同期 後編

環奈に話すかどうかは立夏が決めていいと言われて、一月悩んで結論を出す。


久々に外でランチに行こうと環奈に提案して、1階のロビーを待ち合わせ場所にする。

12時になると同時に席を立って、環奈と合流してビルの近くの店に入った。

店は事前に立夏が決めていた店で、個室の部屋に案内される。


「なんか高そう」


日替わりをさっと注文してから、環奈が小さな個室を見渡す。


「夜もそんなに高くないよ、ここ。最近個室の店が増えてるからね」


「そうなんだ。飲みになんて何年も行ってないからなぁ」


環奈は飲めないわけではないが、妊娠+授乳期間×2と考えると、確かに飲みに行くどころではなかったのも頷けた。


「今はもう飲んでもいいの?」


「もう乳離れはしたから大丈夫だけど、結局子供を放っておけないから飲むどころじゃないが現実かな」


「まあ、そうだよね。一汰に子守させてたまには同期女子で集まるのとかどう?」  


「いいけど、今はまだ流石に下が小さすぎるから無理かも。立夏はお父さんの方落ち着いたの?」


先日、立夏の父親が倒れて、ばたばたしていたことは環奈にも話はしていた。


口を開く前に人の気配がして、料理が並べられるのをまずは待つ。


重箱の蓋を開けながら、お店の人が下がったのを確認してから立夏は口を開く。


「もう退院してて、お母さんとホームヘルパーさんで普段はやれるからって、今は週に1回くらいは顔を見に帰ってる」


「あれ? 立夏って実家から通ってなかった? 一人暮らし始めてたの?」


女性はやはり細かな部分で鋭い。


苦笑をしつつも、そのことを環奈には話そうと決心して今日は外に誘ったのだ。


「実は、この指輪をくれた人と一緒に暮らしてるんだ、私」


左手の薬指のリングを触りながら、立夏は大きく息を吸ってから言葉を出す。これを言葉にするともう取り返しが付かないことは分かっていたし、それも含めて親友を信じようと決断した。


「それは相手がようやく結婚に前向きになったってこと?」


「入籍は今はないかな。事実婚みたいな感じ」


「立夏、だからなんでそんな選択肢になるの。それ、絶対相手に都合よく扱われてるって」


「そんなことないよ。環奈、ここから先は環奈だから話すけど、一汰にも内緒にして欲しい」


「なに?」


「私のパートナーね、女性なんだ」


その瞬間環奈がフリーズしたのを立夏は感じ取る。そんなことに耐性がある女性など、ほとんどいないはずで、当然の反応だった。


「ごめん、驚かせちゃって」


「立夏って女性が恋愛対象になるってこと?」


「そこはよくわからない。でも、その人は女性だからって気にならなかったし、向こうも私だけって言ってくれてる。一緒に暮らし始めて実はもう2近く経ってるんだ。プロポーズもちゃんとしてくれたけど、籍は同性婚が認められるまで待とうになってるから事実婚でしかないのが現状」


「……理解というか整理ができてないけど、立夏にはもうちゃんと将来を歩むパートナーがいるってことでいいの?」


「そう」


「立夏って人がいいから変な男に引っかかって、気づいたら婚期を逃していたとか、自分だけ傷つくみたいにならないかって心配してたんだ。でも、まさかもうパートナーを決めてて、しかも相手が女性とはね」


「気持ち悪かったらごめん。でも、別に環奈のことそういう目で見たことはないから」


「自分が直接関係しないなら、まあ大変そうだけど好きならそれでいいかなとは思うよ。でも、立夏が先に行きすぎてて怖い」


「そんなに普通の夫婦と変わらないと思うよ」


「その言葉がリアル。女性同士でって、あんまり想像できないな……」


「そこはしなくていいから」


根掘り葉掘り聞かれても、立夏も唯花しか女性とはの経験がなくて、何が正しいかはよく分かっていない。


「どこで知り合ったの? 元々女性が好きならそういう場所で出会いとかありそうだけど、そうじゃないなら職場くらいしか思い当たらないんだけど」


環奈の鋭い指摘に立夏は目を逸らす。


「そういうことなんだ。じゃあ、相手の人誰か教えてくれるよね?」


「うちの会社の人だって言ってないよ?」


「でも、立夏ほとんど社内にいるし、社内の人じゃないの?」


「部門違うから言ってもわからないんじゃない?」


それは社内、同じ部門にいると言っているようなものだった。


「同じ部門の人か。じゃあ一汰にリサーチさせるかな」


にやりと笑う環奈を慌てて立夏は止める。流石に一汰は仕事をする上で近い存在で、そのことは知られたくなかった。


「一汰に知らせるのは絶対になし。絶対だめ」


「じゃあ教えて」


「……叶野さん」


「叶野さんってあの叶野さん!? 一汰が尊敬してるって絶賛してる」


「そうです」


環奈は恐らく維花とは直接会ったことはないだろう。だが、一汰から日々話を聞いていてもおかしくはなかった。


「どうやってつき合うになったか、じっくり聞かせて欲しいな、立夏。今度飲みに行こうか、二人だけで」


「さっき飲みに出るの無理って言ってたじゃない」


「大丈夫、一汰に子守りさせるから」



end


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お読みいただき有り難うございました。

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