第5話 復讐の決意

「あの男を協力者にしたてあげる」


「部長、それはあまりにも無謀です。先ほど赤頭は巨乳好きと言いましたが、生徒会長を心の底から慕っているのは事実です」


 岩寺が焦りながら言った。


「そうでありますぞ、自分らの調略で副会長が離反するとは……」


「そこを逆手に取るのだ」


 雷伝は確信があった。一昨日、生徒会室にて折檻を受けている時に見た赤頭のあの目。その目を鮮明に思い出した。

 冷徹にアニメ部の廃部を進める青橋をじっと見守る赤頭。その尊敬のまなざしの向こうに一輪の恋心を見た。


「赤頭は確かに青橋のことを尊敬している。だが同じくらい〝異性〟として好いている。この二つの感情はあの男の中で入り乱れて、ぐちゃぐちゃになっているはずだ。告白しても自分なんか相手にされない。そんな卑下した気持ちはある一つの感情を産み落とす」


 雷伝は人差し指を上げ、注目を集めた。


「悶々だ」


「絶賛片思い中の為、赤頭は歯がゆい気持ちになっていると……」


「そうである」


 雷伝は一風の顔を見つめながら深く頷いた。


「具体的にどうするのですか」


 エロのこととあれば目が変わる岩寺。指で眼鏡のフレームを抑え、顔つきが変わる。


「青橋の盗撮写真で揺すってやるのさ」


 二人は息を飲んだ。

 あの岩寺さえ怖気づいた顔をした。

 この作戦、完全に一か八かだ。もしもそれでうまくいかなければ、三人は袋叩きにあった後、盗撮犯としてつるし上げられて学園生活が終了する。

 そうなればアニメ部どころではない。元から無かった居場所がさらに無くなり、目も当てられないような迫害をされるだろう。


「これは賭けだ。ビビッて無理はない。だがこの作戦が最も可能性がある」


 黙り込む二人。そこまでしてアニメ部を奪還する必要があるのか。

 岩寺は膝に手を突き、じっと考える。そして顔を上げ、はっきりした声で言った。


「やりましょう。僕は部長についていきます」


「うむ、分かった岩寺」


 残すは一風。元々一風はアニメはたまにしか見ない。ならなぜこの部活に入ったのかいささか疑問だが……

 わざわざあの部活に戻る必要などはないのだ。確かに教室に居場所はないが、旧校舎のあの教室でなければならないと理由はどこにもない。


「自分は……」


「灯……」


「自分もついていくであります!」


「本当にいいのか。失敗すれば……もう」


「作戦を立てた本人が怖気づいてどうするのです。自分はアニメ部に入隊したあの日から部長殿についていくと決めたであります」


 盗撮という一世一代に大勝負を前に、誰一人降りる者がいなかった。この事実、この友情、そして最高の信頼に涙が溢れそうである。


「分かった。二人の気持ちは痛いほど分かったよ。絶対にアニメ部を取り返そう。我らの楽園ヴァルハラはあの場所しかないのだ!」


 心を決めた三人。血判状は無くとも腹は決まっている。

 いよいよ前代未聞の部活復活劇がここに始まった。


「まず始めに、どのようにしてアニメ部を復活させるかだ。いまのまま活動内容不在ではすぐに摘発対象として挙げられるだろう」


「自分たちが奪還したいのはアニメ部でありますか」


 一風が言った。


「どういうことだ?」


「先ほど部長殿は『我らの天国ヴァルハラ』とおっしゃいましたよね。言うなれば、自分らが奪還するのはアニメ部ではなく、あの部室ということでよろしいかと」


「脅して申請したとしても、僕たちに対して復讐の芽があってはすぐに次の手に出てくるでしょう。生徒会が認めざるを得ない活動、つまり確かな実績が無ければなりませんよね」


「我らたちが出来ること……確かな実績……」


 雷伝はこたつの上に置いてあった新聞に目を向けた。それは朝、父が会社に行く前に読んでいた今日の朝刊だった。

 一面には芸能人の不倫の記事が大きく掲載されている。まじまじと見つめる雷伝、そこである一つの案を思いついたのである。


「分かったぞ、我らも部活を奪還し、なおかつ生徒会に対して復讐し、その上全校から指示を得られる活動が……」


 雷伝は新聞を持ち上げて、不倫報道の記事を指さして言った。


「復讐だ――」


「生徒会だけじゃない、我らをコケにしてきたビッチとチャラ男、さらにはそいつらにデレデレのクソ教師。クラスの片隅で小さく丸まって生活をしていた我らがついに反旗を翻すときが来たのだ。これは部活ではない、下剋上だ!!」


 雷伝が新聞を叩きつけた。


「バンキシャ部……この部活申請書を赤頭に認めさせる」


 それを聞いた二人は目を合わせた。

 アニメ部ではなく、生徒たちの闇を暴く、『バンキシャ部』

 アイコンタクトを取りながらお互いに思った、いい響きであると。


「やってやるであります!」


「ええ、僕も賛成です」


 ――運命の生徒総会まであと五日。

 三人の劣等感まみれの青春がいま動き出す。

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