番外編第四話「空から降ってきた少年少女」

 旅は順調に進み、予定通り歩を進め目的地まで半分のところに来ていた。

 その間に野宿となった日もあったのだが、


「こんな入れ物に家が入るだなんて、一彦がくれたものより凄いです。やはり女神様のものですね」

 マーリンが渡した魔法の筒には皆が寝泊まりできる程の大きな家が入っていたので、テントを張ることなく快適に過ごしていた。


「この時代は知らないけど、未来の異世界には家を入れておけるものがあるわよ」

 リュミがそう言うと、

「そうだったのですか。じゃあ……ああ」

「たぶんそうよ。もっと快適なものもあるけどそれじゃ修行にならないし、気分が出ないかもって思ったんでしょうね」

「ふふ、ほんといい子孫ですよ」



「願わくば拙者達の子孫が藤次郎達の子孫、希望の優者の守護者であってほしいな」

「俺もそう願いたい……ん?」

 ウイルが何かに気づいて空を見上げた。


 そこに何か現れたかと思ったら、それはすぐ森の奥に落ちていった。

 

「ちょ、あれ人だったみたいよ!?」

「え、大丈夫かよ!?」

 リュミとジニーが声を上げると、


「拙者が行く、皆はここで待っていてくれ」

 ベルテックスは森の奥へ向かった。


 そしてものの一分で戻って来て、その両脇に抱えていたのは藤次郎と同い年くらいだろう黒髪の少年と栗色の髪の少女だった。

 

