第25話 深夜の学校

 部室に戻った雷伝は皆を集めた。

 バンキシャ部の三人及び、望月で恒例の御前会議を開いた。眼帯に手をかけ、椅子に足を組んで座り、ブレザーの中で腕を組む。

 視線を目に天井に向けてから、何かが降ってきたように目を見開くと、高らかに宣言をした。


「学校の防犯カメラのデータを盗む」


「今、何とおっしゃいましたか」


 一風が他の二人が思ったことを言葉にして、聞き返す


「防犯カメラのデータに残った映像で証拠を突きつけるのだ。盗むデータは一つ、コピー室の入り口が映っている中庭第三カメラだ。そしてこの防犯カメラのデータは学校が管理しているが、何か事件が起こらなければ見られることはない。まだそのデータがサーバーの中に残っているのはずだ」


「しかしそれをどうやって盗むつもりですか。流石の僕たちでもハッキングは出来ませんよ」


「学校に直接侵入して、管理用サーバーからデータを抜き取る」


「確か防犯カメラのデータは一か月毎で削除されているはずだぞ。あんたの話を聞く限り、最初の犯行が起こったのは一か月前の明日だ。やるなら今日しかねぇな」


「望月の言う通り時間がない。だから今日の深夜、決行とする」


「急ですね……」


「学校に侵入し、データを盗み出すほかこの状況を打開できる手段が思い浮かばなかったのだ」


「簡単に言いますが……」


「まぁ簡単では無かろうな」


 一宮の証言は取れたが、ここから先は確固たる証拠が無ければ先に進めない。文書として残している可能性も考えたが、何と言ってもここは学校である。これが学校の外、広い世界で起こった事件なら、指令した文書が出てくる可能性が考えられるが、恐らく口頭で連絡を取っているだろう。

 仮にメールで連絡を取っていたとしても、一宮へ指示を出したノエルの履歴を盗めば済むわけでもなさそうだ。雷伝はノエルの奥にある影を見た。つまりパソコン部に潜む公開前の情報を流出させたジョーカーである。

 一宮からノエルの話を聞き、ブレッドⅡでその時間帯の動きを調査してもらったところ、ノエルにはアリバイがあった。いくらブレッドⅡとはいえ、全校生徒全てを把握しているわけではない。しかしノエルや青橋のなどの有名どころとなれば、その動きは抑えているし、ミミに関しては望月がスペシャリストとして動向を完璧に把握している。

 この三人に関しては確かなアリバイがあるため実行犯でない無いことは確かだ。

 だが一宮に対して指示を出したのはノエルである。ここで魔窟に向かい話を聞こうとも思ったが、簡単に口を開くはずがない。

 ノエルが言い逃れできないような証拠を突きつけるためにも実行犯の映像がどうしても必要だった。


「隠密作戦ですか。自分はやってもいいと思います」


 一風がそう言って、目を光らせた。


「それしかないですよね」


「やるなら本気でやる。防犯カメラの処理とか侵入経路の確保は俺に任せておけ」


 最初はその突飛な作戦に驚いた三人だったが、十分に理解し、最終的に前向きに話を進めてくれた。聞き込みだけでは限界がある。何かを掴むためには必ずこのような実践的な動きが必要なのだ。


「よし、じゃあ放課後はこれで解散だ。今日の0時にまた会おう」


 今日の今日で作戦を決行する。解散したのが十七時だから作戦開始まであと六時間程度しか残されていない。侵入するための計算やデータを盗み出すための準備を行うために今日の部活は早めに解散とした。

 それでも時間は圧倒的に足りなかった。今日を逃せばもう最初のデータは手に入らない。三つ揃えなければなんとでも言い逃されてしまう。

 雷伝は急いで家に帰ると、ベッドに寝転んだ。ニッパーやドライバーなどの道具は岩寺が用意してくれるらしい。そしてメモリーカードやコードなどの電子機器は望月が用意すると言っていた。

 雷伝がやることは学校地図を入念に確認すること、そして統率を取り、盗み出す勇気を持つこと。ただそれだけだ。

 夕食を食べ、地図を確認し、時計を見た。

 時刻は二十三時三十分。もう出発の時間だ。

 外に出ると、大きな満月が浮かんでいた。月明かりが強いのは好都合だ。この満月が雷伝たちの味方になることを祈る。

 所定の時間、丁度に到着すると既に校門の前で三人が待っていた。皆、一風が持ってきた特殊部隊用の迷彩服を着ている。

 全身が真っ黒で闇に紛れやすいに仕様になっているらしい。


「部長遅いですよ、こっちの準備は整っています」


 岩寺が言った。


「部長殿、戦闘服です」


 一風からその名作服を受け取り、袖を通す。


「心の準備は大丈夫か」


 望月の言葉に深く頷くと、夜風で轟々と唸る堅牢な校舎を見上げた。


「状況開始だ!」


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