第54話「報告巡り イヨシマ、そして……」

 そしてイヨシマ城下町の門前に着くと大臣が待っていて、式典等の準備があるから城には明日来てほしいと言われ、手配されていた宿屋、藤次郎が最初に泊まった所に行った。


 そこで出迎えたのは、あの宿引きの女性。 

「さあさ、ゆっくりしていってくださいね」

「お姉さま、やっぱり女将さんになってましたね」

 藤次郎が嬉しそうに言った。

「ええ。皆が世界を救ったという知らせがあったその日に求婚されたのよ」

「おや、そうでしたか」


「はい。自分の気持ちに区切りがついたもので、丁度いいと思って」

 主人も出てきて照れくさそうに言う。

「しかしあんたが優者様だったなんてねえ」

「おかげさまでうちは大繁盛していますよ。優者様を最初にお泊めした宿として」


「ご主人さん、結構ちゃっかりしてるわね」

 リュミもニヤけながら言う。

「ははは。さ、どうぞごゆっくり。お代はお城から頂いてます」

「それとさ、町の皆がぜひ優者様御一行を見たいって言うんだけど、いいかい?」

「ええ、勿論ですよ」


 その後、町人達が代わる代わるやってきては、礼を言われたり酌をされたりした。

 



 翌日、イヨシマ王城玉座の間。


「おお、優者と守護者達よ。よくぞやってくれた」

 イヨシマ王が玉座から藤次郎達を出迎えた。

「陛下のおかげです。この手形があったので、諸々が楽に進みました」

「いやいや、私は自分のできる事をしたまでだ」

 王が手を振って言った。


「くうう、やっぱ一緒に行きたかったわ。なによあの可愛い子」

「仕方ないわ。正室はあの子に譲るとして、二人まとめて側室にしてもらいましょ」

 ナンナとベルがリュミを見ながらなんか言うと、


「申し訳ありませんが、私は側室など要りません」

 藤次郎は苦笑いして断った。


「なによあんた! 一国の王女と王宮魔導師じゃ不満なの!?」

 ナンナがキレ気味に言い、

「うう、じゃあせめて私達と一晩だけ寝て、子種ください」

 ベルが凄いこと言うと、

「二人共諦めろ。優者がそんなハーレムするはずなかろうが」

 王が二人に言って止めた。

「ううう……」

 ナンナとベルは悔しそうに俯いた。


(……うう、一瞬一晩だけならと迷ってしまった)

 藤次郎は心の中で呟いた。


「ねえ王女様、それとベルさんだっけ? 藤次郎から聞いたんだけど、二人で買った漫画ってもしかしてこれ?」

 リュミがどこからか取り出した本を二人に見せると、

「あ、これよ! 文字は違うけどそれ以外は同じよ!」

「あなたも持ってらしたのですか?」

 ナンナはそれを指して声を上げ、ベルが尋ねる。

「うん。これはあげられないけど、書いた人知ってるから送ってもらうわね。てかもう届くかも」

 

 リュミがそう言った時、宙に光り輝く包みが現れ、それがナンナの手に収まった。


「あ、ほんとに来た! しかもこれ、直筆サイン入り!」

 包みを解いたナンナがその本を見て嬉しそうに言い、

「私達が彼らにお姫様抱っこされてるイラストまでだなんて……あの、シルフィ先生によろしくお伝えください」

 一緒に送られてきた色紙を見て、目に涙を浮かべているベルが言った。

「うん!」



「り、リュミも腐ったおなごだったとは」

 藤次郎がやや引きながら言う。

「腐ってないわよ。でもこれはそうでなくても読める別格の名作よ」

「そうなのですか……しかしそれ書いたシルフィ殿とは、やはり父上と母上のご友人であるあの方でしょうか?」

「うん。あんたも会ったことあるの?」

「幼い頃一度だけ。遠い所から訪ねてきてくれましたよ」

「そうなんだ。あのね、この漫画って実は彼女のお母さんが書きかけていたものなんだって」


「え、そうだったの?」

「シルフィ先生のお母様も作家なのですか?」

 ナンナとベルが目を丸くして言う。


「そう聞いてるわ。でもお母さんは詳しくは言えないけど、若くして亡くなったんだって。それでね、後になってその書きかけの原稿とプロットを見つけた彼女がそれを完成させたのよ。彼女は小説専門でイラストは少し書くけど、漫画は殆ど書かないんだって。でもこれだけはと思ったそうよ」


「ううう、それ聞いたらますます好きになっちゃうじゃないのよ」

 ナンナが感激のあまりか震えながら言い、

「母娘二代で作り上げた作品ですか……私も読んでいいですか?」

 藤次郎も興味が湧いたようだ。

「いいわよ、絶対泣くから。お二人もそうだったでしょ?」

 リュミが二人に尋ねると、


「そうよ! こんな感動もの他に無いわよ!」

 ナンナが声を上げて本を掲げ、 

「優者様推薦の作品なら広めてもいいですよね、陛下!」

 ベルが王に向かって強く言い、

「あ、ああ……だがもう本は無いのだろ?」

 気圧された王が言った時だった。


 宙に光り輝く大きな箱が現れ、ナンナとベルの前に降りた。

 

