第38話「会えなかった者に会えた」
港町を出て数日後、城下町に着いた。
ここもイヨシマやアキヅシマに勝るとも劣らない町並みで、やはり様々な種族が行き交っていた。
遠くにはどこか日ノ本を思い起こさせるお城が見える。
「さて、王様にご挨拶しておきますか」
「そうだな。アキヅシマの陛下に紹介状を頂いているし、もしかすると知らせが届いているやもしれんしな」
城門前に着いた。
そこにいた門番殿に紹介状を見せて取次を願うと、すぐに客間に通されたがしばらく待たされた。
やがて初老の男性が来られ、自分はこの国の大臣だと名乗られると、
「生憎取り込み中でな、申し訳無い。出来れば明日また来てくれぬか?」
そう言われ頭を下げられた。
「あ、頭をお上げください。お忙しいでしょうし、仕方ない事です」
「いや、ここだけの話にしてくれ」
そう言って顔を上げられた。
何やらお困りの様子だが……もしやご病気? それとも妖魔が何かしたのか?
「実はな、王と王妃が夫婦喧嘩の真っ最中なのだよ」
……なんですかそれは。
「ねえ、もしかして王様が浮気したとか?」
「待てよ。王妃様がかもしれねえじゃん」
リュミとジニーがそんな事を言うが、
「浮気などどちらもせんわ。いやな、王と王妃は優者殿達をぜひもてなしたいと楽しみにしていたのだが、そのもてなす方法で意見が食い違ってそれでなのだ」
そうなのか。もめるほどとは恐れ多い事だが、
「あの、ちなみにどういったものでしょうか?」
「王はツクシシマの名物料理と酒を用意し無礼講で騒ごうと。王妃は伝統に沿って歓迎の式典を行おうと言うのだ」
そういえば式典らしきものはイヨシマもアキヅシマもされていないな。
気を使っていただいたようだ。
「大臣様、それ両方じゃダメなのか?」
ウイルが遠慮なく言う。
「それだとどちらも時間が短くなるから嫌だと言うのだよ……まあ結局そこに落ち着くだろうから、そのつもりでいてくれぬか?」
大臣様がそう言われたので、今日の所はお暇した。
そして翌日、また城へ行ったが
「すまぬ。優者殿達が来たと伝えたのにどちらも折れてくれぬ」
大臣様が出てこられ、また申し訳なさそうに頭を下げられた。
「大臣様、頭上げて。しかしどっちも頑固ね」
リュミが言うと、
「たしかにそうだが今回は少し異常だ。いつもなら散々言い合った後、夜にベッドの上で勝負するのに」
「大臣様、伏せてるようで伏せてません」
「……もしかして、妖魔?」
ウイルが言うと、
「そうかもしれぬな。お二人を争わせて国を乱そうとしているのやも」
「じゃあさ、アタイ達でなんとかしようぜ」
「そうですわね。大臣様、よろしいですか?」
皆が口々に言った。
「すまない。せっかく来てくれたのに手を煩わせてしまって」
「いえいえ。では」
我々は大臣様に案内され、玉座の間に来たが……。
「だから優者達は庶民なのだから、堅苦しい事などしたら疲れるだろうが!」
「だからと言って式典全部無しはないでしょうが!」
「おのれこのわからずやが!」
「それはあんたでしょうが!」
何やら言い合ってる壮年の夫婦、いや王様と王妃様だろう御二方がいたが、
「……あの、妖魔の気配が感じられないのですが」
「俺も感じられない」
「わたしもですわ」
「なあ、あれホントにただの夫婦喧嘩じゃねえか?」
「そうかもしれんが……」
「もし隠れてるなら相当の奴ね」
「ん? おお、見苦しい所を見せてすまなかった」
「ようこそいらっしゃいました。私が王妃でこっちが王です」
お二人がこちらに気付いて話しかけて来られた。
「はい、私は石見藤次郎と申します。優者を名乗らせてもらってます」
私達は膝をついて挨拶をした。
「うむ、アキヅシマ王から知らせが届いているぞ……しかし似てるな」
「あなたの絵姿も送ってもらってましたが、実際に見ると本当に」
お二人が私の顔をじっと見ているが、
「あの、どういう事でしょうか? 似てるとはいったい?」
「いや私達には子がいないのだがな、時折見る夢の中では息子がいるのだよ」
「私も同じ夢を同じ日に見るの。そしてね、その子があなたと瓜二つなのよ」
お二人が続けて言われた。
「ああ、息子さんが来てくれるような気になったから余計にもめてたのね」
リュミが言うと、
「そうなんだ。私は息子と酒を酌み交わすのが夢だったからなあ」
「それは分かりますけどね、やはり由緒正しき衣装を纏ってもらって式典しないと」
「あの、帰りにも寄りますのでどちらかを先にではダメでしょうか?」
無礼とは思いつつも話が進まないのでそう言った。
「そうね。じゃあ先に宴会をどうぞ」
「いいのか?」
「いいわ。これ以上優者達をお待たせする訳にもいかないし」
「すまんな。そうだ、帰りならどうせ凱旋式だから盛大にやろうな」
「ええ」
そう話された後、お二人は笑みを浮かべられた。
「……なあ、アタイ達今回はなんもしてねえな」
「いえ、藤次郎さんを見なかったら収まってなかったかもですわ」
「そうだとも。皆が来てくれたおかげだ」
「さ、支度が終わるまでお話を聞かせてくれませんか?」
そう言われたので、私達はこれまでの事を話した。
「聖地タカマハラに妖魔大帝がか……」
玉座に座っておられる陛下が、顎に手をやって言われる。
「はい。おそらくはそこで最終決戦となります」
「そうか。うちに伝わっている事は他とほぼ同じだからなあ。役に立てずすまない」
陛下が目を伏せると、
「そうだわ。あなた、藤次郎さんにあれを授けたら?」
王妃様が手を叩いて言われた。
「おおそうだな。では」
陛下が立たれ、玉座を後ろに押されたかと思うと床に小さな蓋があった。
それを開けて取り出されたのは、剣の形をした小さな紋が入った上着だった。
「これは我がツクシシマ王家に伝わる魔法衣だ。軽いが防御力が高く、邪を祓う力もある。これを優者に授けよう」
「どうか持っていってください。私達にはこのくらいしか出来ません」
「いえ、そのような由緒正しき物を」
「藤次郎、受け取っておけ」
ウイルが私の肩に手を置いて言う。
「え、しかし」
「今の二人は息子を心配する親」
「……そうですね。では遠慮なく」
私がそれを受け取り、早速着てみると、
「おお、よく似合っているぞ!」
「ええ、本当に……会えなかった息子が、そこにいるかのよう」
お二人共笑みを浮かべ、目にうっすらと涙を浮かべておられた。
喜んでいただけたようでよかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます