第39話 バンキシャ部
足を組んでじっとその時を待っていた雷伝がかっと目を見開いた。
「どうやら、話は決まったようだな」
そう言った瞬間、部室の扉が開く。廊下から入ってきたのはノエルだった。
「バンキシャ部、あなたたちの停部届の取り下げが来ているわ。これは私たちの誤認処分よ。素直に謝ります、ごめんなさい」
その瞬間、部室が揺れた。岩寺と一風が飛び当たったのである。
「よっしゃー!」
「やったであります!!」
「これで一件落着だな」
雷伝は椅子から立ち上がり、拳を天に掲げた。
「バンキシャ部の復活だ!」
その姿を見たノエルはすぐに振り返り、部室の扉に手をかけるのだった。
「これで安心しないことね。次は星美から攻撃があるかもしれないわよ」
「確か、君は青橋の親友だそうではないか。ならあの女に言っておけ。来るなら来いと、我がバンキシャ部が正々堂々と相手をしてやると」
「ええ、伝えておくわ。廃部になるその日までせいぜい今の生活を楽しみなさい」
「廃部にはならん。バンキシャ部は終わらない、いや終わらせない」
その言葉を背中で聞いたノエルは苦笑いを残し、部室から去っていった。
「部長、ここは祝宴と行きましょう!! 一風さん、このクラッカーを持ってください!」
岩寺がそう言って取り出したのは某雑貨店で購入した巨大クラッカーだった。普通のクラッカーの数倍の大きさで、ロケットランチャーのような見た目をしている。威力も半端ではなさそうだ。
「そんなものを灯に渡したら、また調子に乗るぞ」
雷伝が止めようとしたのも虚しく、一風はそのロケットランチャーが肩に担いでいた。
「行くぜ、野郎ども」
クラッカーでも性格が変わるのか。トリガーはプラスチックだし、バレルは厚紙だぞ。この勢いだと、輪ゴムを指に掛けるだけでもハードボイドモードに入りそうだ。
「我は野郎ではないがな……」
雷伝はため息混じりに視線を逸らした。不意に視界に入ってきた雷伝が岩寺のバッグを指さす。
「おい、岩寺もう一つ買ってあるのか」
「いえそんなはずは……」
そう言った岩寺は自分のバッグにあるロケットランチャーと一風の持っているロケットランチャーを交互に見比べ、青ざめた。
「まずいです部長、あれは三号玉の打ち上げ花火です!!」
「何!! なんでそんなものを持っているんだよ!」
「この間の祭りで貰いました」
「あの日はさっさと帰れと言っただろ」
「いやちょっと祭りの残り香を……そしたら縁日のおじさんがくれました」
「普通は手持ち花火だろ」
いまはそんなことを言っている場合ではない。一風を止めなれば大惨事になる。
「灯! それは違うんだ!! やめろ!!」
「馬鹿野郎、一度かけたトリガーは引かなきゃ男じゃねぇ」
「お前は女だぞ、灯!」
「やばいです! 伏せてください!!」
とんでもない轟音で発射された打ち上げ花火は窓ガラスを突き破り、校庭へと打ち上がった
そしてバンキシャ部の復活を祝すように、薄暗い空に大きな花火が炸裂したのである。
その前代未聞の花火は全ての教室から見られたという。生徒会室、パソコン室、屋上、旧校舎、コピー室、魔窟。
だが白煙が充満するバンキシャ部の部室からはその綺麗な花火を見ることが出来なかった。
「おいおい、これどうすんだよ。また会長が乗り込んでくるぞ」
「後の祭りですね、祭りで貰った花火だけに」
「これが自分たちの祝砲であります」
「祝〝砲〟って言っちゃってるし」
どたばたと復活したバンキシャ部は再び始動した。
赤頭と約束したXデーの日、大々的に大スクープの記事が貼り出され、バンキシャ部の名前は瞬く間に学校中に広まったのである。
その前にあの花火事件で学校中の注目を集めたのは言うまでもない。
華々しい復活を遂げたバンキシャ部の記事を三人で揃って見に行った。思い返せば、三人揃って掲載された記事を見に行くのは初めてだった。
こうやって掲示板の前に仲間と共に作った物を眺めるのは案外、気分がいい。
この時だけはアホみたいに外で走り回って、練習に明け暮れている運動部の気持ちがほんの小指の先くらいには理解できた。
「一週間ぶりでも、こうやって我らの記事が貼り出されているのを見ると、懐かしく感じるな」
「ええ、部室の修繕費で部費が全て溶けてしまったため、印刷は僕の自腹でしたがね」
「お前があんた物を持ってくるのが悪いんだろ」
「岩寺の自腹なら問題はないであります。SMグッズを買うよりはよっぽど利口な資金繰りであります」
「SM道具とは一心同体なのですよ。立派な必要経費なんです」
「あら、バンキシャ部の皆さまではありませんか」
階段から降りてきたのは青橋とその隣にべったりとくっついている赤頭だった。
「青橋星美……これで終わりだと思わないことだな。まだまだお前のネタは掴んでいるんだぞ」
「望むところですわ。こちらもあなたの悪事を知っていますことよ」
生徒会とバンキシャ部、青橋と雷伝は睨み合ったまま、すれ違った。この二人の溝が埋まることなどない。だがこれでよいのである。これこそがバンキシャ部であり、生徒会なのだ。
「よし、部室に戻って仕事開始だ」
「ええ、やりましょう」
「あたらしい写真もあるであります」
三人は唯一の居場所、唯一の憩いの場であり、勝負をする場である部室へと帰るのだった。
バンキシャ部は終わらない。
今日も学校の闇を、妬みを、面白おかしく暴露するのである。
バンキシャ部! マムシ @mamushi2001
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