第4話 軍師誕生

『超!魔法少女伝説~時空の果てに~』


 大変! 目が覚めてカーテンを開けると、「どこよここ!」

 日本じゃない!? 中学生ながら魔法少女のあたし、綺羅星きらぼしキララがまさかお家ごと宇宙の彼方に漂流だって!!


「パパもママも旅行でお家にいなし……てかお家ごと宇宙に来ちゃったの!? どうしよう早く帰らないとパパとママがホームレスになっちゃうよぉぉぉ」 


 これも悪の総統カイザーガルガドスの仕業なの? 戸惑いながら外に出るあたし……すると大変、「おじさまが倒れてるじゃない!」


 しかも軍人さん。まさかのここは戦場?

 魔法箒ホーリーギアでおじさまを乗せて基地までひとっ飛び。

 戦車は魔法で破壊しちゃった☆

 基地に着いたらまさかあたしが巨大ロボットのパイロットに抜擢!?

 おじさまは元帥閣下だったんだって、本当に驚きよね。


 よーし初陣だ!! 

 天から降りてくるロボット兵団。「ちょっとこのロボット超強いじゃん!!」

 あたしが一網打尽にすると、中からボンテージ姿の女王様が!!


 いよいよ、女同士の頂上決戦が今始まる!!

 そのころ、元帥の息子は戦争そっちのけでロリ系幼馴染といちゃいちゃしていたとさ……


「うん、わけが分からない☆」


 書き終えた雷伝は一読してから紙を丸めた。

 当然ながらこの案は没になったのである。

 

 次の日の放課後。


「御前会議を始める!」


 昨日と同様のポーズで叫んだ。

 今日はあまりにも外が寒いため、今回は雷伝の家で行われた。三人はリビングのこたつに入りっぱなしで、猫のように丸まっている。


「昨日の案はどうなったのでありますか」


「一応、まとめたものを見るか……」


 雷伝がしわくちゃの紙切れを取り出し、まとめたストーリーを音読した。

 案の定、二人は絶句する。


「これは酷い……」


 岩寺が震えた声で言う。


「我らはアニメを見るのが好きなのだ。決して作るのが好きなわけではない。第一にこの中で絵が描ける者はいるのか」


 当然ながら誰も手を挙げなかった。


「つまりそういうことだ」


 今頃になってやっと気が付く。この三人はろくに絵が描けないのにアニメを作ろうとしていたのである。


「ですがアニメ部の活動で思いつくものは……」


 そんなものはない。アニメはただの娯楽であり、それで競い合うわけでもない。同じ娯楽でもゲーム部のほうが対戦という点で部活動に則っている。

 アニメを観て、語り合う。生徒会室にて、このことを念入りに説明したが、それを部活でやる意味を問われると、答えることが出来なかった。

 熟考する三人、時間だけが刻々と過ぎて行く。


「やはりここは生徒会室に強襲を仕掛けるというのはどうでしょうか」


 やっと口を開いたのは一風だった。


「強襲……」


「つまり生徒会室に向けて電撃作戦を仕掛けるのであります。まずは我らと生徒会と不可侵条約を結びます。それを一方的に破棄して攻撃です。こうなれば戦争ですぞ部活殿。やむを得ない時は相手の虚を突いた奇襲作戦しかありません。それで一発逆転を狙うのです」


 一風の意見はまさかの武力行使だった。

 要約すればこうである。

 雷伝が青橋に対して謝る。アニメ部の廃部を認め、放課後に旧校舎の教室に滞在しないことを誓う。

 そして隙が出来たところに一風と岩寺が突っ込み、袋叩きに。

 ボコボコにされた生徒会長はアニメ部の廃部を撤廃。


「なんたる卑怯な……そして何たる恐ろしい計画……」


 雷伝が身震いしながら言った。


「歴史を見ればこのくらいのことどこの国もやってきました。大英帝国を見習うのです。戦争に二枚や三枚の舌は当たり前です」


「うーん、それもやむを得ないか……」


 雷伝が頭を悩ませながら、渋々言った。


「先輩方、一つお忘れでないかと……」


 岩寺が少し、俯きながら異を唱える。


「生徒会長の青橋星美には完全無欠のボディガードが付いております」


 そう言えばそうだった。生徒会室に連行される時、廊下で大男が待ち構えていたのだ。

 身長は二メール近く、肩幅もとんでもなく広い。顔はゴリラみたいな顔をしていて、到底高校生……いや人間にすら見えない風体。

 あんな男とぶつかれば、軽トラに跳ねられたくらいの怪我をしそうだ。


「あの男か……」


 蒼褪める雷伝。一風の作戦を実行しようものなら、アニメ部復活どころではない。命の危機にさらされてしまう


「生徒会副会長、赤頭大樹あかがしらだいき。巷では鬼の副長と言われております」


「……まさか土方がこの学校に」


 一風も同じく蒼褪めるのだった。


「なぜそんな男が生徒会にいるのだ?」


「話によりますと、ラグビー部のエースだった彼は腰を痛めて退部することに。その穴埋めで生徒会に入ったとか。もしくは無頼の巨乳好きだったので生徒会に入ったのとの噂もあります。ただ一つだけ確かなことが在るとすれば、喧嘩で勝てる者はいないということです」


「まさしく街道の怪物と呼ばれたKV-2を彷彿とさせる男でありますな」


 一風が眉間にしわを寄せた。

 岩寺の説明を聞いた雷伝はじっと何かを考えている。


「巨乳好き……」


 おもむろに呟く雷伝、二人の視線が集まる。


「赤頭大樹、もしかしたら使えるかもしれん」


「どうするでありますか部長殿。流石にティーガーでもパンターでも太刀打ちできないのですぞ」


「フフ……フッハアハハハハハ」


 いきなり高笑いをしながら立ち上がる雷伝。二人は目を細めて見つめた。

 眼帯に手をかけ、低い声で言う。


「この目に確かに見えたぞ。勝利への道筋が!!」


「な、なんでありますか」


「我の妙案を心して聞くがよい」


 雷伝は野性的な白い八重歯を光らせ、目を見開いた。

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