番外編第一話「北の大陸へ」

 新聖暦1045年 十二月一日


 私達は北の大陸へと向かう船の上にいた。


 北の王国エゾシマの陛下が今度行われる祭典に我々を招待したいと使いを送って来られたからで、いずれはと行こうと思っていたのでいい機会だからとお受けする事にした。




「うう、やはり北は冷える」

 ウイルが海を見つめつつ寒そうにしていると、

「じゃあアタイが温めてやるよ」

 そう言ってウイルに抱きつくジニー。

「温かい……」

 ウイルは頬を赤らめていた。


「ねえあなた、わたしも寒いですわぁ」

「う、うむ」

 ナホが抱きつくとベルテックスは顔が真赤になっていた。


「あららら。見せつけてくれるわねえ」

 ニヤつきながら四人を見つめるリュミだった。

 

 ベルテックスとナホ、ウイルとジニーは半年前ほぼ同時期に祝言をあげている。

 聞けばこの世界には「新婚旅行」なるものがあって、それは祝言の後二人で行くものだが、どちらもどうせなら時期を合わせ、皆で一緒に行こう思っていたそうだ。

 そして数ヶ月ぶりに皆が揃い、二組の新婚旅行を兼ねてとなった。


 しかし見せつけてくれるというが、あんなの父上と母上に比べたらマシだ。


「え、あれ以上なの?」

 どうやら呟きが聞こえてしまったようで、リュミが聞いてきた。

「ええ。たまに私がいる事忘れて抱き合ったり接吻したりしてましたよ。初が生まれてからはしなくなりましたが」

「……香菜さんは分かるけど、彦右衛門さんも意外にだったのね」

 リュミが苦笑いしながら言った。

 たしかに父上にそんな印象は無いだろう、傍から見ればな。




 船は順調に進み、日が少し傾き出した頃にエゾシマの港町、ハコダテに着いた。

 ここも多くの人がいて、見渡すと露店も多く出ている。

 ツクシシマのように魔族や獣人族は見かけないが、後で聞いたらそれらの種族は大陸の北部にいて、時折は王都や港町に作物や名産品を売りに来るそうだ。

 機会があればお会いしたいものだ。


 ここから王都へは徒歩一日で着くらしいが「祭典は二十四日から二日間行うので、それまで我が国をゆっくり見て。城には遅くとも二日前までに来てくれればいい」と言伝されている。

 今日からだとあと二十日ほどあるな。

 あと「この時期に野宿などしたら凍死するから必ず宿に泊まれ」と、路銀も多めに頂いた。

 本当にあれこれしていただいて有り難いことだ。


「さて、まずはこの町を見て回りましょうか」

「そうね。ここでいろいろ聞いてから次行くとこ決めよ」




 町を一通り見た後、宿を見つけて夕飯をとなった。

 名物料理をお願いしたら出てきたのは、

「うわあ、こんな大きなのって初めてよ」

「私もありません。というか食べたことないですよ」

 リュミが鍋に辛味入れそうだったので止めながら言った。


 それは大きなカニや野菜が入った鍋料理だった。


「拙者も無いな。カニは見たことあるが、こんなくらいだったぞ」

 ベルテックスが指で小さい丸を描いて言う。

「やっぱ内陸部だと食べる機会あんまないわよね」

「この世界では北の海以外のカニは毒とまではいかないが、とても食べられたものではない」

 ウイルが鍋を見ながら言った。

「そうなのですか。私は単に機会がなかっただけですが、どうなのかな?」


「さ、そろそろ食べましょ」

 ナホが手を合わせて言い、

「だな。いただきます」

 ジニーも手を合わせ、私達も続いた。


 


 料理を堪能した後、

「あのさ、宿のご主人に聞いたんだけど祭典って聖誕祭のことみたいよ。って聖誕祭って知ってる?」

 リュミが皆に聞いた。

「知ってるぞ。拙者の里でもしていたが、国をあげてだと規模が違うだろうな」

「ええ、楽しみですわね」

 ベルテックスとナホが頷き、

「アタイも子供の頃してたな。父さんが亡くなってからはしてなかったけど、ブークが来てからはなんとか気分だけでもな」

 ジニーもそう言うが、

「あの、聖誕祭ってなんですか?」

 そんなの一彦からも聞いてないなあ。


「子供達に夢と希望を伝える日。大人になってもそれを忘れず、次の子供達に伝えてほしいと願い、子供達に贈り物を渡す日。それと藤次郎以外は知ってると思うが、その日はサンタクロースという方が世界中の子供達に贈り物を届ける日でもある」

 ウイルが説明してくれたが、

「え? 世界中にお一人で?」

「これはおとぎ話。だがサンタクロース様は別世界に実在しているという伝説もある」


「ええ、いるわよ」

 リュミが頷いて言った。

「あら、もしかしてお会いになったことがあるのですか?」

 ナホがリュミの方を向いて聞くと、

「残念ながら無いわ。でも詳しくは言えないけど、実在の証拠を見たことあるの」

「そうなのか。いや実際におられると知れただけでも嬉しい限りだ」

 ベルテックス笑みを浮かべ、

「今度父に話す。合間に実在の可能性調べていたから」

「お義父さん、めっちゃ喜ぶだろなあ」

 ウイルとジニーも嬉しそうに話していた。


「あ、もしかしてうちの両親もその証拠を見たのですか?」

「ええ見たわよ。けど藤次郎にそれを言ってないということは、分かるわよね?」

「はい。流れに不都合がですよね……気になりますが聞きませんよ」

「うん」

 後に知るが、私も実は幼い頃知らずにその「証拠」を見ていたのだった。


「ところで明日はどこへ行きましょうか?」

「西の方に行ってみない? そっちは観光するとこ多いし名所の山もあるみたいよ」

「ではそうしますか」


 その日は四つの部屋に分かれて休んだ。

 夫婦二組がそれぞれ一部屋、私とリュミが一部屋ずつで。

 ナホとジニーにリュミと相部屋にしろとか言われたが……いや、まだ無理だ。

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