第43話「立ち塞がる守護者」
あれから三日後。
藤次郎達は道程を予定通り進み、目的地近くに着いた。
そこにあるのはどこまでも広がり、まるで何かを隠しているかのように見える鬱蒼とした森林だった。
「この向こうにタカマハラがあるのですね」
藤次郎が森を見ながら言うと、
「ですが普段は立入禁止です。というより認められた者以外が入ると迷うと言われていますわ」
「ここ、結界が張られている。おそらく容易に異界への扉に行けぬようになっている」
ナホとウイルが続けて言う。
「では、どうやって入ればいいのですか?」
「大丈夫。藤次郎なら迷うことはない」
ウイルがそう言った時。
「ん? 誰か来るわよ」
「ああ、凄まじい気だな」
リュミとベルテックスが身構えると、森から出てきたのは。
八尺はあろうかという巨体で毛むくじゃら、両の手に大太刀を持ち、虎の顔を持つ男……。
「まさか、と、トラゴロウ殿?」
「えっ!?」
「なんだと!?」
リュミとベルテックスが声を上げ、
「た、たしかにトラゴロウ様の気だ」
ウイルが震えながら言い、
「……あの、若返ってますわよね?」
ナホがトラゴロウを指し、
「てか敵意むき出しだぜ、まさか妖魔に憑かれたのか!?」
ジニーがそう言った時。
「ガアアッ!」
トラゴロウが太刀を振りかざして突進して来たが、
「はっ? させん!」
ベルテックスがいち早く前に出て、斧でそれを受け止めた。
「藤次郎!」
「ええ! ……はああっ!」
藤次郎が刀を振るい、そこから放たれた光の波がトラゴロウを飲み込んだが、
「ガアアッ!」
「き、効いてない!?」
トラゴロウは何もなかったかのようにベルテックスを突き崩そうとしていた。
「ぐ、トラゴロウ様、正気に戻られよ!」
ベルテックスが二刀を受けながら言うと、
「……おのれ徳川幕府……なぜ、彦九郎様を死なせた」
トラゴロウが憎々しげに声を出した。
「そ、それはどういう事ですか?」
「彦九郎様は、謂れなき罪で切腹させされたご主君に殉じ、追腹を」
「な、なんですと!? うわあっ!」
ベルテックスは一瞬の隙を突かれ、トラゴロウに蹴り飛ばされた。
「な、なあ、追い腹ってなんだよ?」
「主君の後を追って腹を切る事よ。ようするに」
「じ、殉死されたという事ですの?」
ジニーが、リュミが、ナホが続けて言い、
「藤次郎、そうなのか?」
ウイルが身構えつつ尋ねると、
「ええ……お祖父様はご主君に殉じられました」
藤次郎は項垂れて答えた。
「ま、まさか優者彦九郎様のご最後がそれだったとは……いや、武士としてはご立派だが」
ベルテックスがよろけつつ立ち上がって言う。
「彦九郎様はこの世界を、多くの世界を救った御方。その心で儂に、多くの者に道を示した御方でもあるのだぞ。それを」
そう語るトラゴロウの目は怒りと憎しみが篭もっているかのようだった。
「ぐっ、拙者とてもし藤次郎がそうなったら」
「分かるなら儂の味方になれ。共に愚か者たちを討とうではないか」
「彦九郎様がそれを望むとでも?」
それを聞いたトラゴロウは、何も言わず動きを止めた。
「トラゴロウ殿、あなたのように怒った人は他にもいます。うちの家人も、そして父上も」
藤次郎が前に出て言い、
「あたしもよ。お兄ちゃんを死なせた奴らを……って思う時だってあったのよ」
リュミも悲しげな顔で言った。
「……ダン様もたぶん、あの世で相当怒ってただろうな」
「我が祖先フォレスも、たぶん」
ジニーとウイルが俯き、
「ですが、皆それぞれの道を行く事こそと」
「彦九郎様が言われておった、闇は完全に消えないであろうと」
トラゴロウが藤次郎の言葉をを遮って言った。
「え?」
「そんな事はない。儂はその後も旅を続け、この目で見てきた。世界は、人々は理想に向かって進んでいた……そのはずだが、今はどうなのだ? 儂はいいとしても、彦九郎様や皆が命を賭して戦い抜いたのに、殆どの者がその事を知らぬ。そしてまた、闇を生み出している……」
そして一呼吸置き、
「これ以上させぬ為に、全てを消す」
再び二刀を上げ、勢いよく振り降ろすと、
「があああっ!」
そこから放たれた衝撃波が藤次郎達に襲いかかり、
「うわっ!」
「ぬおおっ!?」
藤次郎達はそれに耐えきれず、吹き飛ばされた。
「ぐっ、これが初代守護者の力か」
「たぶん妖魔大帝の力も合わさってる」
ベルテックスとウイルがよろけながら立ち上がると、
「がああっ!」
トラゴロウが二人に襲いかかった、が。
「はあっ!」
藤次郎がトラゴロウの二刀を受け止め、そのまま抑え込んだ。
「……彦九郎様と互角、いやそれ以上やもですな」
トラゴロウが口元を緩めて言う。
「操られていない……なぜ?」
「これが、儂の選んだ道です。全てを滅ぼせば妖魔も消える……それを止めたければ、儂を討ちなされ」
「出来るわけないでしょうが!」
藤次郎が声を荒げると、
「甘いですぞ、そりゃああ!」
トラゴロウが力任せに二刀を振り上げると、藤次郎が体勢を崩し、
「ぐあっ!」
腹に蹴りを入れられた藤次郎が宙を舞って落ちた。
「藤次郎! ……大丈夫、気を失っただけだ」
素早く藤次郎に駆け寄ったウイルが頷く。
「なあ、どうするよ?」
ジニーが皆に言う。
「最悪の時は、拙者がこの手で」
「いいえ、やるならわたしも」
「あたしもね。だって守護者なんだから」
「……だよな、よし!」
皆が一斉に身構えた。
「ウイルは藤次郎を守りつつ、指示を頼む」
「わかった。ベルテックスを中心に、両脇はジニーとリュミ。ナホは後ろから援護」
「おお!」
「ほう、今度は四大守護者全員でか。さあ来るがいい」
トラゴロウも二刀を構える。
初代守護者と当代守護者達の戦いが始まった。
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