第47話「心の力」

「ぐ……」

「ああっ!?」


 突如現れた黒く巨大な気功弾。

 それを防いだのは……ウイルだった。

 

 彼は咄嗟に藤次郎達の前に立ち、全身から放った気で黒い気功弾を消し去った。


「み、皆、無事か?」

 ウイルが息も絶え絶えで尋ねる。

「え、ええ。ですがウイルが」

「いい。それより」



「ふふふ、もう貴様の力は残っていないと思ったが」

 消えたと思った妖魔大帝が姿を現した。


「お前も、元人間なら、わかるだろ、これが、愛と友情の力だ」

 ウイルがかすれた声で言う。

「ふ、そうか。だが貴様はもう終わりだ」

「ああ……ジニーをヨメにしたかった」

 そう言ってウイルは、静かに倒れた。


「……う」

 藤次郎がウイルに近寄ったが、そのまま頭を振った。


「ウイルのバカヤロー! 死なないって言っただろおお!」

 それを見たジニーが泣き叫び、

「我らが油断したばかりに……ぐっ!」

 ベルテックスが身構え、

「でも、妖魔大帝も無傷じゃないわよ」

 リュミがそう言った時、


「そうかな? ……はああっ!」

 妖魔大帝が両腕を掲げ、そこから黒い光を放った。

 すると……


「あ、ああっ!?」


 宙に幾つもの扉が現れた。



「あれ、まさか異世界への扉?」

 リュミがそう言った時、その扉が次々と開き、そこから黒い霧のようなものが吹き出て……妖魔大帝に吸い込まれるように集まっていった。


「もしや、多くの異界から悪しき縁を集めている?」

 藤次郎がそう言うと、


「そのとおりだ。そして悪しき縁ある限り、私の力も無限だ」

 妖魔大帝の傷が癒えていた。


「さあ、皆消えるがいい!」

 妖魔大帝が掌に気を集め出すと、

「させん! トラゴロウ様、お力添えを!」

 ベルテックスが斧を振り上げ突進していった。


「ぬ?」

「うおおおー!」

 

 ブウン!


 ベルテックス渾身の一撃が妖魔大帝の体を真っ二つに……


「あ……」

「……うん」

 ジニーとリュミが何故か項垂れた。


「ぐふっ!」

 いつの間にか妖魔大帝がベルテックスの背を貫いていた。


「今のは残像だ。惜しかったな」

 妖魔大帝が腕を引き抜くと、ベルテックスはそのまま倒れ……いや。

 

「そんな事、承知の上……本命はこちらだ!」

「何、ぐっ!?」

 ベルテックスは油断していた妖魔大帝の顔を掴み、

「ぬおおおおー!」


 ドゴオッ!


