第3話 御前会議

 次の日


「これより緊急御前会議を始める!」


 その御前会議はもはや屋内ですらなかった。冷たい風が吹く公園。後ろでは小学生くらいの子供たちが遊んでいる。

 遊具の頂点に登った雷伝が拳を点につき上げけて言った。


「我々は危機に瀕している!」


「今、最も危機に瀕しているのは部長殿のパンツであります」


 一風の言う通り、風でなびいたスカートから見え隠れするパンツを男子小学生が遊びそっちのけで凝視していた。


「ピンクだ」


「ピンクですね」


 小学生と一緒になって見つめる岩寺。


「このマセガキ! あっち行け!!」


 雷伝に怒鳴られる小学生、その横で岩寺が物欲しそうに見つめていた。


「うん、お前は普通に話を聞け」


 懇願も虚しく冷静に注意され、肩透かすを食らう。

 だが雷伝は何事も無かったかのように、もう一度最初から話始めるのだった。


「我々は危機に瀕している! 我がアニメ部は廃部となってしまった。それによりあの教室を使うことはもうできん。このままでは何の楽しみも無いクソみたいな学園生活に逆戻りだ。せっかく我々が築き上げたあの場所をまんまとデカ乳お嬢様に分捕られてたまるか」


「そうだ! デか乳反対!!」


 岩寺がヤジを飛ばした。


「自分も激しく同意であります!!」


 そうれに追随する一風。


「デか乳反対! デか乳反対!」


 高校生の二人が白昼堂々、おっぱいに対してのシュプレヒコールを行っている。

 比較的胸のサイズが大きい雷伝はわざとらしく咳払いをする。


「重要なのはおっぱいではない、我らの部室だ」


(まぁあたしよりデカいのはムカつくけど……)


「部長殿何かおっしゃられましたか」


「な、なにも言っていない……話を戻すぞ。我らは部室を奪還しなければならないのだ」


「とは言っても、どうやって取り返すでありますか」


「うーん、それが今回の議題である」


 三人は遊具の下で胡坐をかき、じっと考えた。

 現状ではどう考えてもあの生徒会長を決定を覆せるとは思えない。幸いなことに部活既定の人数は最小限ながら到達している。残すところは活動をしているという正当性だけだ。だがそこが一番ネックである。

 そのそもアニメ部とは元々どのような部活だったのだだろか。入部してから考えたこともなかった。

 一年生の時は二年生も三人年生も幽霊部員で、一風と二人きりだった。そして二年生になり、後輩の岩寺が入ってきて三人。そして今に至る。

 元より、部活であるからには顧問が居るはずだ。しかしその顧問を誰も見たことがない。雷伝が部長であることも成り行きで決まった。本当にアニメ部などあったのだろか。改めて考えると不思議である。


 会議が始まってから十分後、最初の案が出された。


「ここはアニメ部らしくアニメを作ってしまうというのはどうでしょう」


「我らでか……うーん、確かにそれなら正当な活動ではあるな」


「制作したアニメを生徒会の連中の前で放映してしまえば何の文句も言われないでしょうしね」


 岩寺が加えて言った。

 アニメ部ならアニメ制作、安直ではあるが確かに良案だ。


「よしそれでいこう」


 雷伝がゴーサインを出す。


「あらどんなアニメを作るかですね」


「それならやはり、戦争モノであります。一人の兵士にスポットライトを当て、その兵士の活躍をワンカットで映し出すのであります」


「戦争モノ……それなら宇宙戦争のほうが盛り上がるだろうな。アニメならアニメならではのものを作らなくてはならん」


「確かにそうですね。映画に代替え出来てはアニメである意義が問われます。パンティもスカートというベールに包まれているからこそ見る価値があるのですから」


「パンツは見るなよ……」


 嘆息した雷伝は話を続けた。


「宇宙戦争なら大型宇宙戦艦が星の存亡をかけて戦う。主人公はパイトロットだ。だが実は主人公には国の存亡などは興味がない。一人の女性のために戦うのだ」


「パイロットなら空母から飛び発つシーンは圧巻でありますな。カタパルトの構造は念入りに決めましょうぞ」


 一風もかなり興奮している。


「戦争という政治的な問題は一人の青年を使い等身大で魅せる……それならその女性はロリ系幼馴染が妥当でしょう。ツンデレでいつも主人公のことをいじめているけど、本当はそのいじめだって隙の裏返し、最終回では二人が結ばれて終わり」


「いいのが出来そうではないか」


「それなら部長殿、宇宙と手地上戦は必須です。戦車団による大迫力戦闘はこのアニメの最大の見せ場となるでしょう」


「ただ機械だけが動くアニメでは役不足です。それなら戦場を舞う魔法少女の登場が必須ですよ」


「いやいやそれなら巨大ロボットも必要だろう。皆が観たいのは魔法や砲撃による選ではないロボット同士の肉弾戦なのだ」


 それから議論は白熱した。

 お互いが式な事を出来るだけ組み込み、この三人ならではのシナリオが構築していく。

 御前会議は思いのほか、盛り上がった。そして気づいた時には日が暮れている。

 こんなことがいままであっただろうか。いつもダラダラして飽きたら帰っていたアニメ部。思えはいままでで一番部活らしいことをやっている。


 ――ハ、ハ、ハックション


「部長殿、『天なお寒し、慈愛せよ』でございますよ」


「そうだな。もうこんな時間か……」


 くしゃみで出た鼻水をポケットティッシュで拭き、公園の時計を見上げながら言った。


「確かに冷え込んできましたね」


 岩寺も同意見だ。


「よし、そろそろ切り上げるとするか」


 雷伝は立ち上がり、ブレザーをなびかせる。


「では今回の御前会議で出たアニメの案を我がまとめてくる。それでは解散だ!」


 雷伝はその日の夜、夕食を食べ終わり、自室に戻るとすぐに皆の案をまとめて、一つのストーリーを作った。

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