第4話「私が伝説の救い手?」
あっという間に数日が過ぎた。
そろそろ先に進もうと思い、寝る前にご主人に挨拶することにした。
「明日の朝ここを出ます。お世話になりました」
「いえこちらこそありがとうございました。あの、気が向いたらまた来てくださいね」
「ええ。その時には女将さんもいるでしょうから」
「それはなんとも言えませんが、お待ちしていますよ」
その時、戸を叩く音がした。
ご主人が応対に出た後、立派な衣装を纏った身分の高そうな男性が入ってきて私に話しかけた。
「夜分遅くすまぬ。お主が例のサムライとやらか?」
「藤次郎と申します。あなたは?」
「この方はこの国の大臣様ですよ」
ご主人が教えてくださった。
「そうでしたか。失礼致しました」
「いやいや。藤次郎殿、すまぬが朝になったら城に来てもらえぬか? 陛下がお主をお呼びなのだよ」
「はい。しかし大臣様御自ら来られたという事は、何か重大な事でしょうか?」
「それは陛下がお話するので、今はな」
「わかりました。あのご主人、また数日お世話になるかもしれませんが、いいでしょうか?」
「ええ、勿論ですとも」
翌日。
お城の前に着いた。
壁も塀も石造り。
遠くから見てはいたが、近づくとやはり大きい。
このような城は今の日ノ本では作れないかもな。
門の前では大臣様が待っておられ、御自ら玉座の間へと案内してくださった。
やはり余程の事なのだろうな。
「おお、そなたがかのサムライか。よく来てくれた」
おお、いかにも漫画という書物で見た物語の王様だ。
思わずニヤけそうになったのを堪え、膝をついて礼をとった。
「お召により参上しました、石見藤次郎と申します」
「うむ、顔を上げてくれ。まずはあの宿屋の事件を解決してくれた事、儂からも礼を言うぞ」
王様が頭を下げて言ってくださった。
「はっ、勿体なき事です」
「うむ。しかしまだ少年なのにその強さ、立ち振る舞い。両親にとってもさぞ自慢の子息じゃろうな」
「いえ、私などまだまだ若輩者。父母の足元にも及びません」
「うむうむ……さて、あの宿屋に憑いていたものは妖魔というものと報告を受けたが、そなたはそれがどういうものなのかを知っておるのか?」
「はっ。妖魔は苦しみ悲しみ妬み憎しみなどを糧に、あるいはそこから出するもので、それを得るために人々を惑わせ操り『悪しき縁』を起こすものでございます」
「そうか。我が王家にもそういった存在の伝説があるのだが、本当だったのだな」
「はい。私の父母や友人方が何度もそれらと戦い退けてきました」
「……少し尋ねるが、そなたもしかして異界から来た者か?」
「ははっ。仰る通りでございます」
異界の国王様は別の世界の存在もご存知なのだな。
「そうか……いやもう一つ伝説があってな、それによるとこの世に妖魔が現れし時、異界から救い手がやって来てそれを祓うとあるのだ。もしかすると、そなたの事なのかもと思ったのだ」
「私はそのようなものではありませんが、妖魔が人々を襲うならこの剣を取り戦う所存です」
「剣だけか?」
「は?」
「いや、そなたからは揺るぎない何かを持っているように感じられるのだ。敵を斬る事なく制するような、そんな何かを……伝説にある救い手もそうらしく、その大いなるもので人の心にある優しさを起こさせ、希望を伝え悪しきものを祓う者。それを優しき者と書いて『優者』と呼ぶのだそうだ」
優者とは一彦の事じゃないか。
たしか彼一人だけという訳ではなく、何人もいるとは聞いたが。
「申し訳ありません。やはり私はそのようなものでは」
私は違うだろ。
「そうかすまぬな。だがそなたなら妖魔を倒せるのだろ? それを見込んで頼みたい。我が娘を救ってほしいのだ」
「姫様が妖魔に憑かれていると?」
「おそらくな。二月程前からずっと眠り続けたままなのだよ」
王様が項垂れ目を手で覆い、
「ある日突然お倒れになられ、そこからずっと眠られたままなのだ……何人もの医者にも見せたが皆わからぬと。呪いかと思ったが、このような呪いは無いと王宮魔導師も言うのだ」
大臣様も目を潤ませて言う。
「……あの、それはおそらく妖魔のせいではありません」
「何?」
「魂がお体から離れ、夢の世界に引きこもっておられるのでしょう。以前父に聞いたのですが、やはり同じように眠ったままだった方と会ったとか」
「なんと!? そ、それで父君はどうやってその者を!?」
「父がではありませんが、父の友人に夢の世界へ行ける方がいて、その方と他の友人方が赴いてお救いしたと聞きました」
「そ、そうか。ではその友人殿を連れてきてはもらえぬか?」
「そうしたいのですが……実は元の世界への扉は制約があり、二年後にならないと開かないのです」
途中で決心が鈍ってはと思ってそうしていただいたのが仇となった。
「では、あと二年も待たなければならぬのか」
「いえ、あまり長い間魂が離れていると、本当にお命が無くなるそうです」
「くっ、ではどうすれば」
そうだ、守護神様のお力で扉を開いてもらうか。
「陛下、直ちに諜報部隊に伝え、そのような事ができる者がいるか探させます。この世界にも一人くらいはいるかもしれませんし」
大臣様が言った。たしかにいるやもしれないな。
この世界の事はなるべくそこに住む人達の手でだな。
「頼むぞ……そうだ藤次郎、書庫へ行ってもらえぬか? そこには未だ解読出来ぬ書物がいくつかあるのだが、異界から来たそなたならもしかすると読めるやもしれんし、その中に良い手立てが書かれてあるやもしれん」
「はっ、仰せのままに」
「では案内させよう。王宮魔導師をこれへ」
「はじめまして。王宮魔導師をしていますベルと申します」
やって来たのは金色の短い髪、眼鏡をかけているせいか少々目つきがきつい。
だが美しく、背が私と同じくらいで黒いローブというものを纏った女性だった。
「はじめまして、藤次郎と申します。歳は十五歳です」
「あら、じゃあ三歳しか違わないですね。私は十八ですよ」
ベル殿がご自分を指して言われた。
「え、失礼ながらもっと上かと……そんなお若い方が王宮魔導師という事は、よほど優れた御方なのですね」
「いえいえ。姫のお気に入りなので七光でなっただけですよ」
「何を言うか。ベル殿は誰もが認める天才魔導師だぞ。だから推挙されたのだ」
大臣様が言う。
「そんな天才とやらでも、姫をお救いできずにいます」
そう言ってベル殿が項垂れる。
「ああすみません、ではご案内しますね」
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