番外編第七話「王都到着後」
藤次郎達はその後方々を回り、祭典の四日前に王都に着いた。
考えてみれば王都も見所満載だろうし、ギリギリに行って挨拶していたら見て回る時がないだろうとなったから。
城門の前に着くなり門番に敬礼され、すぐさま控えの間に通された。
どうやらツクシシマ同様、アキヅシマ王家から藤次郎達の絵姿が送られていたようだった。
しばらく控えの間で待っていると大臣がやって来て、謁見の準備が整ったと皆を玉座の間へと案内した。
玉座の間。
そこは北国を象徴するかのように真っ白で、壁には雪の結晶を思わせる模様が刻まれていた。
「ようこそ。僕がこの国の王だよ」
玉座に座るエゾシマ王は、黒髪でまだ年若い少年だった。
「陛下、この度はお招きいただきありがとうございます」
藤次郎が膝をついて言う。
「いやいや、本当なら僕が会いに行くべきなんだけど、やっぱ国王だしね」
「いえ。あ、この二人は私達の友人です」
藤次郎がジェドとルカを指して言うと、
「うん。勿論客人として歓迎するよ」
王は笑みを浮かべて頷いた。
「ありがとうございます」
ジェドが頭を下げ、
「王様ってめっちゃ美少年ねえ」
ルカが遠慮なく言うと、
「こら、失礼だろ」
「ははは、ありがとう。美形かはともかく僕は十五歳だから、まだまだ少年だよ」
王が笑いながら言う。
「私やジェドと同い年でしたか」
「うん。父は昔から体が弱くて病がちで、今年王位を譲られたんだ。頭は冴えてるから僕の相談には乗ってくれるけどね」
「陛下、おそれながら優者様のお力ならあるいは、先王様も」
斜め横にいた大臣が跪いて進言した。
「僕が王じゃ不満?」
「いえ、ですがお辛そうにしている先王様を見ると、家臣一同胸が張り裂けそうになるのです……」
大臣はそう言って目を覆った。
「陛下、私達でお力になれるならなんでもお申し付けを」
藤次郎が言うと、
「……うん。手を煩わせてごめんなさいだけど、お願い」
王はそう言って頭を下げた。
先王の私室に通されると、揺り椅子に座る先王とその側に立つ太后が皆を迎えた。
「おお優者達よ。わざわざ隠居の私にまで会いに来てくれるとはありがたい」
先王が笑みを浮かべるが、やはり顔色は悪かった。
「いえそんな。あの、早速ですがお体を診させていただいてもよろしいでしょうか?」
「……いくら優者でもこれは無理だと思うが、お願いする」
「はい。では」
まずウイルとナホが先王を診察したが、
「……なんだこれ? 肝臓が悪いのは分かるが、原因が見えない」
「お体がだるく、食欲もあまりなく、腹痛もあるのですよね。けどやはり」
二人共首を傾げていた。
「そうなんだ。昔から体が弱かったが、ここ十年ずっとこの調子でな。妻が調合してくれた薬と魔法でなんとか抑えてきたが、最近はそれも効かなくなって……」
「私もあちこちから書物を集めたり識者に聞いたりしているのですけど、なかなか」
太后が頭を振る。
「母は元王家主治医でね、医学に関しては今でも国一番だけど、それでもね……」
王はそう言って項垂れた。
「藤次郎、心力でなんとかならない?」
「ええ、やってみます」
リュミに促されて先王の側に行こうとすると、
「待って。藤次郎、それ体の中にいる悪いものを追い出すよう思い浮かべながらやってみて」
ジェドがそんな事を言った。
「え? ええ、では」
藤次郎が手を先王に向けてかざし、先程ジェドが言ったようにすると……。
「ん? お、おおっ?」
先王の体が一瞬光ったかと思うとすぐに収まった。
「どうでしょうか?」
「あ、ああ。なんだか体が軽くなったような気がするよ」
先王が肩を回し、手を見つめて言う。
「肝臓が正常になってる。あと気の回りもよくなった」
「ええ。これならしばらく栄養をつけて静養すればお元気になられますわ」
ウイルとナホがそう言って頷いた。
「そ、そうか。ありがとう優者よ」
先王は目を潤ませて頭を下げた。
「いえいえ。ジェドが言ってくれなければ成功しなかったかもです」