「あ、こんなにたくさん送ってきてくれました!」

 箱の中身を見たベルが声を上げ、

「百冊はあるわね。よし、転売した奴は死刑という事にして同志に売ろうっと」

 ナンナは物騒な事を言い、

「……大丈夫か、我が国は」

 王は頭を抱えていた。


「陛下、お願いがあるのですが」

 藤次郎が話題を変えようとしたのか、王に声をかけた。

「ん? なんだ、遠慮なく言ってくれ。私達に出来ることならばなんでもするぞ」

「はい。創造神様の神殿に入る許可を頂きたいのですが」

 神殿もまた然るべき者の紹介状か、王か王太子の許可が必要だそうだ。


「おおそんな事か。では管理している神殿長への紹介状を書こう。いや守護神様のお告げで既に知っているかもな」

「(守護神様というか代行なのですが)かもしれませんね」


「さてと、凱旋式の準備が出来たみたいだから行きましょ」

「その後は晩餐会もありますので、皆様もう少しお付き合いくださいね」

 一同はナンナとベルに先導され、城のバルコニーへと向かった。


 イヨシマではこれまでで一番の賑わいを見せ、また晩餐会も堅苦しさがなく楽しく行われた。




 二日後、藤次郎達は創造神神殿の門前に来ていた。

 そこには白髪の老人、神殿長である大神官が待っていて、紹介状を渡すまでもなく藤次郎達を中へ案内した。


「ここはなんというか、我が国の神社仏閣に似ていますね」

 藤次郎が辺りを見て言う。

 門を潜るとそこは石畳に灯籠、少し先に鳥居があって杉の木も多くあり、まるで日ノ本を思わせる場所であった。

 

「そうなのですか。では優者様のお国は神の国と同じかもしれませんね」

「いえいえ、タカマハラの方が神の国でしたよ」

 大神官の言葉を聞いた藤次郎が頭を振って言った。


「ほう、タカマハラはそのような所なのですか……いや私も若い頃に入ろうとしたのですが、途中の森で道に迷ってしまいました。ああ、私には資格が無いのかと悔しく思ったものですよ」


「今の大神官様なら入れる」

 ウイルがそんな事を言った。

「え、そうでしょうか?」

「大神官様、聖なる気が溢れている。大丈夫」

「私もそれらしき優しい気を感じますね」

 ウイルの後に藤次郎も続けて言った。

「そうですか。いや優者様と守護者様がそう言われるのでしたら間違いないかもですね。よし、神殿長の任期が終わったら行ってみます」

 大神官が笑みを浮かべて言った。



 そこから少し歩いた後、

「さて皆様、あれが創造神様をお祀りしている社です」

 大神官が指した場所には高さ10m程の白い石造りの四つ柱の上に、これまた石造りの大きな社があった。

 階段も石で作られている。


「天に在りし神のお住まいを表しているようですね」

 藤次郎がそれを見上げて言い、

「うわあ、これって古代にあったと言われてる出雲大社本殿みたい」

 リュミがそんな事を言った。

「え、昔はこんな感じだったと?」

「木で作られたものでもっと高さがあるって話なんだけど、本当にそうだったのかあたし達の時代でも分からないのよね」

「へえ……」


「すげえ、こんな神殿があっただなんてさ」

「ああ、感激ですわ」

「俺も感激。美しさだけでなく、自然界全ての力を感じられる」

「拙者は力までは分からぬが、言い表せぬ美しさなのは分かる」

 皆口々に感想を述べた。


「さて、あの中は神殿長である私以外は、年の始めにくじで選ばれた数名の者しか入れない決まりになっております。ですが今回は特別にお見せしますよ」


 そして、長い階段を登って社の中に入ると、


「皆様、こちらが創造神様の像でございます」

 大神官がそこにあった二つの像を指して言った。


「これが……古事記にある伊邪那岐命いざなぎのみこと伊邪那美命いざなみのみことのようだ」

 藤次郎が像を見つめながら言うと、

「たぶんそのお二人よ。全ての世界を作った方として多くの世界で伝わってるもん」

 リュミも像を見ながら言った。




 そして一行はここで一旦解散となり、ベルテックスとナホ、ウイルとジニーは転移術でそれぞれの家に帰っていった。


「さてと、しばらくはまた二人だけですね」

「あたしも一旦帰るわ。二年旅するとなると、流石に色々片付けて来ないとだし」

 リュミが大きく伸びをして言った。

「え……?」

「ま、一ヶ月くらいで戻ってくるわよ。じゃあ行ってくるわね」

 リュミも転移術で飛んでいった。


 一人残された藤次郎は、しばらくそこに立ちすくんでいた。



 ……思えばリュミが隣にいるのがもう当たり前のようになっていたな。

 父上と母上もそのような事を言われていた。


 一ヶ月か、長いなあ。

 ああ……リュミ。


「何?」

「うわっ!?」

 気がつくとそこにリュミがいた。

 

「ふう、全部片付けて来たわ。あ、ただいま」

 リュミはまた伸びをして言う。


「え? まだ半時もってああ、後世だからか」

「うんそう。さ、また旅に行こ」

「ええ。あ、そうだ……おかえりなさい」


「うん!」

 リュミは満面の笑みを浮かべた。

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