番外編第八話「滅びの夢」

 その後、先王の図らいで藤次郎とジェドがラックの自室へ招かれた。

 ジェドが率先して藤次郎やラックにいろいろ尋ねたりとしているうちに、だんだんと打ち解けていった。


「へえ。そんな友達がいるんだね」

 ラックが感心して言う。

「はい。河童の子とか他の妖怪の子などもいます」

「僕も鬼族やエルフの子とかいますよ。あと付喪神みたいなのも」


「いいなあ。僕には友達と呼べる者はいないから」

「けど陛下、いえラック様にはお慕いしてる方がいますよね」

 藤次郎がそう言うと、

「……ふう、やっぱ優者には分かるか」

 ラックはそう言って目を伏せた。


(いやいやバレバレだって)

 心の中で言うジェドだった。


「うん、僕はメイドのレタが好きなんだ。彼女もそう言ってくれた」

「ではなぜお妃様に」

「したいけど、僕達が結婚すると国が滅ぶんだ」

「は?」

 藤次郎とジェドは訳が分からず、間の抜けた声を上げた。


「夢で時々見るんだよ。僕達が結ばれようとすると、全て滅んでいる光景が……聞けば彼女も同じ日に同じ夢を見るんだよ。だからあれは予言か何かと思うんだ」


「いや、それはたぶん誰かが呪いかけてるんじゃないですか?」

 ジェドがそう言うが、

「もし呪いだとすると相当だよ。だって城には結界が張られているし、王宮魔導師もいるのに気づかない程なんだから」

 ラックがそう言って頭を振る。


「妖魔の残党か? いや妖魔大帝無き今、それほどの者がいるとは思えない」

 藤次郎は顎に手を当てて言うと、

「だよね。そうだ、その夢に入って原因探ってみますよ」

 ジェドがそんな事を言った。

「へ、夢の中にって、そんな事できるの?」

 ラックが目を丸くすると、

「はい。というか僕はともかく優者ならって思ってませんでした?」

「……うん。本当は父上の事もすぐさまお願いしたかったけど、それでいいのか、何でもかんでも優者に頼っていいのかとも思ってね」


「いいんですよ。この力は人々の為にあるものです。遠慮せず頼ってください」

 藤次郎が胸に手を当てて言う。

「……うん。お願い」

 ラックは目を閉じて頭を下げた。


「分かりました。では皆もいいですよね?」

 藤次郎が扉の方を向いて言うと、


「ううう、やっぱバレてた」

「アタイ達、ちゃんと気配消してたぞ」

 リュミ達が部屋に入ってきた。


「分かりますよ。さて夢の世界へですが、ジェドは行けるのですか?」

 藤次郎がジェドの方を向いて言う。

「うん。ルカが道を示せばいつでもね」


「俺もできるが、夕暮れ時じゃないと難しい。二人共凄い」

 ウイルが感心して言う。

「あはは。あたし達は二人でやっとだからまだまだよ」

 ルカがそう言うが、


「だからできるだけ凄いのだが」

「この子達ってほんと感覚麻痺してますわね」

「だよなあ……」

 皆小声でぼやいた。




 その後、レタも呼ばれて来たが、

「えと、一緒に寝ないとダメ?」

 ラックが戸惑いがちに尋ねると、

「ええ、離れてたら上手くいきませんので。あと抱き合って寝てください」

 ジェドがそう言ってベッドの方を指した。


「あ、あわわわ、そんな」

 レタは顔を真っ赤にして狼狽えていた。

「うう、恥ずかしいけど我慢しよ」

「え、ええ」

 そして二人仲良くベッドの上に横になって抱き合い、

「ではいきますわよ。催眠呪文」

 ナホが魔法をかけると、二人はすぐに寝息を立て始めた。


「上手くいきましたわ。ふふ、ほんと仲睦まじいですわね」

 ナホが笑みを浮かべて言った。


「ところで、本当にこうしないとダメなの?」

 藤次郎がジェドに尋ねる。

「抱き合うまではしなくていいけど、どうせならってね」


「ジェドは策士だな」

 ウイルが少し笑みを浮かべて言った。

「あはは。さてとルカ、頼むよ」

「うん、えーい!」

 ルカが手をかざすと、ラックとレタの上に七色に輝く穴が現れた。


「じゃあ皆さん、行きますよ……はあっ!」

 ジェドの体が光り、それが皆を照らした。




 そして光が止むと、

「はい、着きましたよ」

 辺りの景色が変わっていた。

「や、やはり凄い、一瞬でだなんて。しかも魂だけじゃなく体ごととは」

 ウイルが驚きながら言い、

「で、ここが二人の夢世界?」

 ジニーが辺りを見渡す。

 そこは城よりも高い灰色の建物があり、道は石畳とは違う何かで舗装されている場所だった。


「ここって未来の、あたしの時代の日本そっくりだわ」

「うん。あたし達も日本に行ったことあるけど、こんな感じよ」

 リュミとルカが辺りを見渡して言い、

「そういえば父上と母上が見た夢世界も後世だったと言ってたな」

 藤次郎もそう言った。


「とにかく原因を探すか」

「いえ、お二人を見つけた方が早いかもですわ」

 ベルテックスとナホが言うと、


「あ、あっちから二人の気配を感じますよ」

 ジェドが指した方を見ると、たくさんの樹木が並ぶ場所があった。

「本当だね。皆行きましょう」 

 藤次郎達はそこへ歩いて行った。



 それは現代で言う総合公園で、中に入るとすぐに二人を見つけた。

「あ、手繋いでら。きっとデートしてるんだ」

「あら、あれって未来の服ですか?」

「あれ学生服っぽいわ。二人共よく似合ってるね」

 ジニーが、ナホが、ルカが言い、

「身分関係ないって言ってもやっぱ気になるのかな、こんな夢ってことは」

 リュミが二人を見つめながら言った。

 

「覗き見はよくないですが、見張るのだからいいですよね」

 藤次郎が言うと、

「ああ。しかし初々しいな、見ていて心が洗われるようだ」

「同感。だからこそ邪魔する奴、許せない」

 ベルテックスとウイルが言い、

「ええ。羨ましいですね、爆発しろ」

 ジェドはなんか物騒な事を言った。



 その後二人は公園の中を歩き、木々や草花を見ては笑みを浮かべ。

 やがて近くにあったベンチに座り、しばらく談笑し……。


「レタ、いい?」

「ラック……ええ」

 二人はそうっと顔を近づけていく。



「あ、これ以上はダメです」

「やましいものじゃないんだからいいでしょ」

 藤次郎とリュミが揉めていると、

「しーっ、静かに」

 ルカが口元に指を立てて言った。




 そして、二人が唇を重ねようとしたその時……。


「え?」


 空が突然真っ暗になったと思うと、辺り一帯の木々や草花が消え去って何もない荒野と化した。

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