第5話「光り輝く隧道」
書庫に着いた。
広いその部屋には所狭しと棚があり、多くの書物が納められていた。
聞けば国中から集められたらしい。
我が殿は書がお好きだそうだから、ここをお見せしたらお喜びになるかなあ。
「未解読の書物はこちらですよ」
更に奥の部屋へ通されると、机の上に本と多くの資料らしきものが積まれていた。
「あ、これは読めそうです」
それは表紙に日ノ本の文字が書かれているものだった。
「え、そうなのですか? それはそちらの文字だったと」
「はい。では……ベル殿、これは封印した方がいいですよ」
「そうなのですか? 少しだけ入っている神秘的な挿絵からして聖なる書物なのかと思ったのですが、もしかして悪魔の書だったのですか?」
「……いえすみません。私には合わないだけでいいものかもしれません」
「なんだ驚かさないでくださいよ。あ、そういえば藤次郎さんってその挿絵の男性に似てますね」
ベル殿がそんな事を言われた。
「できれば燃やしてほしいくらいだが……貴重品だろうしなあ」
それはなぜか私の物語で、親友の松之助や源三郎と衆道関係になっているものだった。
作者名に覚えはないが、おそらくは後世の誰かなのだろう。
一彦にそいつぶん殴っておいてくれとお願いしよう。
その後も未解読の書物を読ませていただいたが、私にわかる文字は少なかった。
南蛮の文字のような書物もあったが、やはり私には読めぬ。
殆どの異界では日ノ本の言葉が通じるはずと一彦が言うが、念の為にと会話が通じるようになる首飾りを貰っていた。
ただ文字まであっという間にわかってはつまらないから、それを出来る物は貰っていなかった。
こんな事なら貰っておけばよかったかな。
「ところでこういった書物って、どこで見つかるのですか?」
ベル殿に尋ねた。
「大抵は古代遺跡ですが、一般人の家で見つかったり突然現れたりもするのです」
「なるほど。おそらくはなにかの拍子で異界の扉が開いて、そこから落ちてきたのでしょうね」
「おそらく……あの、藤次郎さんの世界では誰でも異界へ行けるのですか?」
「ん? いえ、これらの書物のように偶然行ってしまうとか、後は神様がこしらえた扉を通ってですが、それは誰でもいい訳ではありません」
後は転移術とやらでだが、それは言わないでおこう。
「じゃあ私は無理か。異界を見たかったな」
少しがっかりされているようだ。
「二年後になりますが、私が帰る際についていきますか?」
「え? あ、あの、いいのですか?」
「ええ。ベル殿なら文句は言われないでしょうから」
「ではぜひ。その時はできればナンナ……いえ姫様と一緒に」
「おや、お名前で呼ばれるほど仲がよろしいのですね。どうぞお気になさらず普通に話してください」
「ええ。私は幼い頃からナンナの遊び相手です。歳も同じなので私を唯一の友と言ってくれました。私もそう思っています」
「では、なんとかしてお救いせねば……ん?」
ふとそこにあった本に目がいった。
「どうかしましたか?」
「これも我が国の文字だが……な、なんだって、そんな方法があったのか?」
「え、もしかして夢の世界に行ける手立てが?」
「はい。あの、次の満月はいつですか?」
「今夜ですよ。ちょうど二つの月が重なる日ですけど、それが?」
「では、今から私が言うものを用意していただけますか」
しばらくして、ベル殿が戻ってきた。
「言われた通り聖水と大きな鏡をナンナの部屋に運ばせましたが、あれでなんとかなるのですか?」
「はい。この書に記されているところによると、聖水を鏡にかけ、満月を映して呪文を唱えれば夢世界への扉が開くとあります。後はそこを通っていけば姫様がいる場所へ行けるはずです」
「なるほど。では私も行きますよ、いいですね?」
「ええ。姫様を説得出来るのはベル殿だけでしょうから」
「どういう事ですか?」
「おそらくですが、姫様は何かでとてもお悩みになっているかと。その思いが魔法力あるいは何かの力と合わさって、夢世界を作り出したのでしょう」
「そうなのですか……私にも言ってくれないような何かがあったのね」
夜になり、寝室の前に来た。
見張りの兵士殿に挨拶し、中に入らせてもらった。
そこは思ったよりも質素でたくさんの書物と箪笥と机、寝具があるだけだった。
後で聞いたが、ここの王家は質素を旨とするそうだ。
そして姫様はベッドという寝具の上で寝ておられた。
無礼とは思いつつも姫様の寝顔を見た。
銀色の髪で可愛らしい顔つき。
本当にただ寝ているだけのように見える。
苦しそうな顔でないのは幸いと言うべきか……。
「ナンナ、待っててね……」
ベル殿が姫様の頭を撫で、悲しげに呟かれた。
時が過ぎ、窓から見える月が重なって一つの大きな円を描いた。
それを鏡に映してベル殿に呪文を唱えてもらうと……。
七色に光輝き、姫様の手前に光の扉が現れた。
「これで行けるはずです。さあ、いいですか?」
「ええ」
その扉を開けると光り輝く隧道があった。
私達はそこを進んでいった。
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