第48話「長い戦いの終わり」
「でりゃああ!」
リュミの蹴りが、拳が、気功弾が次々と妖魔大帝を穿つ。
「き、貴様、他の守護者はおろか、優者より強いではないか」
妖魔大帝が戸惑いつつ、防御しながら言う。
「そうかもね。けどそれは武力だけ、心の力は藤次郎に敵わないわ」
「何を……ぐおおっ!」
リュミの正拳突きが決まり、妖魔大帝が後ろに飛ばされた。
「お、おのれ……」
妖魔大帝が立ち上がろうとすると、
「武天流奥義・猛虎烈光波!」
リュミの拳から虎の形をした気功弾が放たれ、
「ぐおっ!」
それが直撃して妖魔大帝の動きを止め、
「からの、はああっ!」
リュミは妖魔大帝を上空に蹴り上げ、自分も高く飛び上がり、
「使う機会が全然無かったけどやっと出せるわ、あたしが編み出した必殺技!」
妖魔大帝の両足首を脇で締め、両手首を掴み、足で胴を締め、体をややのけぞらせ
「くらえ、雷轟電撃落としー!」
ズガアン!
雷の如く落下し、妖魔大帝の頭を地に激突させた。
「ガ……」
「藤次郎!」
リュミが間合いをとって振り向くと、
「ええ、皆も力を貸してください!」
藤次郎が刀を構えると、リュミの、倒れた皆の体が光り輝く。
その光が藤次郎に集まると、刀と彼自身が更に光り輝きだした。
(ベルテックス、ナホ、ウイル、ジニー、……リュミ)
「これで、最後だ!」
藤次郎が刀を振るう。
そこから放たれた光の波は、今までで一番輝いていた。
「う、ウギャアアアーーー!」
それを浴びた妖魔大帝の漆黒の体が崩れ落ち……。
「あ、あ……」
二十代くらいの青年の姿となって、倒れた。
「やったわね……それに」
藤次郎の眩い光が、仲間達を照らし……。
「ん……あれ? 俺、生きてる?」
「ウイル!? よかったああ!」
いち早く起き上がっていたジニーが涙目でウイルに抱き着き、
「……へ?」
ウイルは理解が追いつかず呆けていた。
「どうやら本当に勝ったようですわ。それに」
「ああ。藤次郎の、優者の力で拙者達は……」
ナホとベルテックスも起き上がり、輝く藤次郎を見つめていた。
「あれは優者でも使える人は殆どいないと言われている最高位の力、『超心力』よ」
リュミが藤次郎を指し、皆に言う。
「な、なんと? ではもしかして、藤次郎の子孫である希望の優者もあれを?」
ベルテックスが驚きの表情で聞く。
「うん。歴史上でも使い手はその子以外にあと二人、ううん藤次郎もだったから合わせて四人ね」
(そして今思うと初代優者もたぶん、あれをね……)
「皆、ありがとう」
藤次郎が皆の元に寄り、声をかける。
「いえいえ。でもまだちょっと残ってるわよ」
「ええ、優者としてもう一仕事」
そう言って藤次郎は、倒れている妖魔大帝の元に歩いて行った。
「う、う……」
妖魔大帝は起き上がろうとしているようだが、体を動かせずにいた。
それを見た藤次郎が言った。
「もう終わりにしませんか?」
「……なん、だと?」
「あなたはこれまでずっと苦しみ悲しんできたのでしょう。ですがいつまでもそれに囚われていては、亡くなられたご両親やご一族の方も苦しんだままでしょうね」
「何を言うか、この世を闇で覆うのが一族の望みだ。苦しんでいるはずが」
「いえ、あなた本当は分かっているのでしょう?」
「何を分かっていると、言うのだ?」
「何をって、思い当たる節はあるでしょ?」
「そんなものは」
……いや、ある。
……かの大疫病の際、神剣士が死んだ時だった。
幼子が神剣士を母と呼び、泣きながら縋り付こうとしていた。
それをあの時私を逃した騎士が抑えている。
私は仇を討てた事を嬉しく思ったが……幼子を見ているうちに、胸が痛くなった。
皆の墓を見て泣き叫んだあの時の自分と、あの幼子が重なったように感じた。
だから私は思った。
どうにかしないと、負の連鎖が永遠に続く。
父さん母さんが、友達が、皆がずっと闇の中で苦しむ。
そんな事は、私が断ち切
「……え?」
妖魔大帝は自分が語った事に驚き戸惑っていた。
「気づかれましたか? あなたは元々そうだったのですよ」
「私にも、そんな心があったのか」
「ええ。話にあった騎士殿が生きていたのも、おそらくは見逃してくれた方を死なせるのは忍びないと、無意識のうちにでは?」
「……そうかもしれぬな。今思うとあの時彼が生きていたのを見て、どこかホッとしていた」
「ええ。ですから」
「それは無理だな、私はここで終わりだ。魔人と化したこの体、妖魔の力なくして保てるわけがない」
「はい。ですから生まれ変わって新たに始めてください」
「それも無理だな。私はおそらく、地獄で永遠に」
「それは絶対にありません」
「どうしてそう言える?」
「自分でも分かりません。けど、そう思います」
藤次郎は笑みを浮かべて言う。
「……その言葉、信じられる。今なら……これが妖魔を、それに染まった者も救う、優者の力なのか」
妖魔大帝の目から一滴の光がこぼれ落ちる。
また一滴、一滴と落ち、そして彼は、声を殺していた。
藤次郎達は何も言わず、ただ見つめていた。
やがて、妖魔大帝が涙を拭って起き上がり、
「……私を止めてくれて、ありがとう。優者と守護者達よ」
先程までとは違って晴れ晴れとした顔になって礼を言った。
「それと、リュミ」
妖魔大帝がリュミの方を向く。
「え、な、何よ? まさかあたしに惚れたとか」
リュミが慌てふためくと、
「そうではない。聞きたいが、かの幼子がその後どうなったか、知っているか?」
妖魔大帝が苦笑いしながら言う。
「あ、ああそれね。ごめん、あたしも詳しくは知らないのよ。けど子孫があたしの時代にもいるから、きっと愛する人と出会えて良い一生を送ったと思うわ」
「そうか、よかった……」
それを聞き安心したと同時に、妖魔大帝の体が段々と光りだしていく。
「そろそろのようだな」
「ええ。そうだ、あなたのお名前をお聞きしていいですか?」
藤次郎が尋ねる。
「……本名などもう忘れかけていた。『タイチ』だ」
「タイチ殿。またいつかお会いしましょう」
「ああ。また、輪廻の先で」
妖魔大帝、いやタイチの体が光輝いて消えていった……。
「……これで、長い戦いが終わりましたね」
藤次郎は手を合わせ、空を仰いで言い、
「うん、タイチさんも救われたわね」
リュミも空を仰ぎ、
「先達の皆様もほっとしているだろうな」
「そうですわね、トラゴロウ様もきっと喜んでおられますわ」
ベルテックスとナホも頷き、
「けどさあ、アタイ疑問に思うんだ。なんで彦九郎様じゃダメだったんだろって」
「俺もそう思う。今だからこそだが」
ジニーとウイルがそう言った時だった。
「私達では、闇を祓うので精一杯だったからだよ」
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