第11話「叶うと信じたい」

 リュミと鯨が間合いを取って睨み合う。

「ぐっ。貴様、ただの小娘ではないな?」

 鯨はリュミの強さを感じ取り、冷や汗をかく。

「当たり前でしょ。あたしは聖戦士、そして四大守護者の一人なのよ」

 リュミも気を抜かず答える。


「なんであろうと、儂の行く手を阻むなら倒すまでだ!」

 鯨が銛を巨体に見合わぬ速さで突き出すが、

「はっ!」

 リュミはそれをかわし、懐に入り込み、

「ぐっ!」

 拳で突きまくり、

「でりゃあ!」

 飛び上がって額に膝蹴りを当て

「そりゃあああ!」

 一旦着地して、回し蹴りを放った。


「ぐ、ぬ。このような拳法があるとは」

 鯨がよろけながら言うと、

「『武天流拳法』はこの世で一番だからね。さあこれでもくらえ、猛虎烈光波!」

 リュミの拳から虎の姿をした気が放たれた。


「ぐ、ぐおおおーー!?」

 それをまともに受けた鯨は壁まで吹き飛ばされ、倒れた。


「強い……」

 藤次郎は思わす見惚れていた。

「さあ藤次郎、お願い」

 リュミが声をかける。

「え、でもその方はもう戦えませんが?」

「違うわよ。あんたなら出来るはずよ、戦わずして心の闇を祓うことを」

「心の闇を……はい」

 藤次郎は鯨の側に歩いて行った。




「ぐっ、殺せ」

 鯨は倒れたまま言うが、

「お断りします」

 藤次郎が頭を振る。

「なん、だと?」

「たしかに人間は……ですが、王女のご両親のように愛し合える者もいるのはわかっていたのでしょ?」

「……ああ。民の中には女王を裏切り者と呼ぶ者もいたが、儂が説き伏せた」

「え、そうだったの……?」

 バラリアも知らなかったようで、驚きの表情になる。

「そうだ。人魚は人間に近い生物だからそう思わんのだろうがな」

「……あの、ありがとうございました」

 バラリアが頭を下げると、

「いや、王女を后にしたいが為にやったまでよ」

 鯨が起き上がって顔を背ける。

 

「あら、あんた本当にバラリアさんを愛してるのね。てっきり利用しようとしてたのかと思ったわ」

 リュミが意外そうに言うと、

「そんな事するか。いやたとえ后になってくれなくても、王女が幸せならそれでいいと思っている」

 それを聞いたバラリアは胸を打たれ、大粒の涙を流した。


「あなたのようなお心の持ち主なら、話し合いで収まると思いますよ。私は幸いイヨシマの国王陛下と知己を得ていますので仲介します」

 藤次郎が言う。

「……なぜだろうな。お前を見て話していると、心の闇が消えていく気がする。その言葉を信じられる」

「それはあなたが元からそうだからですよ」

 藤次郎が笑みを浮かべると、

「ふ、わかった。人間を攻撃するのは止めよう。それと今すぐは難しいが、いずれは話し合いの場をな」

 鯨も笑みを浮かべ、頷いた。

「はい。きっと良きようになりますよ」

「ああ……」


「藤次郎はやっぱり……ふふ」

 リュミもまた笑みを浮かべていた。




 その後、洗脳を解かれた女王様が私達に礼を言われた。

 しかしバラリア様と似てないな。

 もしや御父上似なのだろうか。


「ふふ、お察しの通り娘は父親似ですよ」

 女王様が笑みを浮かべて言われる。

「え? いやあの」

「いいんですよ、人間の感覚と違うのは分かってますから」

「そ、そうですか……」

 うう、私はまだまだ修行が足りないな。 


「ねえ女王様、ケイトスさんに王位を譲るって、いいの?」

「そうですぞ。かねてから仰ってた通り、民の入れ札で決めては?」

 鯨、いやケイトス殿が言う。


「そんな事しなくても、皆あなたを王にと思ってるでしょうからね」

 女王様がそう仰ると魚たちや人魚たちも頷いた。


「それにね、うちの娘が后になるのですから文句は出ないでしょうね」

「え?」

 

「……あの、アタシでもいい?」

 バラリア様が頬を染めて言われ、

「あ、あ……うおおお!」

 ケイトス殿が男泣きした。


「あらら。ま、とにかくよかったわね」 

「ええ。ですが王妃様になられてはお父上と暮らせないのでは?」


「心配してくれてありがとね。けど二人っきりで暮らしてもらうのもいいかなって思ったの」

 どうやら聞こえたようで、バラリア様がこちらを見て言われ、

「大丈夫よ。たまにダンナ連れて里帰りするから」

 女王様も後に続いて言われた。

「そ、そうだ、義父上に挨拶もせぬままでは……あの」

 ケイトス殿が焦りながら女王様の方を向くと、

「私があっち行く時に一緒に行きましょうね。まあ少々拗ねるかもだけど、認めてくれるでしょうね」

「ほっ……よかった」

 ケイトス殿が胸を撫で下ろされた。


「あらら、あんたでも怖いの?」

 リュミがニヤけながら言うと、

「怖いわ。お前より遥かにな」

「むうう、こんなか弱い乙女と比べないでよ」

「どこがか弱いのだあ!」

 いや本当にどこがなんだわ。

 ほら皆大笑いしているでしょうが。




 翌日、私達はケイトス殿とバラリア様に陸に戻して頂いた。

「では、旅の無事を祈っているぞ」

「ありがとね」

 御二方が笑みを浮かべて手を振ってくださった。


「はい、ではまた」

「じゃあねー」

 私達は船に乗るべく、港町へ戻っていった。 




「ふふ、藤次郎はおそらく伝説の『優者』なのだろうな」

「ええ。そんな方と会えて幸運だったわ」

「ああ。もし藤次郎が来てくれなかったら、……何も残らなかったかもな」

「アタシもあなたの気持ちに気づかないままだったわ」


「……叶うなら我らの子や孫たちも、彼らの子や孫と友誼を交わしてほしいものだ」

「きっとそうなるわよ。なぜかそんな気がするわ」

「そうだな。叶うと信じよう」



 二人の願いは子、孫の代では縁が交わらず叶わなかったが、遠い未来で叶うことになる。

 子孫の一人が人間として地上に住み、その血が延々と受け継がれていき……。

 その子孫は不運にも最初は藤次郎の子孫の敵だったが、後に和解して友となった。

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