第41話「頼みましたぞ」
ジョッキを置いた後、トラゴロウ殿が話し出した。
「妖魔大帝がかつてこの世界を闇で覆った者という事は知っておられるでしょうが、あやつもまた異界から来た者だったのですじゃ。聖地タカマハラにある異界への扉を通っての」
「やはり。聖地タカマハラにいると知り、後でもしやと思った」
ウイルが納得して頷く。
「ではお祖父様もその扉を通って?」
「いいや、彦九郎様は何かの拍子で迷い込んだそうですじゃ。いや、大いなる意志が彦九郎様を遣わしたのでしょうな」
お祖父様は大いなる意思にも……。
「なあ、魔闘士のダンさんもだよな?」
ジニーが手を上げて尋ねる。
「うむ、ダンもじゃったわ。その後彦九郎様とダンはそれぞれの世界へ帰っていったのじゃが……ダンはまた戻ってきたのかのう?」
トラゴロウ殿が首を傾げられた。
「え、どういう事?」
「いや、ジニーだったかの? お前さんからはダンと同じ気を感じられるが、もしや子孫か?」
「わかんねえよ。アタイんちは代々下級貴族だけど、そんな話ないよ」
ジニーが頭を振ると、
「ダンさんが戻ってきたんじゃなくて、子孫の誰かがこの世界に来て永住したんじゃないかな? そしてその更に子孫がジニーなのかもね」
リュミがそんな事を言った。
「なるほどのう。そうじゃ、体のどこかに青い星型のアザはないかな?」
「え? うんあるよ」
ジニーが少し間をおいて頷く。
「そうか。ダンは背中にそれがあってな、聞けば彼の家系の嫡流かそれに近い者に出るそうじゃ」
「じゃあアタイ本当にダンさん、いやダン様の子孫なんだ」
ジニーは右腕につけている腕輪に触れ、それをじっと見つめた。
「ジニーに星型のアザなんてあったっけ? 何度も一緒にお風呂入ってたけど、気づかなかったわよ」
「わたしもですわ。いったいどこに?」
リュミとナホが首を傾げると、
「アタイはここだよ。ほら」
ジニーが後ろ髪をかきあげ、うなじを見せた。
てか先に言ってくれ、見てしまっただろが。
「ああ、そこじゃ見えにくいわね」
「それに小さいですから、見逃してましたわ」
「そのアザ、父君か母君には無いのか?」
ベルテックスが目を逸らしながら言う。
「父さんにもあったって母さんが言ってた。アタイはあんま覚えてねえけど、やっぱ背中だってさ」
「ブークにもありましたよ。一緒に風呂入った時に見ました」
「そうなの? アタイもブークがちっちゃい頃は一緒に入ってたけど気づかなかったよ」
ジニーも首を傾げた。
「ここにありましたし、やはり小さかったからでしょうね」
私は右足の付け根辺りを指した。
「へえ……じゃあ藤次郎はじっくり見たんだ」
ジニー、なんか変な目で見てるな?
「しばらく風呂使ってなかったと聞きましたので、体を洗ってあげたんですよ」
「ブークは十歳なんだから自分でできるって」
「まあそうですけど、私がしたかったんです」
前にも思ったが、弟がいたらこんな感じかなと。
「したかったって、やっぱ藤次郎は男もありなんだ……ハアハア」
ぷちっ。
「おいてめえ、斬られてえのか!?」
「ひいいっ!?」
藤次郎が刀を抜いて言うと、ジニー以外の全員が後退った。
「な、なんという殺気だ……」
「藤次郎、怖い」
ベルテックスとウイルが震え上がっていて、
「お、落ち着いてくだされ。ほんの冗談でしょうに」
我に返ったトラゴロウが藤次郎の肩を掴んで止めた。
「……そうですね。すみません、苛ついてしまって」
「ジニー? ああ、あんな殺気を直接ぶつけられたらこうなるわよね」
立ったまま泡吹いて気を失っているジニーだった。
「ところでジニーさん、腐ってらしたのですか?」
「さあ? そんな素振りなかったんだけどなあ?」
ナホが尋ねるが、リュミは首を傾げていた。
そして全員が落ち着きを取り戻してから、
「トラゴロウ殿、お祖父様や皆様はどうやって妖魔大帝を倒したのですか?」
「はい。それはもう凄まじい戦いでしたわい」
儂が二刀で斬りつけ、ダンが魔法と拳法で向かっていき、フォレスが自然界の力を込めた矢を、ルナが大魔法を放ち、彦九郎様が優者の力を。
だが妖魔大帝は強かった。
皆が傷つき倒れ、もうだめかと思った時じゃった。
彦九郎様の体がまばゆく輝き出したのは。
そして儂らも同じように輝き、それぞれの想いを込めた光を彦九郎様に放った。
彦九郎様は更に輝き出し、その光を剣に乗せて放ち……妖魔大帝を制したのじゃ。
「ですが、妖魔大帝は完全に消えなかった」
「ええ。いずれ蘇ると言い残して……そして今、蘇った」
トラゴロウ殿がうつむきがちになる。
「けど今度こそはよね。藤次郎ならできるわよ」
「それはあなた達もいてこそじゃ。頼みましたぞ、守護者達」
トラゴロウ殿が笑みを浮かべて言われた。
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