第30話 ガサ入れ
翌日の掲示板には人だかりが出来ていた。それはバンキシャ部の掲示物でもなく、無論、裏サイトの掲示物でもない。警備会社から送られてきた掲示物だった。
昨晩、学校に侵入した不審者についての情報である。身長が二メートル近い大男で、つぎはぎのプロレスマスクをしているとのこと。
どうやら昨日のガーディアンは何とか逃げ切れたようだ。捕まっていれば、もっと大問題になっている。
まるでアメリカのシリアルキラーのような風貌をした人物はその後、学校の七不思議として語れれるようになった。ガーディアンの名がいよいよ皆に広まってしまたため、もうあんな迷惑行為はしづらくなるだろう。
中にはそんなのは都市伝説と言って一蹴する人間がいるが、そいう人間に限って恋人がいた。ガーディアンの存在を前々から知っていた生徒はそんな輩を目にする度に、密かな復活を切望するのである。
だがガーディアンの脅威をその身を持って体験したバンキシャ部の総意は「このままじっとしていてほしい」だった。最低でもカップルとそれ以外の見極めくらいはつけてほしいものだ。
そんな噂に翻弄されてることなく、プロレス男に一切臆せず、むしろそんな屈強な男を奴隷にしてやろうと企んでいるが、弓原ノエルその人である。
首輪をされた男に担がれたノエルはバンキシャ部の部室を潔く開け放った。
「あんたらに家宅捜索のお達しが来てるわ」
「ここはいつから家宅になったのでありますか」
「御託はいいから、さっさと席を外しなさい」
昨日の今日でもう部室の捜索に来るとはなんと鼻が利く女なのだ。まさか昨日の侵入がバレてたわけではあるまい。
三人は目配せをし、重要なデータのありかを確かめ合った。
流石に部室で保管しているわけない。あのUSBメモリーは絶対に分からない場所に隠してある。
だがそんなことはつゆ知らず、風紀委員会は部室をひっくり返す勢いで、何かを探していた。
「いったい何を探しているのだ。なにも持っていないぞ」
雷伝がそう言うと、ノエルが睨みつけた。
「黙りなさい」
「どうせあと二日で停部も終わるのです。僕たちだって二日くらいは大人しくしていますよ」
岩寺がそう言うと、振り返り、大股で近づいてきた。
「あんたらは一週間、部活をしなければ廃部になるそうでしょ? それなのに、何もせずにただじっとしてるような女じゃないわ、雷伝未知留!」
「そうなのか」
雷伝は惚けた顔で二人に問いかけた。
「初耳であります」
大根演技で答える一風に、
「ええ、ヤバいじゃないですか」
棒読みで驚く岩寺。
「我らが受けたのは停部だ。廃部じゃない。あと三日で大スクープを持って不死鳥のごとくを復活する。それが我らバンキシャ部だ」
雷伝はしたたかな笑みを浮かべて、やれるものならやってみろという口ぶりでそう言った。
ノエルの前で大言壮語を吐き捨てた雷伝に対して、大きな舌打ちをした。
「あんたらの身体検査もするわ。両手を広げなさい」
言われるがままに三人は両手を広げた。そしてノエル直々に隠して持っているものがないか確かめる。
雷伝が終わり、一風が終わる。そして最後に岩寺の身体検査へと移った。
学ランに触れるとその奥になにやら硬いものを感じた。
「このごつごつして、全身に張り巡らしているものは何?」
「これですか……」
岩寺はそう言うと、勢いよく学ランのボタンを開け放った。すると緋色の綱が全身を締め上げてる。
「あんた何を付けて学校に来ているわけ……」
「校則で下着類の着用は認められていますよ」
「誰もこれを下着だなんて言ってないわよ。いいから早く終いまなさい」
「もう宜しいのですか」
「まだよ」
ノエルは次に下半身の検査を始めた。すると股間のあたりに妙に硬いものがあった。棒状で垂直に立っている。
「この堅いものは何?」
「ノ、ノエルさん。あまり激しく触られるものですから……」
岩寺が顔を赤らめながら気色の悪い声を出すと、悲鳴を上げてその硬い物体から手を放す。
「あんたまさか……!?」
「言わせるつもりですか……」
「この変態!!」
男たちに首輪をさせてペットのように飼っている女がよく言う。
「今日のところは撤収よ」
ノエルは逃げるように立ち去った。
ぐちゃぐちゃになった部室で立ち尽くす三人。嵐は過ぎ去った、まるで竜巻のような嵐だった。
「最低な作戦だったがうまくいったな」
雷伝がそう言うとと、岩寺がズボンの中に手を突っ込んだ。
「触れていたのにもったいないですね」
そう言いながら、ズボンいやパンツの中をまさぐり、取り出したのは防犯カメラのデータが収められたUSBメモリーである。その生臭いをブツを掲げながら不敵な笑みを浮かべ、勝利の凱旋として部室を一周、くるりと回った。
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