「怪我はなさそうだが目を覚まさぬ。ナホ、頼む」

「ええ。リュミさんとジニーさんも手伝って」

「うん!」

 ナホがその場に毛布を敷き、リュミとジニーが少年少女をそこに降ろした。


「藤次郎、どうした?」

 ウイルが顔をしかめていた藤次郎に尋ねた。

「いえ。あの女子、以前どこかで見た気がして」

「そうか。だとすると……いや、目覚めてからだな」




 しばらくして、少年の方が目を開けて起き上がった。

「う……ん?」

「気が付かれましたか。高いところから落ちてましたが、大丈夫ですか?」

 藤次郎が少年に話しかける。

「あ、はい大丈夫です。あの、ありがとうございました」

 少年は皆に頭を下げた。

「ねえ、もしかして浮遊魔法で空飛んでたとか?」

 リュミも尋ねると、

「いえ、知り合いの家に行こうとしたら急に黒い渦が現れて、それに妹と一緒に吸い込まれたんです」

 少年がまだ気がついていない少女を見つめて答えた。

「ああ、たぶん時空の渦に巻き込まれちゃったのね」

「そうかもですね。あ、僕はジェドといいます。こっちは妹のルカです」

 少年ジェドが少女ルカを指しながら名乗った。 


「ジェド、どこに住んでる? 国名から言えるか?」

 ウイルがそう聞くと、

「え、あ、はい。アイオス王国のベルランド村です」

「そんな国は無い。だからここは二人から見て異世界。時空の渦知ってるなら理解できるな?」

「はい。あの、皆さんのお名前は?」

「申し遅れた。俺達は」

 皆がそれぞれ自己紹介すると、


「うわ、優者様と守護者様達だったんですね。というか他にもいたんだ」

 ジェドがやや嬉しそうに言った。

「おや、ジェド殿の世界にも優者がいるのですか?」

 藤次郎が首を傾げると、

「いえまた別の世界にですよ。その人、両親の友達なんです」

「ほえええ。その様子からしてご両親は異界へ何度も?」

「ええ。逆に向こうから来てくれることもありますよ」

「それはまた凄いですね。ん?」


「……う、うーん?」

 ルカが目を開けた。

「気がついたか?」

 ジェドが声をかけると、

「うん。ってあれ?」

 ルカは起き上がるなり、藤次郎の顔をまじまじと見つめる。

「あの、どうかされましたか? 私の顔に何か?」

「……あ、ごめんなさい。知ってる人に似てたからつい」

 そう言って頭を下げるルカだった。

「そうでしたか。それよりお体は」

「あ、大丈夫よ。あの、あたしはルカっていうんだけど、あなたは?」

「石見藤次郎といいます。藤次郎と呼んでくれればいいですよ」

「……え?」

 藤次郎の名を聞いたルカが目を丸くする。

「あの、どうかされましたか?」

「ね、ねえ。もしかしてお父さんは彦右衛門さんで、お母さんは香菜さん?」

 ルカはおそるおそる尋ねる。

「そうですが、もしやうちの両親とお知り合いですか?」

「知り合いどころか一緒に異界を旅して大妖魔を倒した仲よ!」

「えっ!?」

 藤次郎だけじゃなく皆それを聞いて声を上げた。


「というかあんたにも会ってるけど、小さかったから覚えてないか」

 ルカが意味ありげな事を言うと、

「……あ、思い出しました。弓使いのお姉さんですね」

 藤次郎がポンと手を叩いて言った。

「今はたぶんあんたが年上でしょ。あたしあのとき十三で、今は十四よ」

「私は十五です。分かっていても変な気分ですね」


「すみません、実は僕も名前聞いた時に気づいてたのですが、言っちゃまずいかなと思って……おいルカ、迂闊な事するなよ。流れが変わったらどうするんだ」

「あ、そうだったわ」


「まあいいんじゃない? ところでジェドも彦右衛門さん達と?」

 リュミが尋ねるが、

「いえ、僕は両親と家業をしていたので行ってません」

 ジェドはそう言って頭を振った。

「そうなんだ。てか家業って言えないわよね」

「すみません。ってここは過去世界ですよね。僕達は自力で戻れないです」

「大丈夫よ。この世界は異世界への扉がたくさんあるし、あんた達の時代に繋がってるのもあるはずだから、若干遠回りになるかもだけど帰れるわよ」

「ほっ、よかった。ここだったのが不幸中の幸いです」

 ジェドは胸を撫で下ろした。


「ねえお兄ちゃん、せっかく来たんだし観光してから帰ろうよ」

 ルカが兄の手を引いて言うと、

「おい……まあ大丈夫だよな、そうするか」

 少し悩んだが妹に同意するジェドだった。


「じゃあ、あたし達と一緒に行く?」

「うん!」

 ルカは元気いっぱいに返事した。


「ってそういえばリュミさんの事も両親から聞いてたわよ」

 ルカがリュミにそう言うと、

「あらそうなの? というかルカって殆どお母さんそのままよね」

 リュミがニヤけ顔で言う。

「やっぱ分かるわよね。うん、それ皆言うけど髪の色と弓の腕はお父さん譲りよ」

「あ、さっき藤次郎が言ってたわね弓使いって。やっぱお父さんは彼なのね」

「うん。香菜さんもすぐ気づいたわ」


「俺も弓使い。手合わせ願っていいか?」

 ウイルが話に入ってきた。

「いいわよ。ところでジニーさんって、ウイルさんの彼女?」

 ルカがウイルの腕にしがみつくジニーを指して言った。

「ジニーは俺のヨメ」

「あ、そうだったのね。あの、横取りなんかしないわよ」

 ルカが苦笑いしながら言うと、

「分かってるよ。けどルカって可愛いから、こいつデレデレしやしねえか心配でさ」

「するか。俺はジニーだけ」

「だよな~。いひひ」

 二人はいちゃつき出した。


「はいはいご馳走さま」

「ルカ、あっちで話そ」

「うん」

 ルカとリュミはニヤつきながらその場を離れた。




「ジェドは剣士なんだね。うん、やはりできるな」

 藤次郎が口調を変えて尋ねる。

 ジェドは十五歳で今は同い年だし、ルカももう年下だから普通に話してほしいとなって。

「はは、僕なんかまだまだだよ」

 ジェドはそう言って手を振るが

「そんな事ないわよ。お師匠様には敵わないけど他の弟子には負けないでしょ」

 そこにルカとリュミも入ってきた。 

「あれ、お師匠様って誰よ?」

 リュミが首を傾げると、

「あたしの両親や彦右衛門さん達、リュミさんのお友達よ。あたし達は異世界に一年間留学してたの。向こうの友達も期間は短いけど、逆にうちに留学してたわ」


「へえ。私も武者修行にとこの世界へ来たけど、優者になっちゃったよ」

「それで世界を、妖魔大帝を救ったのよね」

 藤次郎とリュミが言うと、ジェドは少し顔を曇らせた。


「ん? どうかしたの?」

「あ、いやなんでもないよ」

 ジェドはそう言って表情を戻した。


 その夜は夫婦二組がそれぞれ一部屋で、藤次郎はジェドと、リュミがルカと同じ部屋で休む事になった。

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