「よかった。実は僕達の母方祖父と同じような症状だったから、もしかしてって思ってね」
「そうよね。お祖父ちゃんはお父さんが心力で治したんだけど、後で知り合いのお医者さんに聞いたら『今なら薬があるけど、体が弱い人には毒になるかも』って言ってたわ」
ジェドとルカがそう言った。
「ちょ、あんた達のお父さんって心力……使えてたわね」
「もしかして、ジェドとルカも使えるの?」
リュミと藤次郎が言うと、
「僕はちょっとだけ。両親や藤次郎みたいには無理です」
「あたしも大したことないわよ」
「いや使えるだけ凄いのだが」
「皆感覚麻痺してるよな」
ベルテックスとジニーがボソっと呟いた。
「陛下、早速国民に先王様の快癒を伝えましょう」
大臣も目を潤ませながら言う。
「そうだね。皆喜ぶだろうなあ」
王もそう言うと、
「あ、そうだ。実はですね」
「なんと、伝説の聖地を見つけたと!?」
先王が声を上げ、
「それも合わせて伝えたら、今年の祭典は例年以上の盛り上がりになるだろね」
王も頷きながら言うと、
「では伝えると同時に警備体制の強化を。ああ忙しくなるぞ大変だ」
大臣は言葉とは裏腹に喜び勇んで駆けていった。
夕方、王と先代王夫婦、藤次郎達だけでささやかな晩餐となった。
「そうか。聖地の精霊様は……」
藤次郎から話を聞いた先王が顔をしかめる。
「はい。言うなとの事でしたが、せめて皆様だけにはお伝えせねばと思いまして」
「話してくれてありがとう。皆、この事は私達の胸に留めておくでよいな?」
「はい」
王も太后も頷いた。
「ところでさ、陛下はまだ結婚しないの?」
リュミが遠慮知らずに尋ねる。
「え? うーん、いい相手がいないんだよね」
「お見合いしてますけど、全部断っているものね」
太后が苦笑いして言い、
「私も妻とは大恋愛の末だったから、強要はしたくないのだがな」
先王も腕を組んで言った時だった。
「失礼します。食後のお茶をお持ちしました」
ワゴンを押して入ってきた年若い黒髪のメイドが言う。
「うん、ありがとう」
王が笑みを浮かべると、
(おや?)
藤次郎は何かに気づいて首を傾げた。
そのメイドは手早く皆の空いてる食器を片付けて温かいお茶を配り、
「では失礼しました」
一礼した後、食器を乗せたワゴンを押して出ていこうとしたが、
「ああ待って。僕も手伝うよ」
王が立ち上がってそんな事を言った。
「え、ですが」
「いいって。では父上母上、しばらく優者達の相手をお願いします」
王も一礼した後、メイドと一緒に出ていった。
「あの、いいお相手がいらっしゃるようですが」
藤次郎は思わず部屋の出口を指して言うと、
「そうなのだよ。バレてないと思っているようだがな」
先王が苦笑いして言った。
「超鈍い藤次郎が分かるのだから、絶対城中知ってるわよね」
リュミがそう言うと、藤次郎は顔をしかめてむくれた。
「ええ、あの子はレタと言って、息子のラックと同い年でね。よく気がつくし人柄もいい子なので、私達もいつ紹介してくれるのか待っているのですけどね」
太后も笑みを浮かべて言う。
「もしかしてさ、身分がとか思ってんのかな?」
「いや、エゾシマは身分に関係なく婚姻できると聞いたが」
ジニーとベルテックスが言うと、
「その通りだ。いやレタの父は私の元親衛隊員で下級とはいえ貴族、身元はしっかりしている。だから何を気にしているのか私達も分からんのだ」
先王は首を傾げた。
「うーん、藤次郎になら話してくれるんじゃないかな?」
ジェドがそう言うが、
「どうだろう? というかどう聞き出せばいいか」
「お兄ちゃんも一緒に行けば? 同い年の男同士が集まってお話してたら、口を開いてくれるかもだし」
ルカがそんな事を言った。
「そうかな? じゃあ藤次郎、それでいい?」
「ええ」
「では私が取り計らおう。二人共、よろしく頼む」
先王が頭を下げて言った。
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