最終話

 時は流れて現代、令和の世。


 とある町にあるやや古いマンションの一室で、PCに向かって書き物をしている青年がいた。


「これでおしまいっと。さて、少し置いてから推敲するかな」

 彼の名は石見政彦。

 藤次郎の十代後、現代の子孫である。


 彼は藤次郎が残した日記を元に、小説を書いていた。

「……読んでもらえるかは俺次第。責任重大だよ」




「そう固くならなくてもいいのだがな」

「うん。てかちらっと見たけど、上手だったわよ」

「拙者も見たが、嬉しく思ったぞ」

「ええ。皆さんの事、よく書けてますわね」

「だよなあ。ああ、早く本になってくれねえかなあ」

「俺も楽しみ。あ、あいつが来た」




「政彦、太一たいちさんが来られたわよ」

 女性の声がして、部屋のドアをノックする音が聞こえたと同時に入ってきたのは、眼鏡をかけた黒髪の、二十代後半くらいのスーツ姿の男性。


「こんにちは政彦さん、原稿出来ましたか?」

 彼は政彦の担当編集者だった。


「え、いやこれから推敲しますよ。てか締め切りはまだ先でしょ?」

「早めに書けば私と打ち合わせしながら直せるでしょ」

「あ、そうですね。太一さんのおかげで上手くなれたから」

「ええ、殆どプロのレベルじゃなかったですけど、アイデアはさすがあの石見輝彦いわみてるひこ先生の息子さん、最初から群を抜いてましたよ」

「あの、それ内緒で」

「分かってますよ。あとも内緒にしてますからね」

 太一が口元に指を立てて言う。

「……あの、いつもはぐらかしますけど、本当はどこまで知ってるんですか?」

 政彦が訝しげに言うと、

「さあねえ。まあ仮に政彦さんが地球を救った人で、その御礼として総理大臣がうちの出版社にお願いしてきたとしても、手心加えたりしませんからね」

 太一はニヤリと笑みを浮かべて言った。

(ああ、それで全部知ってるんだな……)


 政彦も世界の救世主となっていたが、それはまた別の話。


「ふふふ。ところで政彦さんのペンネーム、なんか意味あるのですか?」

「え? いやありませんよ。ただ好きな漢字を四つ合わせただけです」

「そうでしたか。いやなんというか中二病っぽいというか」

「ほっとけ」

 政彦のペンネーム、実は友人が昔使っていたペンネームをそのまま貰っただけであった。



 そして太一は原稿を読みながら、政彦に色々と尋ねては助言していた。

「あの、妖魔大帝の本名が僕の名前と同じって、偶然ですか?」

「いえ、なんとなくそうしたくなって」

「そうですか。どうせならキリュウかヨリノリにすればよかったのに」

「いやそれは怒られそうだし」

「どうでしょうかね? さて妖魔大帝ですけど、こういうふうなのはどうです?」

「あ、それいいかも」




「タイチ殿、政彦を手助けしていただきありがとうございます」

「うん、ほんとよかったわ」


「なあ、今度皆で政彦達に会おうぜ」

「いいですわね。そうですわ、あちらの名物をお土産にしましょう」

「そうだな、それと米の酒を。彼はもう成人だからな」

「俺は酒ダメだから、美味いものを持っていこう」

「あと向こうの書物もね。それでいつにする?」


「本が発売されたその日に行きましょう。ふふふ、驚くがいい」




- 終 -

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