番外編第二話「山の精霊?」
次の日。
朝から西の方を周った後、昼前には名所の山近くに着いた。
「あれが……」
それはまるで富士の山のように雄大で、雪化粧が綺麗だった。
「ん、あの山から聖なる気を感じる」
ウイルが山を指して言った。
たしかに何やら神々しさも感じるな。
「え、じゃあ精霊かなんか住んでるのかな?」
ジニーがそう言うと、
「違う気がするが、悪いものでないのはたしか」
「ええ。優しげな感じですわ」
ウイルとナホが続けて言った。
「そういえば北国の山に住む精霊が勇者に力を授けたというおとぎ話があって、その山が伝説の聖地ではとも言われているが、もしやあそこがそうなのかもな」
「じゃあ登ってみない? なんかいるなら会えるかもだし」
ベルテックスとリュミが山を見ながら言った。
「いいですが大丈夫でしょうか? 山の天気は変わりやすいですし」
「大丈夫。雰囲気からして天候が荒れる心配はない」
ウイルが山を見ながら言い、
「修行も兼ねられるよな」
「そうだな。ナホもいいか?」
「いいですわよ。いざとなったら転移魔法で帰ればいいですし」
皆が続けて賛成した。
「では、行きますか」
私達はあの山へ向かった。
――――――
「どこが荒れる心配は無いだー!?」
登り始めて一合目を過ぎたところで猛吹雪に襲われ、声を上げる藤次郎。
「うわああん! 藤次郎がまたまた壊れたよー!」
「二人共落ち着け!」
ベルテックスが藤次郎とリュミを抑え、
「ううう、そんなバカな?」
「なあ、やっぱなんかいるんじゃねえか?」
ジニーが落ち込むウイルを慰めつつ言う。
「ええ、誰かが見ているような気がしますもの」
ナホが辺りを見渡しながら言うと、
「よく分かったわね。さすが四大守護者だわ」
そこに現れたのは、短めの金髪で防寒着姿の若い女性だった。
「何者ですか?」
気を取り直した藤次郎が身構えつつ言う。
誰にも気配を感じさせなかったので、善悪は別にして只者ではないと思ったから。
「待って、あたしはマーリンといってね、巷では山の精霊とか言われているのよ」
その女性、マーリンが手をかざして名乗った。
「ん? もしかしておとぎ話にあった?」
「そうよ。勇者ってか優者を、あんたのお祖父さんやかつての四大守護者をちょっと鍛えたのはあたしよ」
マーリンがそう言うと、
「そういえば祖父が言ってました。自分達は精霊と伝わっていた女神様に師事したと……そして」
「うん、あたしは守護神エミリーの妹で、かつては姉の補佐役だったのよ」
「やはり。ご無礼致しました」
藤次郎達は頭を下げた。
「いいわよ。ってこんな吹雪の中でもなんだから、続きはあたしの家で話しましょ」
「というか何故吹雪を起こされたのですか?」
「あたしじゃないわよ。これはここに住む雪の精霊達がね、救世主たる優者達が来たって大喜びしてるのよ」
「……あのー、皆様喜んでいただきありがとうございますー。ですができればこれ止めていただけませんかー?」
藤次郎が上を向いて言うが、吹雪は止むどころか更に強くなった。
「本当に喜んでんのかゴラー⁉︎」
藤次郎が刀を抜いてキレた。
するとすぐさま吹雪が止んだ……。
「あ、あわわわ……」
皆が寒さとは別に震え、
「う、うわあ。彦九郎もキレた事あるけど、あれを遥かに上回ってるわね……」
マーリンも震えながらぼやいた。
気を取り直したマーリンに案内されて着いた先は、山の中枢に建っている日本風の屋敷だった。
「あの、なぜに日ノ本風なのですか?」
「あんた達の国のを真似して作ったのよ。前に見て気に入ってね」
「なるほど」
そして客間に通された。
そこも日本風で、畳があり襖もある。
「この部屋、温かい」
「女神様のお家ですもの。そのお力ですよね」
そして皆が座布団の上に座ると、
「さてと、改めてようこそ。早速だけどここは聖地じゃないわよ」
マーリンが笑みを浮かべて言った。
「あれ、そうだったのですか。マーリン様がおられるのに?」
「ここはあたしの家があるってだけよ。たぶんそれで聖地と伝わっちゃったんでしょうね」
「じゃあ、聖地は別にあるの?」
リュミが尋ねる。
「あるわよ。けどそれは自分達で見つけてね」
「うん。けどヒントくらいくれない?」
「ダメ」
「ケチな婆さんね」
「誰が婆さんよ、こら」
「だってマーリン様って、魔法聖女ルナさんのお祖母さんでしょ?」
「うっ、それも聞いてたのね……そうよ。あの子の母親があたしの娘で、あたしの夫は知ってのとおり人間よ」
マーリンが引きながら答えた。
「それで掟破りだから補佐役外されて追放されかけたけど、偉い神様がとりなしてくれたのよね?」
「うん。あまり詳しく聞いてないようだから、後で言うわ」
「あの……ルナ殿のことですが」
藤次郎が言い淀むと、
「それは聞いてるわ、リュミが教えてくれたって。ありがと、おかげであたし達も希望が持てたわ」
マーリンはリュミの方を向いて頭を下げた。
「いえいえ、大したことしてないわよ。それでヒントは?」
謙遜しつつも遠慮しないリュミだった。
「うーん。ま、お礼の一つとして言っちゃうわ。この大陸の中央部に行ってみて。そうすれば後はあんた達なら分かるはずよ」
「中央部、ここからだと十日程。けど道中にも名所はある」
ウイルが地図を広げてその場所を指し、
「まあ帰りは転移魔法使えばいいし、のんびり行っても祭典には間に合うわよ」
「そうですね。明日にでも向かいましょう」
リュミと藤次郎が言った。
「ん。じゃあ今日は泊まっていってよ。ここ、温泉もあるからゆっくりして」
温泉は露天風呂となっていて、雪景色が見れる場所だった。
ちなみに中央に壁を立てて男女別に分けている。
「ああ、いいお湯ね」
「だよな。それに絶景だし」
リュミとジニーは景色を堪能し、
「雪を見ながらっていいですわね」
「うん。しかしあんたいけるクチなのね」
「マーリン様こそ」
ナホとマーリンは温泉で温めた米の酒をやりながら湯に浸かっていた。
「二人共よくやるわね。てかおっさん臭いわよ」
リュミが苦笑いしながら言うと、
「ふふ、そうですわね。けど今くらいいいでしょ?」
「あたしに免じてってことでね。誰かとお酒飲むのも久しぶりだし」
ナホとマーリンが湯呑を傾けながら言う。
「うーん。ま、大丈夫だろけど湯あたりしないでね」
「ええ」
「しっかしあんた、おっきいわねえ」
マーリンがいきなりナホの胸を突っついた。
「きゃっ、何を?」
「おうおう、いい反応やないかい」
そう言って今度は揉み出し、
「あ~れ~って、お返しですわ~」
「きゃあ~やめて~」
互いの胸を揉み合いあちこち触り合いだし、終いには変な声を……。
「……なあ、二人共酔ってんじゃねえか?」
「ほっときましょ」
ジニーとリュミは呆れながら距離を取った。
一方、隣の男湯では。
「ベルテックス、相変わらず弱い。ナホとしてるはずなのに」
ウイルが鼻血出して倒れたベルテックスを介抱し、
「……」
藤次郎は雪に埋もれていろいろ冷やしていた。
防音してないから丸聞こえだった。
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