 そのまま地面に叩きつけた。


「……う、拙者は、ここまでか」

 彼の腹から流れる血は止まらない。

「ナホ……後は、頼む」

 そう言った後、ベルテックスは音を立てて倒れた。


「……ええ、任せてください」

 ナホは涙を堪えながら頷いた。


「お、おのれ……この男、優者に匹敵する力を持っていたとは」

 ベルテックス最後の一撃が効いたようで、妖魔大帝は回復が追いつかずふらついていた。



「ナホ、アタイが時間稼ぎするよ」

 ジニーが身構えて言う。

「ありがとうございます。まずは藤次郎さんとリュミさんを回復させますわ」

「頼んだぜ。あと他にもなんか手があるんだろ?」

「ええ。やった事ありませんけど、夫に託されたからにはね」


「え、何か策が?」

 藤次郎とリュミが側に寄って聞くと、

「はい。それよりじっとしててください」

 ナホは二人に向けて回復魔法をかけ始めた。


「ねえ、あたしはいいから、その分を藤次郎に」

 リュミがそう言うが、

「駄目です。一番の忠臣はベルテックスですけど、一番……はあなたなのですから」

「え?」




「ダン様、一分一秒でも長く持ちこたえられるよう、見守っててくれよな」

 ジニーが腕輪を見ながら呟くと、それが光りだした。

「え? ……そうなんだ。うん、分かった」

 そして右腕を高々と掲げ、

「煌めき纏え、『天衣』よ!」

 猛々しく言うと、腕輪が輝きを増した。


「な、いったい何が!?」

 藤次郎が目を細めて言い、


「ま、まさか?」

 妖魔大帝は何かに思い当たったようだ。



 そして、光が止むと……。

 そこには白銀の腕当て、胸当て、脛当て、額にはサークレットを付け、その背には白い翼がある、ジニーがいた。


「やはりか。いや、ダン以外にそれを使える者が現れるとは思わなかったぞ」

 妖魔大帝がそう言うと

「そうかよ。じゃあ……だりゃああ!」

「!?」

 ジニーは先程までとは桁違いの速度と力で、妖魔大帝を打ちだした。



「そっか。あれが伝説の天衣だったんだ」

「あれはどういうものなのですか?」

「腕輪に認められし者がそれをつけると、背に翼が生えた鎧と化し、力を何倍にもあげるだけでなく、空をも飛べるようになるのよ」

「そのようなものがあるとは……」


「さあ終わりましたわ。では……ふふふ、目に物見せてやるよ」


「うわっ!?」

「ちょ、なにしてんのよ!」

 ナホは服を脱ぎ捨て、全裸になっていた。


「まあ見てなって。藤次郎も後ろ向いてないで見なよ」

「う……ですが」

 

「気にする事ないよ。てか見ておくれよ、アタシの最後の術をさ」

「え?」




「く、なんというスピード、攻撃力だ。本当にダン以上ではないか」

 妖魔大帝も反撃するが、ジニーを捉えきれずにいた。

「だが無理をしているようだな。徐々に力も速度も落ちているが、それで私を倒せるかな?」


「アタイが倒す必要なんかないぜ。最後は藤次郎が決めてくれるんだから」

「何?」

「リュミ、技借りるぜ。……そりゃああ!」

 ジニーが高々と宙に舞い、蹴り技の体勢を取り、横回転で落下していった。



「え、あれ猛虎聖闘回天脚!?」 

 リュミが声を上げたと同時に、


 ドゴオッ!


「ぐおおっ!?」

 妖魔大帝にジニーの一撃が決まった。



「へへ、どんなもんだい」

「ジニー、さっき見ただけでなんて」

 リュミが驚きながら尋ねる。

「いや、何故か出来る気がしてさあ。天衣のおかげかな?」



「ぐっ……ん? なっ!?」

 妖魔大帝が自身の体に違和感を覚えた。

「どうだい、もう回復できねえだろ?」

 

「き、貴様いったい何をした!?」


「アタイじゃねえよ」

「アタシだよ」


「!?」


 見るとナホは全身から魔法力を発し、幾つもの扉へ向けて放っていた。


「ま、まさか、異界への扉を封じたのか!?」

 

「そうだよ……ええ、今のわたしなら……」

 ナホは力尽きたのか、そのまま仰向けに倒れた。


「ナホ!?」

 藤次郎が駆け寄り、自身のマントを被せる。

「……ふふふ、これでもう、妖魔大帝は、回復しません」

 そう言うナホの顔は真っ青で、息も絶え絶えだった。

「な、なんて無茶を」

「いいのですよ。それより、妖魔大帝を、苦しみから、解き放ってあげて」

「え?」

「それが、優者でしょ……」

 ナホはそう言うと、ゆっくりと目を閉じた。



「流石だな……いや、貴様の血筋を考えれば当然だな。だからかつて引き込んだのだがな」

 妖魔大帝がナホの方を向いて呟いた時。

「どりゃああ!」

 ジニーがまた攻撃を仕掛ける。

「ぬうっ!」


 攻防が続き、互いに体力を減らしていった。

 


「行きますか、リュミ」

「うん」

 藤次郎とリュミはウイル、ベルテックス、ナホを少し離れた場所に移動させた後、戦場へと歩いて行った。


「お、やっと来てくれたのかよ。もうアタイ限界だぜ」

 ジニーがふらつきながら言う。

 限界以上まで戦ったせいか、生気が薄れていた。 


「ありがとう。さ、ゆっくり休んでください」

「うん。ああしんどかった……ウイル、一緒に寝ようぜ」

 ジニーはそう言ってウイルの側に歩いて行った後、倒れた。



「……さあ、最後の勝負だ」

 藤次郎が刀を構えるが、

「待って、あたしが行くわ。藤次郎はあれをね」

 リュミが制して前に出た。

「……リュミにまで死なれたら、私は」

「え?」

「いえ、頼みましたよ」

「うん!」



「ぐ、まだ貴様くらいは倒せるぞ」

 妖魔大帝もかなり消耗していたが、それでも戦えるようだ。

「どうかしらね? ……ごめんね皆、ややこしくなると思って使わなかったけど、皆も気づかないまま使ってたから、もういいわよね」

「何?」


「……はああっ!」


 リュミの体が白く輝きだした。


「え、あれは……?」

 藤次郎が目を丸くし、

「ば、バカな、それは優者しか使えないのではなかったのか!?」

 妖魔大帝が驚きの声を上げると、


「バカはあんたよ、この力、心力は誰にでもあるのよ。あんたにだってね」

「な、なんだと?」

「そりゃああ!」

 リュミが妖魔大帝に向かっていった。



「……リュミ」

 藤次郎の体も輝きだした。

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