた。
「ですが」
「悪いのはあたしだから、もう気にしないで」
マーリンが藤次郎の側に寄り、小声で言った。
「え?」
「あんた達も大丈夫なんだけど、二人の調査が終わった後なら説明が楽だから言わなかったの。まさかあそこまでになるなんて思わなかった……ごめんなさい」
「……いえ、分かりました」
「ありがと」
そしてマーリンが皆の方を向き、
「さて、そろそろ夜明けよ。戻りましょ」
翌日、ラックは両親に事の次第を話した後、レタとの婚約を発表すると伝えた。
「そうか。なにはともあれよかった」
「ええ。レタ、息子をお願いしますね」
先王と太后がレタに頭を下げた。
「よかった。陛下、レタ殿。ご婚約おめでとうございます」
藤次郎がそう言うと、
「ありがとう。それで、君達はいつするの?」
ラックがややニヤつきながら言う。
「え、いやその、私はまだというか、その」
「唇奪っといて責任取らないの?」
「え、ですからその」
「まあいいや。うん」
「しかし守護神様の妹女神様と大知神様の眷属様にまでお会いできるとは、光栄の極みです」
先王と太后がマーリンとポスランの前に跪いた。
「あのさ、俺は迷惑かけた身だから礼は取らなくていいよ」
ポスランがそう言って二人を立たせようとした。
「では失礼して。眷属様、どうかもうお気になさらずに。そうだ、折角ですので祭典を見ていってください」
先王が立ち上がって言った。
「うううう、ありがとう。息子さんがいい人なのは親がそうだからなんだなあ」
ポスランはそう言ってまた泣き出した。
「そう言っていただけると嬉しいですよ」
「……あの、いえ」
「どうしたの?」
レタがポスランに何か言いかけたのを見たラックが尋ねる。
「いえ、今お聞きするのはと思って」
「え? ああいいぞ、遠慮なく聞いてくれ」
泣き止んだポスランが頷いた。
「は、はい。あの、私はどうしてここに来たのでしょうか?」
「ああそれな。まずレタは約三百年後の日本って国にいたんだよ」
「え? あの、もしや私の世界から?」
藤次郎が言うと、
「そうだよ。そして詳しくは言えないけどな、赤ん坊だったレタとその両親はある大事故に巻き込まれちまい、その時にレタの両親は亡くなったんだよ」
「え……?」
「けどレタは運良くといえばいいのか、その大事故の影響で出来た時空の渦に吸い込まれて、ここに来ちまったんだよ」
「そうだったのですか……もし会えるなら会いたいと思ってました」
レタは目を伏せて言う。
「前に話してくれたよね。レタは見つかった時の状況からして、故意に捨てられたのではないと義父上が言っていたと」
ラックがレタの背を擦りながら言うと、
「はい。顔や衣服が煤だらけだったから、何者かに襲われた際に私だけ魔法か何かで逃したか、置いていったのかもしれないと。そして義父はそれらしき事件がなかったか、赤子とはぐれた親がいないかを調べたそうですが……とうとう見つからず、それで私を養女にしたと話してくれました」
「そっか……ってそれだと元の時代に帰した後、どうするつもりだったのよ?」
気を取り直したリュミが尋ねる。
「そりゃ俺が未来で預け先手配するつもりだったよ。どこかは言えねえけどアテもあったしよ」
「あ、それもそうよね」
「あの、藤次郎に元の世界でこの事を沢山の人に伝えてもらうのはダメなのですか? おそらくレタのご両親だけでなく、多くの方が大事故とやらで」
ラックが尋ねるが、
「無理だよ。藤次郎の世界ではそこまで理解できるやつは少ない。いや信じてくれたらそれはそれで、流れが乱れちまうよ……」
ポスランがそう言った。
「では、我が家だけで伝えるのはどうでしょうか?」
藤次郎がそう言うと、
「それなら影響は無いわね。けど救える保証も無いわ」
マーリンが頷いた。
「分かりました。陛下、レタ殿。それでよろしいでしょうか?」
「は、はい。優者様、よろしくお願いします」
「お願いね」
レタとラックが頭を下げた。
「そうだ。ねえ、あの夢ってもしかしてレタさんが帰った後の事考えてだったの?」
リュミが言うが、
「いやあれは偶然だけど、もしかするとレタの僅かな記憶が呼び起こしたのかもしれないな」
「そっか。しかし二人共似合ってたわ、日本人って黒髪が多いから違和感ないし」
「黒髪はこちらでは珍しい。いやもしかするとベルテックスのご先祖様やレタ殿のように、日本からこの世界に来た人が他にもいたのかもしれない」
ウイルがそう言う。
「じゃあ、アタイもどっかで日本人の血が入ってるのかな? あ、マーリン様なら知ってるんじゃ?」
「ジニーは残念ながら……ん? ちょっと待って?」
マーリンは何やら考え込み出した。
「え、どうしたんだよ?」
「えっと、あれがこうでああなってだから……うわ気づかなかったわ。ジニー、あんたも一応日本人の子孫よ」
「え、そうなんだ!? よっしゃあ!」
ジニーが拳を握りしめ腕を上げた。
「あの、そのご様子からしてかなり遠いご先祖様がですか?」
藤次郎が尋ねる。
「そうよ。遥か昔、日本がまだ国ではなかった頃の話だけど、そこに住んでいたとある子がダンの世界に行ってね、その子の子孫がダンやジニーなのよ」
「なるほど、だから一応ですか」
「まあ無理があるかなと思ったけど全く繋がってない訳じゃないし、いいわよね」
「俺は当然違うが、子供は確実に子孫となる」
「わたしもですわ。ふふ、たくさん産んで子孫増やしますわぁ」
ウイルとナホも笑みを浮かべて言った。
「僕達はどうだろな。母さんやお祖父ちゃんも黒髪だし」
「いくらなんでも違うんじゃない? うちの世界って転移してこれる人、限られてるじゃないの」
ジェドとルカがそう話していた。
「あたしもあんた達のまでは見えないわ。けどもしかするとそうかもね」
「てか皆そんなに日本人がいいの?」
リュミが首を傾げると、
「ん~、というか異世界人がで、それがたまたま日本人っていう感じかな」
ジニーがそう言い、
「そうですわね。この世界の救世主たる彦九郎様や藤次郎さんが日本人ですから」
ナホもそんな事を言うと、
「うーん、そんなもんなのかなあ?」
リュミはまた首を傾げた。
「さてと、どうする? 優者が来た事は直前まで伏せておくから、ゆっくり王都を見物できると思うよ」
ラックが皆に言うと、
「ありがとうございます。ではそうさせていただきます」
藤次郎が頭を下げて言った。
「お前達も行ってきたらどうだ?」
先王がラックとレタにそう言った。
「え、ですが」
「今日くらいはいいだろ。私も久々に仕事がしたいしな」
「まあ、親孝行と思っていってらっしゃいな」
太后も笑みを浮かべて言う。
「……はい。じゃあレタ、夢の続きといこうか?」
「はい!」
レタは嬉しさのあまりか、周りの目を気にせずラックの腕に抱きついた。
「あららら。ま、遠くから見守りましょ」
「ええ。夢の続きか……私も」
「ん?」
「いえ、何も」
リュミと藤次郎がそう話していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます