同期

同期 前編

※この話はフットサルに続く話となります。



その日は週一のランチ会の日だった。



ランチ会とは言っても社内の休憩スペースで待ち合わせてご飯を食べるだけで、ほぼ毎回立夏りっかが食べているのは朝コンビニで買った食べ物だった。


ランチ会の相手は立夏の同期である相馬そうま環奈かんなで、所属する部門が違うので普段は社内ですれ違うこともほぼない。

お互い会おうとしなければ平気で半年くらい顔を合わさないこともあるので、週に一回くらいは会おうと話し合ってランチ会を開催するになったのだ。


それは環奈が立夏の同じ部門の同期である相馬一汰いったと結婚する前から続いていることで、あの頃はまだ二人で外に食べに行くこともあった。

環奈が2人めの出産を経て育休明けの今は、ゆっくりしたいからとほとんど社内で済ませるようになっていた。


まだ乳幼児を抱えての職場復帰はなかなか大変なようで、保育園関係のトラブルや一汰の子育てへの参加が足りないという愚痴が毎度のネタになる。


「ところで、立夏。その指輪のことは話してくれないの?」


今まで立夏はつきあっている相手はいないと環奈にも言ってきた。


ただ、先日会社の同僚とのフットサルで恋人がいるらしいと噂が広まり、それを機に恋人である叶野かのう維花ゆいかと話をしてペアリングを購入するに至った。


立夏は日常的にそれを身に付けるようになって、流石に環奈はそれを見逃してくれずに、追求が飛んでくる。


「つきあってる人に貰いました。以上」


「以上、じゃないでしょう。どんな人?」


社会人になってから立夏には恋人がずっといなかったことを環奈は知っている。いつも立夏は恋バナを聞く方で、機会があればねと言葉を濁して来たのだ。


「えっと……格好良くて、優しい人だよ」


「年は?」


そのくらいは事実を告げてもバレないだろうと維花との年の差を告げる。


「立夏は32で、相手も38になるんだったら、普通もう結婚なんじゃないの? 何でそんな指輪もらって納得してるの?」


環奈の言うことは正論だった。


でも、プロポーズはされているし、もう一緒に住んでるとは流石に言えなかった。


そんなことを言えば、更なる追求が目に見えている。


「そうなのかな。好きだって言ってくれるし、デートも行ってるし、もうちょっと付き合う時間を楽しみたいだけじゃないかな」


「甘い。立夏は甘すぎる。その男大丈夫なの? 38でそれって、実は既婚者の浮気男か責任も自分で負えないような弱虫男くらいだから」


「環奈、厳しい」


さすがにさっさと同期と結婚した人の言うことは鋭い。


「立夏ってお人好しだから言ってるの。子供産むなら早い方が絶対にいいよ」


「わかってるよ」


「じゃあ別れたら、その男と」


いきなり結論を出されて、どう誤魔化すべきかを悩む。


「……大丈夫だから、心配しないで。ちゃんとそういう話もするようにしていくし、ね?」


それでも不服げな環奈とのこの話題を立夏は強制的に打ち切った。





昼間の環奈とのランチ会での話を、就寝前に立夏は話題に出す。


「環奈ちゃんって立夏のこと気にしてくれてるんだ」


「でも、相手も見ずに別れろはないと思う」


「じゃあ、見せてみる?」


「なんでそんなに乗り気なの」


いつもこの手の話題に唯花は乗り気だった。逃げないのは唯花らしいけど、簡単に決断できる選択ではない。


「立夏がこれから先ずっと心苦しい思いをするのなら、言っちゃってもいいかな、って。でも、それによって友人関係が壊れるも当然あるから、簡単な選択じゃないよね」


「うん……」


指輪をつけるのは自分で選んだことで、それに後悔はない。


ベッドに座ったままで立夏は、隣に座る唯花に体を引き寄せられるままに身を任せた。


「そうだ。もっと本気の指輪買うのはどう?」


「それこそ、そんな指輪してるのに、どうして結婚しないの? になるよ」


「そっか……」


「それに、それって唯花が欲しいだけでしょう?」


「だって立夏が買わせてくれないんだもん」


「私はそこまで指輪に拘ってないんだよね。今もしてるけど、周囲へのアピールの意味だとしか思ってないから」


「それは結婚できない関係だから?」


「仮に結婚できたとしても、形がなくても変わらないって思ってるからかな。指輪があっても唯花がいてくれなかったら意味ないでしょう」


「大丈夫。立夏は何があっても引っ張って行くから」


立夏が頷くと、ご機嫌の唯花にベッドに押し倒される。


「もうっ……」


「立夏って自分のことは自分で考えて出した結論じゃないと納得できないよね」


「だって、そうしないと動けないんだもん」


「うん。わたしはそういう所に惹かれたんだしね」


「面倒くさくない?」


「全然。可愛くて、食べちゃいたくなるくらい」


「する気満々のくせに」


「立夏が可愛すぎるから」


唯花からのキスが落ちて、そのままそれを受け入れる。


唯花はいつも立夏が答えを出すのを待ってくれて、それを受け止めてくれる。


そんな人はもう2度と見つからないだろうと立夏は気づいているからこそ、唯花の手を離す気はない。


でも、それを繋ぐ形は自分たちで自身であればいいと考えていた。

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