第10話「海底の城」

 どのくらい沈んだかという頃、何か見えてきた。

 それは黄金に輝いていて、おとぎ話にある竜宮城を思わせるお城だった。


「うわああ、まさに絵にも描けない美しさね」

「本当ですね……」

 このようなお城、私の世界にもあるのだろうか?

 あ、龍神様は湖の底に住んでおられるそうだし、もしかすると。

「さあ、あっちから入るわよ」


 その後、誰もいない正門からそうっと中に入った。

 そこはバラリア殿が言ったとおり空気があり、上を見ると海が空のように広がり、時折魚が泳いで来る。

「なんと……」

「なんか水族館みたいね。ってさっさと魔物やっつけてゆっくり見よ」

「はい。ん? バラリア殿、その体は?」

 バラリア殿は白い着物、ローブというものを纏っていて下半身は人間と同じように足があった。

「この宮殿内では皆こうなるのよ。あ、全裸を期待した?」

「女性の裸を見るだなんてとんでもない」

 ええ、たとえあなたであっても。

「ふふ、ちゃんと女として見てくれるのね。ありがと」

 嬉しそうに言うので凄く胸が痛くなった。


「え、あんた男じゃないの?」

 リュミが目を丸くして言うが、見て分からないのですか?

「ええ。こんなだから女装した男だとか言われるけど、れっきとした女よ」

「う、またごめんね」

「いいの。さ、魔物はこっちよ。でも洗脳された皆が襲ってくるかも」


「はい、来たようですね」

 武器を持ち、目が虚ろな兵士らしき者達が向かってくる。


「どうする? 気を失わせようにも数が多すぎるわ」

「ここは私に任せてください」

 



 藤次郎が前に出て刀を構え、

「では、いきます」

 それを大きく振るうと突風が起こり、兵士達を一人残らず吹き飛ばして壁に激突させた。

「これでしばらくは気を失ったままでしょう」

「あ、あんた凄いわね。てか今のって……」

「ん?」

「ううん、なんでもない」

(今のって、セリスのあの力と同じじゃん)

 リュミは心の中でそう言った。


「ほう、ここに人間が来るとはな」

 それは身の丈十尺はあろうかという黒い体、手に大きな銛を持つ鯨の魔物だった。

「そうよ。あんたをやっつけに来たのよ」

「ふん、儂が貴様らなどに倒されるか。それよりバラリア王女、よく戻ってきたな」

 鯨がバラリアの方を向いて言う。


「え、あんた王女様だったの!?」

 それを聞いたリュミが声を上げた。

「一応ね。でも近いうちに返上するつもりだったの。お母さんも退位して、地上でお父さんと三人で暮らす為にね」


「なあ王女よ。今一度言うが、儂の后になって共に人間を滅ぼさぬか?」

 鯨がいろんな意味で恐ろしい事を言った。

「うわ、結構物好きねえ」

「そんな事言うもんじゃないですよ」

 そう言いつつも少し同意見の藤次郎だった。


「嫌よ。誰がそんな事するもんか」

 バラリアが鯨を睨みながら言う。

「人間のような愚かな者に肩入れしてどうする? いや父君は別かもしれんが」

「この人達もいい人よ。いえ、まだまだいるわよ」

「……王女よ、そなたに手荒な事はしたくない。おとなしく引いてくれ」

「皆を洗脳しといてよく言うわね」

「……同胞を傷つけたくなかったから、やむを得ずな」

「え、じゃあ皆を差し向ける気はなかったの?」

「本格的な戦となると人魚では勝てぬ。儂自ら一族の精鋭を率いてと思った」


「あの、あなたはなぜ人間を滅ぼそうとしているのですか?」

 藤次郎が鯨に尋ねる。

「なぜだと? 人間達は我らの同胞を必要以上に獲り、貪り食っている。それだけではなく海をも汚しつつある。だから海の民として立ち上がったまでよ」


「うっ、たしかに食べる方はともかく、海に有害なゴミ捨てたりしてるバカがいるもんね」

 リュミは苦虫を噛み潰したような顔になった。


「あの、それを止めたら滅ぼすのは思い留まってくれますか?」

「できるならな。だが人間共がそれを飲むか?」

「すぐには無理でしょう。ですがいつかは」

「……そのいつかが来る前に、我らが滅ぶわ!」

 鯨の怒りと悲しみが混じっているかのような大喝に、藤次郎とリュミは何も言えなくなった。


「さあ、話はここまでだ。まずは貴様らを殺して開戦の狼煙としてやろう」

 鯨が銛を掲げて言った。


「妖魔がとも思ったが、そうではなさそうだな……やむを得ん」

 藤次郎が刀を構えようとするが、

「待って。あいつはあたしが相手するわ」

 リュミが前に出て言う。

「え、ですが」

「いいから。あいつはちょっと懲らしめないと話を聞かないわ。だから後はよろしくね」

 そう言ってリュミが鯨と対峙した。

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