第20話 足取り

 望月の交渉は失敗に終わった。

 パソコン室に入ろうとしたらしいが、扉の前で止められたらしい。情報の流失が起こったパソコン部では警備が強化され、部員以外の立ち入りが固く禁じられている。現在のパソコン室はいかなる生徒でも入室はできない

 そのためミミと交渉することも困難であり、望月は門前払いを受けたのだ。


「ダメだったか……」


「どうやらいまのパソコン部は部外者と話し合う気はさらさらねぇみたいだぜ。これじゃあ真相の確かめようもねぇよ」


 落胆する一行を横目に雷伝が呟いた。


「こうなったら外から埋めていくしかないな」


「どうするのでありますか」


「千里の道も一歩よりだ」


 こうなることが分かっていたかのように雷伝の対応速かった。たった一週間しかない猶予がない、落ち込んだり足踏みをしている暇などはない。二の手三の手を常に考えて行動しなければ、光陰は矢のごとく迫ってくる。

 矢

 望月と岩寺には引き続き、ミミの動向調査と裏サイトの監視。そして一風には拭いきれない青橋の動きに注目するようにと矢継ぎ早に指示を出した雷伝が向かった先はコピー室である。

 ここには広報委員が常駐している。放課後のこの時間帯なら、恐らく作業を行っているはずだ。

 雷伝はブレザーをなびかせながら颯爽と新校舎一階へと足を進めた。


 廊下の一番奥に位置するコピー室。ここに入るのは初めてである。

 ノックをし、扉を開けると、中には眼鏡を掛けた男が二人いた。


「バンキシャ部の雷伝だ。話を宜しいか」


「バンキシャ部? ああ、そう言えば停部になったんだってな」


 噂が流れるのは早い。もうすでにここまで広まっている。


「少し確認したいことがあって」


 雷伝はそう言うと、すり替えられた三枚の資料を取り出した。


「この三枚の記事とこっちの記事、どちらを掲示したか覚えているか」


 二人は顔を見合わせて、そのポスターを受け取った。


「いやぁ流石かに一週間も前のことだから。どっちを掲示したかなんて覚えてないよ」


「そうか……」


 学校の掲示物は全てのこの広報委員によってコピーされ掲示板に貼り出される。もしもすり替えるならここしかない。

 あれだけの人気を博したバンキシャ部の掲示物だ。それを一枚一枚、剥がしてすり替えるにしてはあまりにも目立ちすぎる。


「普段、掲示物はどのようにして管理しているのだ」


「他の部活や委員会から受け取ったデータをプリントアウトしてコピーしたやつは全てその段ボールにいれて管理しているよ。それを当番が張り付けているんだよ」


「いつもはどのくらいの時間帯に掲示を?」


「そうだな、早番と遅番があって朝のホームルームの前と放課後のどちからだな」


 雷伝はそれを聞き、段ボールを見つめた。

 犯行が起こったとすれば、ここであった記事と偽装された裏サイトのパクリ記事をすり替えたこととなる。


「申し訳ないが、この記事を貼り付けた人物を知ってるか」


 雷伝がそう言うと、二人は首を傾げた。


「シフト表はあるけど、これがいつ掲示されたのかまでは誰も把握していないよ」


「いや確か俺、覚えているぞ……」


 もう一人の男がそう言って、額に手を当てる。男は受け取った記事をじっと見つめていた。


「本当か」


「結構おしろい記事だから、覚えているんだよ」


 男はそう言うと三枚のうち一つの記事を雷伝に向けた。


「これ読んだわ」


 それは正真正銘、岩寺が書いたリーク記事だった。


「詳しく聞かせてくれないか」


「確か先週の水曜日だったけな。俺は早番の仕事があって、朝だけコピー室に来たんだ。そんでその放課後に忘れ物をしたことに気が付いてよ。それを取りに来たらこの記事が目に留まったんだよ」


「ちょっと待ってくれ、それはこちらの記事ではないんだな」


 雷伝がそう言って裏サイトの記事を見せる。


「いやこれじゃない、こっちだ」


「じゃあその掲示はいつ行われたんだ」


「放課後、ここに置いてあったということは次の日の朝だな」


 つまり記事は前日の放課後まではすり替えられていなかったということになる。正確にはこの男がコピー室に訪れるまでだが、考えられるとすれば部活動が終わった夕刻か早朝のどちらかだ。


「てか、どうしたんだ。そんな血相変えて」


「いや、実は盗作して訴えられた記事がどうも違うんだ。つまりバンキシャ部で書いた記事と掲示された記事に差異が生まれている」


「まさか……コピー室の戸締りはちゃんとしているはずだぞ」


「いやいや、待てよ。確かに俺が先週の水曜に来たときには鍵が開いていたような」


「なんだって! そんな馬鹿な。鍵はその日の当番が管理してるはずだぞ」


「つまり故意に鍵を開けて犯行手助けをした奴が紛れ込んでいるということだな」


 雷伝は鋭い目を向ける。


「おいおい、そうなったら俺たちも問題だぞ。ちょっと委員長に相談してみるよ」


「分かった、協力を頼む」


「ああ」


「最後にいいか」


「なんだ?」


「そのシフト表を貰えたりはしないか」


「それは校則で禁じられているんだ。委員会の内部情報を他の生徒に渡すことはできないよ」


「そうか、分かった」


 雷伝はそう言ってコピー室を去っていった。

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