第57話「共に白髪の生えるまで」

 皆のその後は……、


 ベルテックスとナホはしばらくベルテックスの里で暮らし、時を置いてあの村へ移り住んだ。

 二人は子沢山で、なんと九人もいたそうだ。


 二人の長男は母方祖父トラゴロウの家名を継ぎ、家を再興した。

 長女は母と同じシスターの道を選んだが、後にツクシシマ王子と恋仲になって王妃となった。

 次男はベルテックスの里に移り住み、老いた祖父母の面倒を見た。

 そして父から家名を継いで、先祖代々の墓を守ったそうだ。

 次女は後述するとして、他の子供達も長じてから他大陸の王家に請われて仕えたり、未開地域を開拓したりと世のために働いた。

 子供達の血筋は全て未来まで続いている。



 ウイルは貴族としてアキヅシマ王に仕え、出世して大臣にまでなってしまった。

 断ろうかとも思ったそうだが一族全員を民として迎えたいと王位を継いだ王子に言われたので、長である父と相談した結果、そうすることにしたそうだ。

 その後アキヅシマではダークエルフ族が人間と交わっていった。

 王が偶然出会ったエルフと結ばれたのもあったからであろう。


 その際にブークがウイルの従妹アルと恋仲になり、結ばれた。

 彼もまた重臣の一人となり、義兄ウイルと共に国の発展に力を尽くす。


 ジニーはウイルとの間に二男をもうけ、長男がウイルの、次男がジニーの爵位と領地を継いだ。

 長男の家系は王家重臣一族として未来まで続いている。

 次男はベルテックス・ナホの次女と結ばれ、子孫の何人かが祖先がいた別世界へそれぞれ旅立ったそうだ。



 藤次郎は正式に宇和島藩士となり、父と同じくたまに幕府から合力を頼まれては妖魔と戦った。

 リュミとの間には二男一女が生まれ、その子達も大人になって孫もでき、その血筋もまた未来まで続き、やがて……。



 後に時の将軍は対妖魔隠密頭領から伝え聞いた彦九郎の大功に報いるため、彦九郎が仕えていた主の血筋の者に家名を継がせてお家再興させ、旗本として取り立てた。


 天にいた彦九郎はそれを聞き、さぞ喜んだであろう。


――――――


「ふう、こんなところかな」

 私は筆を置き、書を見返した。

「お疲れ様。さ、お茶入れ直したわよ」

 妻のすみれが言う。

「ありがとう。ふふ、我ながらいい出来だと思うよ」

「そうなのね。ところでちゃんとあの子が読める字にしてるでしょうね?」

「勿論だよ。聞く限り彼以外、私達の旅路を語れそうな者がいないからな」

「そうよね。子孫には何人も書き手がいるみたいだけど、あの子じゃないとね」



「……すみれ、いやリュミ。この日記、私が死んだらあの場所に埋めてくれ」

「うん。でも先にあたしが死んだらどうするの?」

「それは無い」

「……そう。けどなんであの場所になの? うちで代々伝えるのはダメなの?」

「それが本来の流れと八幡大菩薩様から聞いたからだよ。いずれ政彦はあの場所に行くそうだから」

「そうなのね。うん、分かったわ」

「ああ……さて、少し散歩でもするか?」

「うん」




 幼い頃から変わらぬ町並み。

 そこを歩いていると、町の人々が私達に声をかけてきてくれる。

 中には私達夫婦以外は知らないが、人の姿をした妖怪もいる。

 とにかく皆、平穏に暮らしているようでよかった。



 しばらく歩き、川のほとりまで来た。

 そこには幾つもの桜が咲き誇っている。

 私達は少し大きい桜の下に座り、辺りを眺めた。




 柔らかな風が吹くたびに花びらが舞い、桜色の川が流れていく。




 思えばずっと、共に歩いてきたなあ。


 思えば本当に、共に白髪の生えるまでだった。


 本当に、幸せな道程だった。




「リュミ、今までありがとう……」

 そう言った後、藤次郎は静かに目を閉じ、リュミの膝枕に横たわった。




 石見藤次郎、七十八年の生涯であった。 




「うん、こっちこそ……また会おうね」




 リュミはその翌年、藤次郎の命日に八十歳で世を去った。

 あの世でもきっと仲良くしているだろうと、子や孫達は思ったそうだ。

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