第19話 ミミ
「なんだそのヤバそうな同盟は……」
雷伝が身震いをする。
性犯罪のテロリスト集団ではないか……
学ランを開け放ち、Rというマークが刻まれたキャップを深くかぶった男が、ポケットに手を突っ込んでずかずかと入ってきた。
「幼女を馬鹿にしないことだな、あんたらも昔は幼女だったんだぞ」
そう言う問題ではない。論点がずれていることを堂々と言っている。
「というかなぜ室内で帽子をかぶっているのですか」
一風が聞いた。それは一風も同じではないかと皆が思ったが、そこにツッコミを入れる人間は誰もいなかった。
「それは僕が説明しましょう」
岩寺が出てくる。
「望月は僕を越えるスペシャリスト。エロに大切なのは目、だが目線が悟られてしまえば、エロを手に入れることだって困難を極める。そこで望月は帽子を深くかぶることによって目線を悟られず、幼女のパンチらを常日頃から狙っているのです」
キラン、望月が帽子のつばを上げウインクした。だがその視線は胸と足にしか言っていない。
「ろくな理由じゃないな」
「そんなことはねぇよ。ハリウッドスターがなんでサングラスをかけているか知っているか。あれはブロードウェイを歩く女優の足とおっぱいをパパラッチに悟られずに見るためなのさ」
「絶対違うだろ。ハリウッドスターに謝れ!」
「そうとも言えません。あれは去年の夏休みです」
岩寺が語り始めたのは二人の思い出話だった。
この二人は去年の夏休みにサングラスをかけて海に行った。
海に来たのに海水浴をするわけでもなく、ビーチバレーをするわけでもなく、はたまたま海の家で美味しいものを食べるわけでもなく、ずっと更衣室で父に連れて入って来る幼女を待っていたのだ。
さらにこの二人、花見シーズンが始まれば、シートに座った時に見えるパンチらを拝むために花見スポットを転々と巡るし、行楽シーズンが始まればジェットコースターの下で首を痛めるまで上を見続ける。
公園への視察は欠かせず、土日の午前中と平日に午後には必ずベンチに座っていた。幼稚園から母に連れられて訪れた幼女が遊ぶ時間、そして小学生帰りの児童が遊ぶ時間、公園別の時間帯を把握しており、その都度公園に張り込んでは神風を待っている始末。
二人はエロ仲間であり、親友なのだ。
「ちなみに僕の眼鏡も伊達眼鏡ですよ」
「えぇぇぇ!!」
これだけ一緒にいたのに気が付かなかった。
「視力は2.0もありますから」
「岩寺は無駄に眼鏡を光らせて、視線を悟られないようにしているだけだ」
望月にそう言われてみれば、やたらとレンズが反射していたように思える。まさかこの眼鏡がハリウッドスターのサングラスの役割をしていたとは……
眼鏡をクイッと上げ、レンズを光らせた。
「まぁ最低な人間であることは分かったよ」
軽い紹介、いや内容としてはかなり重い紹介が終わり、いよいよ本題に移る。
「確か、あんたらミミの情報が欲しいんだろ」
「パソコン部の部長のことです」
「そんな名前だったでありますか」
「ミミっていうのはあだ名だよ。本人がそう呼ばせている。一つ忠告しておくと本人の前で絶対にフルネームを口にするなよ。殺されるからな」
「なぜでありますか」
「自分の名前を嫌っているからさ」
望月はそう言うと、自身が持ってきたノートパソコンを見つめた。
「あいつはあまり部活に来ていない。部長なのにほぼ幽霊部員なんだよ。だが裏サイトの運営中枢があのパソコン部にあるの確だ。直接に話を聞きに行くのが手っ取り早いがなかなか会うのは難しいのも事実」
望月は渋いかをしたがキーパットのエンターキーを押すとはにかんだ。
「だが今日は都合がいいことに……来ているな」
「本当か」
「直接会って話すにしても、向こうからすればこっちは敵だ。そうやすやすと話を聞いてくれるようには思えない。だが行ってみる価値はあるかもな」
「ちなみにミミのスリーサイズは……」
「ああそうれはどうでもいい」
雷伝が言葉を遮った。
一行はパソコン室のある新校舎に向かった。
普通の授業で使われている教室のため、人の出入りが激しい。そのためミミと二人で話すのは難しそうだ。
「あんたらはここで待っていろ。俺が連れてくる」
階段の踊り場で三人は待たされた。
「そんなことできるのでありますか」
「ああ、大丈夫だ」
階段をかけが上がる望月。その姿を見送った岩寺が説明する。
「僕が望月を呼んだ理由はミミに詳しいということ以外にもう一つあります。僕たちは運営のいわば宿敵、話を取り合ってくれないでしょう。だがバンキシャ部ではない望月が間に入れば、話が通じるかもしれない」
「なるほどな……」
雷伝は深く頷いた。
待たされること五分、上の階から望月が降りてきた。
「交渉は失敗だ……」
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