第46話「光の雨霰」

「皆、初手から大技で」

 ウイルが皆に指示を出す。

「ええ、鳳凰一文字斬!」

 藤次郎が刀を振るって真空波を放ったが、


「はあっ!」

 妖魔大帝はそれを気合でかき消した。


「やはり妖魔大帝ともなると、あれではダメか」

 ウイルは驚きもせず言う。


「では、雷神大打突!」

 ベルテックスが自身の得意技を、

「極大五芒星呪文!」

 ナホが五芒星を描き、魔法力を増幅させて一気に放ったが、


「ぬ? はあっ!」

 妖魔大帝は両手から黒い気を放ち、それを相殺した。


「くそ、あれも効かぬか」

「うう……」

 二人が口惜しそうにし、

「いや、素手で受け止めなかったのだから」

 ウイルが弓を構えながら言うと、


「当たればな。はああっ!」

 妖魔大帝がまた黒い気を放った。

 だが、


「星光魔闘弾!」

 ジニーが放った光の弾が音を立てて相殺した。


「やるではないか。さすが魔闘士ダンの血を引きし者、いや既に超えているな」

 妖魔大帝はジニーがダンの子孫である事も知っていたようだ。


「そりゃ嬉しいぜ。ついこないだまで知らなかったご先祖様だけどさ」

「ではあの世で会えばいい」

「やなこった、アタイはまだまだ死にたくねえよ! そりゃああ!」

 ジニーの両手から光の魔光弾が乱れ飛んだ。


「そんな数打てば当たるなどは……ん?」

 妖魔大帝がそれを弾きつつ上を見た。


「猛虎聖闘回天脚!」

 リュミがいつの間にか飛び上がっていて、蹴り技の体勢で横回転していた。

「ほう、そう来たか。だが……はっ!」

 妖魔大帝も飛び上がってリュミを蹴り落とし、


「きゃあっ!」

「うわあっ!」

 ジニーは落ちてくるリュミを受け止めきれず、共に倒れた。


「ふふ、私も更に強くなっているのだぞ」

 着地した妖魔大帝が腕を組んで言った。



「大丈夫か? これ使え」

 ウイルが倒れた二人に薬草を差し出す。

「う、うん、ありがと」

 リュミがそれを受け取り、

「ぐ、全然こたえてねえし、どうすればいいんだよ」

 薬草を使いながらジニーが言うと、


「俺が奴を食い止めるから、四大守護者の光を藤次郎に送ってくれ」

 ウイルが皆に向かって言った。


「え、一人でって無茶だよ!」

 ジニーがウイルの肩を掴んで止めるが、

「大丈夫、切り札を使うから」

 ウイルはその手をそっと払いのけて言った。

「う……それ、死んだりしないだろな?」

「死んでたまるか。ジニーをヨメにするまでは」

「へ?」

「じゃあ、行ってくる」

 ウイルが前に出た。



「ほう、今度はダークエルフの弓闘士、フォレスの子孫か。奴は弓の名手というだけでなく一流の謀略家だった。その知恵のせいで妖魔達は幾度も退けられたわ」

 妖魔大帝がウイルを見ながら言う。

「そうか。俺は祖先ほどではないが、お前よりは頭が回るつもりだ」

「ふ、それでどうする気だ?」

「こうする……自然界に在りし全ての精霊よ、我に力を……はああっ!」


 ウイルが弓を高々と掲げると、四方八方に幾つもの光の弓が現れ、


「なっ? うおおっ!?」

 それら全てが妖魔大帝目掛けて光の矢を、雨霰のように撃ち出した。



「な、なんだよあれ!?」

「あたしも知らないわよ!」

 ジニーとリュミが声を上げ、

「……本来は大軍を相手にする技なのであろう。たしかにあれならば」

 ベルテックスがそれを見上げて言い、

「ええ。って見惚れていてはいけませんわ。皆さん、藤次郎さんに気を」

 ナホが皆に言い、

「うん!」

 四人が手をかざすと、そこからそれぞれの光が放たれ、藤次郎に集まっていく。


「……死なないでくださいよ、ウイル」

 藤次郎が刀を掲げながら呟いた。



「くっ、なんという力だ」

 妖魔大帝は気の障壁を張っていたが、そのまま動けずにいた。

「……絶対に持ちこたえてみせる」

 そう言うウイルの全身には、玉のような汗が吹き出ていた。



 どのくらい光の雨が降り続けたか、

「ぐ、この私の動きをここまで封ずるとは、かつての四大守護者以上かもな……だが」

「ぐ、ぐ……」

 ウイルが苦悶の表情を浮かべ、片膝をついた。



「あああっ!?」

 ジニーが思わず駆け寄ろうとしたが、

「来るな。俺に構わず、気を集中しろ」

 ウイルが手をかざしてそれを制する。

「け、けどよ!」

「死なないと言ってるだろ」

 ウイルはほんの僅かだが、笑みを浮かべた。

「……わかったよ」



「ふふふ、そう言いながらも力は弱まってきているぞ」

 妖魔大帝の障壁が徐々に膨れ上がっていく。

「……はああっ!」

 だが、ウイルが気合いを入れるとそれがまた押し返されていった。


「な、なんだこの力は? 自然界のものだけではない?」

 妖魔大帝が一瞬驚きの表情を浮かべたが、

「……だが、出すのが少し遅かったようだな。はああっ!」

 障壁が一気に膨れ上がって光の弓矢を消し飛ばした。


「ぐっ……」

 ウイルは力尽きたのか、その場に仰向けに倒れた。


「ここまで手こずらせてくれるとはな。さあ、死ね」

 妖魔大帝がウイルに近づいていくと、


「させるか! てりゃあああ!」

 藤次郎が四大守護者の力を集めた光の津波を放った。


「なっ!?」

 それが妖魔大帝を飲み込んで消えた……。



「や、やったか?」

「気配は感じられないわ」

 ベルテックスとリュミが頷き、

「ウイル、しっかりしろよ!」

 ジニーがウイルを抱き起こし、

「落ち着いて。今ウイルさんに回復呪文をかけますから」

 ナホが手をかざして魔法をかけると、ウイルが目を開けた。

「……ん」

「気がつきましたか?」


「……皆、まだだ」

「え?」


 チュドーン!

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