番外編第三話「また出会えた気がした」

 その後、皆また客間に集まり夕飯を取りながら談笑していた。


「ああ、久しぶりにはしゃいだわ。ありがとね」

「いえいえ。わたしも羽目を外してしまいましたわ」

 すっかり仲良くなった二人だった。


「いやほんと神様とは思えないくらいだったわ」

「だよなあ。まるで子供と遊んでるって感じだったな」

 リュミとジニーがそう言うと、

「うん。ルナを思い出して、ついね」

 マーリンが表情を少し曇らせて言う。

「ああ……ってナホはトラゴロウさんの娘だけど」


「知ってるわ。やっぱ似てるし」

「え? わたしって父に似てます?」

 ナホが目を丸くすると、

「目元と雰囲気がよく似てるわよ。あとお酒大好きなとこもね」

「そうですか……嬉しいですわ」


「そういえばルナ殿は千年程前、私達の世界に来られたと聞きましたが」

 藤次郎が尋ねる。

「うん、実はあたしも一度訪ねていったのよ。その時ルナが住んでいたってか嫁ぎ先がこんな屋敷だったのよね」

「そうでしたか。いやこれ程のお屋敷なら、旦那様はさぞ身分のある方だったのでは?」

「貴族だったわ。ルナが言うには旦那の両親が病気ってか妖魔に憑かれていてね、それをなんとかしようとあちこち周ってた旦那と出会い、それを聞いたルナが妖魔を追っ払ったんで家に迎えられて、その二年後に求婚されたんだって」


「え、旦那様が求婚されたのですか?」

「てっきりルナさんが旦那さんを手篭めにしたのかと思ってた。たしか十歳下って聞いたし」

 藤次郎とリュミが意外そうに言うと、

  

「あのね、あの子はたしかにショタコンだったけど、無理やりなんてしないわよ」

(いや、お祖父様を襲おうとしたと聞いてますが?)

 心の中でそういう藤次郎だった。


「しかしいくら命の恩人だからといってもよく婚姻が認められましたな。お歳はともかくとしても、向こう側では身分のない方だったのに」

「それだけルナ様を気に入っていたのかもですわ」

 ベルテックスとナホが続けて言う。

「うん。ご両親に聞いたらそう言ってくれたわ。あたしにもよければ一緒に暮らさないかともね。けどあたしは里で夫と娘夫婦の墓を守るって言って断ったわ」


「異世界から来た女神様だって言ってもだからだよな。てかよく祖母ちゃんだって信じてくれたよなあ、どう見たって若いのに」

 ジニーがマーリンを見ながら言うと、

「いやいや、流石に見た目変えて行ったわよ。こんなふうに」

 マーリンは白髪初老の姿になった。


「……え?」

 ナホが何故か驚きの表情を浮かべた。


「あれ、どうしたの?」

「い、いえ。そのお顔、わたしを育ててくれたシスターそっくりなもので」

「そうなの? この顔って自分が老けたらこんな感じだと思ってだったんだけど」


「もしかするとルナ様の子孫の誰かがこの世界に来たのかも。そしてその更に子孫がシスターだとか」

 ウイルがそう言うと、

「うーん、かもしれないわね。先祖がいた、あるいは縁がある世界へ子孫がってのはそこそこあるから」

 マーリンが顎に手をやりながら言う。

「きっとそうですわ。ああ、またシスターいえお母様にお会いできた気がして嬉しいですわ」

 ナホは少し目を潤ませつつ笑みを浮かべた。


「というか、女神様でも分からないの?」

 リュミが首を傾げる。

「あたしが今も補佐役か守護神代行だったら、すぐ分かるんだけどね」

「そうなんだ。じゃあ今度お兄ちゃんに聞いてみよっか」

「うん。さてと、そろそろお開きにする?」


「ええ。ですがナホはまだお話したいのでは?」

「そうだな。今日は妻をお願い申し上げる」

 ベルテックスが頭を下げて言うと、 

「うん。ナホ、よろしくね」

「はい」




 翌朝。

「ではこれで。ありがとうございました」

「また来てね。あたしはまだしばらくこの世界にいるから」

 藤次郎達はマーリンに見送られ、屋敷を後にした。




 その道すがら、

「昨夜聞きましたけど、とりなしてくださったのは時空大聖神様で、今はそのお弟子様なんですって」

 ナホが皆に言う。

「時空大聖神様、時を司り時の大河を見守られる方で、やはり時の神でもある大知神様の師とも伝わる方」

「すっげえ神様の弟子なんだな」

 ウイルとジニーが続けて言う。


「そういえばお兄ちゃんもその神様、時空大聖神様に会ったって言ってたわね」

「はい。他にも偉大な方々にですよね」


「そうだな。まさか伝説の大勇者にまで会っているとは……というかリュミも大勇者一行である聖戦士三姉妹の一人だったな」

 ベルテックスが苦笑いして言い、

「ダークエルフやエルフにも伝わっている。実は最初会った時、同じ名前だなと思っていた。本人だと聞いて驚いた」

 ウイルも少し口元を緩めて言った。

「あはは。自分が伝説になってるなんて思わなかったわ」

 笑いながら手を振るリュミだった。

「リュミはやはり凄い方ですね。これで三度も世界を救ったのですから」

 藤次郎がリュミを褒め称えると、

「いやいや、前二回は殆ど役に立ってないわよ。それより藤次郎は二回だけど、今回は当然としても前回だって大活躍じゃない」

「いえ、前は龍神様の言う通りにしただけですよ」

「龍神様にお願いされるってだけでも凄いわよ」

「皆さんそう言ってくれますが、うーん」

「ほらほら、もっと誇りなさいよ、優者様」

 リュミが藤次郎の背を軽く叩きながら言った。



「あの二人、いつくっつくのだろ」

「さあなあ。藤次郎もだけどリュミも意外にアレだし」

「まあ意識してるのは間違いないのだから、気長に待つか」

「そうですわね。たまにリュミさんに催眠術かけて淫魔のようにとも思いますが、我慢しますわ」

 皆が口々に言った。

 ナホだけは物騒だったが。

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